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【現役料理人が執筆】名を呼ばれた日、進化が始まった 〜召喚レッサーパンダの魔獣物語〜  作者: 幸辰


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おとなしい魔獣と夏の恵み 第104話

――魔獣園に到着した


「みんな! 急いで枝豆を食堂に運ぶぞ」

アレンが声を張り上げ、指示を飛ばす。


「「はい!」」

元気のいい返事が重なり、一行は一斉に動き出した。


食堂の扉を開けた瞬間、温かな声が迎える

「おかえり、アレン! みんなもご苦労さま!」

厨房の奥から、サンが満面の笑みで顔をのぞかせた。


その隣ではロルフが、すでに大釜の前に陣取り

大きなうちわで火力を巧みに調整している。


二人はアレンたちの帰還を見越し

絶妙なタイミングで湯を沸かして待ち構えていた。


「最高の枝豆が獲れましたよ」

アレンが軽く合図を送ると

ゴリムたちがずっしりとした足取りで、籠を厨房へと運び入れる。


つい先ほどまで畑で陽を浴びていた、もぎたての枝豆

その青々とした濃い香りが、ふわりと厨房いっぱいに広がった。


「わあ……サヤがパンパン! すっごく美味しそう!」

サンは目を輝かせ、思わず籠へ駆け寄る。


ロルフも大釜の蓋を勢いよく開け

湯気を立ち上らせながら声を上げた。

「湯加減は完璧だ。塩の準備もできてるぞ!」


「アレン、さっそく一気に茹で上げちまおう!」

サンが弾む声で指示をする。


アレンの指揮のもと、畑から厨房へと作業は引き継がれ

魔獣園の賑やかな晩餐に向けた“大茹で”が、いよいよ幕を開けた。


「ゴリムさん、またお願いしてもいいですか?」

ロルフが笑顔で声をかける。


「えっ、また俺ですか?」

ゴリムが露骨に顔をしかめた。


「もちろんです!ゴリムさん以外あり得ません」

ロルフはにやりと口元を歪める。


「仕方ないなぁ〜」

ゴリムは観念したように肩をすくめ、鍋の前へ移動した。


二人は息を合わせ次々と枝豆を鍋に投入した。


――――


「みなさん、私は厨房に戻らせていただきます。

もうすぐ夕食ですので、席についてお待ちくださいませ」

ルーナが一礼する。


「ルーナさん、お忙しい中案内してくださり

ありがとうございました」

サイラスも丁寧に頭を下げた。


「「ありがとうございました」」

ベイル、ザック、カイルが続いて頭を下げる。


「アレンおかえり、遅かったな」

先に戻っていたクルツが声をかけた。


「帰りました。夕方から枝豆の収穫だったので

遅くなりました」

アレンが事情を伝