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【現役料理人が執筆】名を呼ばれた日、進化が始まった 〜召喚レッサーパンダの魔獣物語〜  作者: 幸辰


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交差する三つの模擬戦 第107話

戦いが終わり、しばらくの時が過ぎた……。


緊迫した模擬戦の余韻が未だに漂う副庭には

どこか引き締まった冷気が残されていた。


サイラスとニコの戦いがもたらした深い静けさの中で

それぞれの胸に去来する思いを飲み込むように

一同はしばし沈黙に包まれていた。


ニコの決意表明が静かに響いた後

空気を切り裂くようにサイラスの声が発せられた。


「私のわがままで、貴重な時間を無駄にしてしまい

申し訳ありませんでした……。

突っ立っていても修行になりませんので

気を取り直して模擬戦を始めて下さい」


サイラスはそう言って姿勢を正すと

クルツへとまっすぐに視線を向けた。

「クルツ殿、ベイルと模擬戦をお願い出来ませんか?」


「はっ、はい、構いませんよ」

クルツが突然の指名に目を丸くしつつも、すぐに笑顔で了承した。


「ベイル! そういうことだ、いいな。

しっかり盾の使い方を学ばせてもらえ」

サイラスが厳しい視線を飛ばしながらはっぱをかける。


「はい! 頑張ります!」

ベイルが身を引き締め、大きな声で力強く返事をした。


続いて、サイラスは視線を横に走らせる。

「ルーナさん、ザックと模擬戦をお願い出来ますか?」


「はい、私で良ければやらせていただきます。

ザックさん、よろしくお願いします」

ルーナが穏やかに、笑みを浮かべて一礼した。


「はい! ルーナさん、よろしくお願いします」

ザックが、格上の相手を前にして

わずかに緊張した面持ちで元気よく返した。


「ザック! お前は自分より速さに勝る者との

戦いの経験がないだろ、しっかりついていけよ」

サイラスが鋭く念を押すように言いつけた。


「はい……! 全力で食らいつきます!」

ザックが闘志をみせる。


「副隊長! 俺は誰と戦えばいいですか?」

カイルが取り残され、不安そうな声を漏らした。


「アカネさん、身体はほぐれましたか?」

サイラスが、先ほどから準備運動を終え

そわそわしていたアカネに尋ねた。


「大丈夫です! いつでもやれます!」

ニコとサイラスの激闘の興奮をまだ瞳に宿し

アカネが元気よく胸を張って返答した。


「よし。カイルは、アカネさんと模擬戦だ。

アカネさんは女性だが

ニコさんと互角に戦えるくらい強いぞ。

決して油断するなよ」

サイラスがビシッと指示を飛ばす。


「はい!」

カイルが気を引き締めて力強く頷いた。


ーーーー


「それでは、始め!」

クルツの合図と同時に、四組の模擬戦が開始された。


ベイルは正統な構えで大盾を身体の前に据える。

――守るための盾。教科書通りの構えだ。


対するクルツは、盾を斜めに傾け

まるで武器の一部であるかのように携えていた。


「行くぞ」

クルツが低く告げた次の瞬間、地を蹴った。


ドンッ!

盾の縁がベイルの盾へと叩き込まれる。


受けたはずのベイルの体が、衝撃で後方へ押される。

「……っ! こんな、攻撃的な盾の使い方……!」

ベイルが驚愕に目を見開いた。


守るための道具だと思っていたものが

まるで剣のように振るわれている。


その隙を突くように、クルツの木剣が低い軌道から伸びた。

盾で押した体勢を崩したまま、ベイルは慌てて木剣で受けた。


クルツが淡々と告げ、盾と剣を交互に繰り出す。

ドンッ! キンッ!

盾で押し、剣で突く。

盾で弾き、剣で薙ぐ。

まるで二つの武器が一体で動いているかのような

滑らかな連撃だった。


「盾は、受けるだけの物じゃない」


ガキィンッ!

盾と盾が衝突。

重い衝撃が腕に食い込み、盾越しに骨まで軋んだ。


ベイルは踏ん張るだけで精一杯だった。

(……このままじゃ、押し切られる)


ベイルは覚悟を決め、自らの大盾を構え直した。

(――ならば、自分もぶつける)


しかし、ベイルの盾は分厚く、重い。

クルツのように軽やかに操ることはできなかった。


「うおおっ!」

力任せに踏み込み、盾ごと体当たりを仕掛ける。


ガンッ!

重量に任せた一撃が、クルツの盾を弾いた。


「ほう……」

クルツの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


「振り回せなくても、ぶつけることはできる、というわけか」


「これが精一杯です……!」

ベイルは息を切らしながらも、盾を構え直す。


軽快な操作は敵わない。

だが、体重と勢いを乗せた体当たりなら互角に渡り合える

――そう信じて、繰り返し盾をぶつけていく。


しかし、クルツの動きには一切の無駄がなかった。

ベイルの重い一撃をいなし、軌道を逸らし

盾の角度だけでベイルの体勢を崩していく。


「まだまだ、甘いな」

クルツの盾が、ベイルの盾の下端を掬い上げるように打ち込んだ。


「――くっ!」

体勢を崩したベイルの喉元に、クルツの木剣がぴたりと止まる。


「ここまでだな」

クルツが静かに告げた。


「……負けました」

ベイルは肩で息をしながら、悔しそうに膝をついた。


「悪くない食らいつきだった」

クルツが手を差し伸べる。


「盾は受けるだけじゃない、覚えておくといい」


「……はい、勉強になりました」

ベイルはその手を取り、立ち上がった。


――――


一方、少し離れた場所では

ルーナとザックの模擬戦が同時に始まった。


「「よろしくお願いします」」

ルーナが静かに一礼し、腰を落とす。


ザックは一礼し木剣を構え、相手の出方をうかがった。


「行きます」

ルーナの姿が、次の瞬間には消えていた。


「はっ……!?」

ザックが反応する間もなく、横から木剣が振るわれる。


ガキンッ!

咄嗟に受けたが、衝撃で足元がぐらついた。

(速い……速すぎる……)


最初の数合は、防戦一方だった。

ルーナの動きを目で追うだけで精一杯。


だが、繰り返されるうちに、ザックは少しずつ

その動きの癖を掴み始めた。

(……足の運びに、わずかな溜めがある)


一瞬の隙を狙い、ザックが踏み込む。

「――ッ!」

木剣が交差し、鈍い音が響いた。


「……今のは、良い反応です」

ルーナがわずかに目を細める。


その言葉を合図にしたかのように、ルーナの動きが、さらに変わった。

姿勢が低くなり、耳が微かに動く。

まるで、獣が本来の狩りの動きを取り戻すように。


(……速く、なった……?)

先ほどまでとは、明らかに速度が違う。


ザックの視界から、ルーナの姿が消えては現れ

消えては現れを繰り返す。


「くっ……!」

もはや目で追うことすら困難だった。

勘だけを頼りに、木剣を振るう。


かろうじて防いでいるが、それも限界に近い。

(……見えない)


一瞬、完全にルーナの姿を見失った。


背後に気配を感じた次の瞬間――

「――ここまでですね」

首筋に、木剣の切先が添えられていた。


「……参りました」

ザックは大きく息を吐き、その場に座り込んだ。


「見事な粘りでした」

ルーナが木剣を下げ、静かに微笑んだ。


「くそ……途中まではついていけてたのに……」

ザックが悔しそうに呟く。


「その途中までが、大切なんです」


ルーナの言葉に、ザックは小さく頷いた。

「はい、必ず途中を超えて見せます……」


――――

「よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします」


アカネとカイルが、互いに木剣を構えて向き合った。


アカネが幼い頃、カイは地球の剣の達人の極意を紙に書き留めて

教えようと試みたが、幼いアカネは見向きもしなかった。

アカネは、ただ父親と遊びたかっただけだからだ。


一方のカイルは、魔獣との戦いで大怪我をして騎士団を退団し

故郷のリム村で農家を営む父に憧れていた。

父は何も教えてくれなかった。だからカイルは自分で木剣を作り

一人で稽古に明け暮れてきた。


二人とも、幼い頃から剣を「遊び」のように扱ってきた似た者同士だった。


そんな二人の剣が、今、副庭で交わる。

二人とも、構えに迷いがない。


それは、幼い頃から積み重ねてきた者だけが持つ

自然な姿勢だった。


「行くよ!」

アカネが先に踏み込んだ。


軽やかな踏み込みから放たれた一撃!

カイルはそれを難なく受け止める。


「……悪くない」

カイルもまた、迷わず打ち返す。


木剣がぶつかる乾いた音が、リズムよく続いていく。

二人の剣筋には、共通する何かがあった。


アカネの動きには、幼い頃に遊びながら

振り回した剣の独特の名残りが、基本を習った今もなお

自然と体から溢れ出していた。


一方のカイルの剣にも、独特の型があった。

誰にも教わらず、独学で編み出した動き。

それでも、どこか筋の通った、無骨な強さがある。


(親父は何も教えてくれなかった。

だから、自分でやるしかなかった)


木剣を作り、一人で振り続けた日々。

その積み重ねが、今、確かな一撃となって放たれる。


「はぁっ!」

アカネの鋭い一撃を、カイルが受け流す。


「くっ……!」

カイルの重い踏み込みを、アカネが軽やかに躱す。


攻めても、守っても、決定打が生まれない。

二人には、しっかりとした基本がある。

しかし独自に磨いた剣術は、限界に近づくほどに顔を出す。


だからこそ、互いの「読めなさ」が、拮抗を生んでいた。


「まだまだ……!」


「こっちもまだいける……!」

息が上がり、汗が滴る。


それでも、どちらも退かなかった。


やがて、木剣を打ち合う音が止み

二人は同時に、木剣を下ろした。


「……もう、限界みたいだね」

アカネが肩で息をしながら笑った。


「……ああ、俺もだ」

カイルも息を切らしながら、木剣を下げる。


「引き分け、かな」


「そうだな……でも、悔しいな」

カイルがぽつりと呟いた。


「私も」

アカネが同じように呟き、二人は顔を見合わせて笑った。


クルツが、静かに声をかける。

「見事な引き分けだ。二人とも、独自の剣を持っているな」


「独自……ですか?」

カイルが不思議そうに聞き返す。


「ああ。誰かに教わった型じゃない、自分だけの動きだ。

それは、簡単には身につかないものだぞ」

クルツが言った。


カイルは少しだけ、誇らしげに口元を緩めた。

「自分では基本通り戦っていたのですが……」


「私も、クルツさんに言われた通り

基本は大事にして戦ってますよ!」

アカネが言った。


「ははは、それでいいんだよ。

基本はあくまでも基本だ、勝敗を分けるのは

独自の動きが物を言う。

応用力がすでにお前たちにはあると言うことだ」


我が子に、自分の身を守る力をつけてほしい――父の思い。

我が子に、危険な戦いの場へ立って欲しくない――父の思い。


思いは違えども、子を思う親の願いは同じである。


――――


三組の模擬戦が終わり、副庭には再び静かな空気が流れた。


激しい打ち合いで舞い上がった土煙が

ひんやりとした朝の微風にさらわれてゆっくりと地上へと落ちていく。


木剣がぶつかり合った名残の熱気がまだほのかに残る土の上で

それぞれの胸に去来する想いを噛み締めるように

一同は静かに呼吸を整えていた。


サイラスは満足げに全員を見渡し、腕を組みながら小さく頷いた。

「……悪くない。まだまだ足りんが、悪くない」


その厳しくも確かな手応えを含んだ言葉に

クルツが隣で穏やかに微笑みながら声をかける。


「では、次の組へ行きましょうか!」


朝日が心地よい空の下、葉擦れの音がシャカシャカと響き渡る。

誰もが汗を拭い、自らの未熟さと向き合いながらも

次なる高みを目指す確かな熱をその胸に宿していた。

第107話

交差する三つの模擬戦

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回はサイラスとニコのハイレベルな一戦からバトンを受け継ぎ

ベイル、ザック、カイルの騎士団メンバーが

それぞれの対戦相手と向き合う熱いエピソードとなりました!


まずクルツとベイルの戦いでは、クルツの「攻撃的な盾使い」に対して

ベイルが自分の重い大盾で必死に食らいついていく姿を泥臭く表現しました。

軽やかに操ることはできなくても

自分の持てる最大の武器と体重をぶつけていく姿に

ベイルなりの確かな成長と意地を感じて頂けたら嬉しいです。


次に、ルーナとザックの戦い。

獣人であるルーナの圧倒的なスピードに最初は翻弄されつつも

ザックが必死に相手の癖を掴もうと目を凝らす姿にハラハラしましたか?


しかし、互角に戦えたことでルーナの野生が解放され

さらに加速していく絶望的なまでのスピード差……!

それでも「途中までは見えていた」という悔しさと次への決意を

抱くザックの姿は今後の大きな成長を予感させてくれたはずです。


そして、アカネとカイルの模擬戦。

二人が幼い頃からそれぞれ違った環境や記憶

(カイルの父親への憧れと独学、アカネの父親と遊んだ記憶)を

持ちながら、結果として「独自の動き」や「基本に裏打ちされた応用力」を

身につけていたという対比をドラマチック表現し

それぞれの父親との関係

サンとカイの間で「教えたくても届かなかった」思いと

カイルの父が「あえて教えなかった」という対照的な背景を

「思いは違えども、子を思う親の願いは同じである」という一文に収斂しました。



どちらも一歩も譲らず引き分けで終わる結末は

二人の実力が対等であることを示す最高の着地点に

なったのではないでしょうか。


全員がそれぞれの課題や壁に直面し、自分の武器を模索する姿を

描いていて、作者としても非常に楽しい回でした。


次回の訓練がどう展開していくのか、ぜひ楽しみにしていてください!

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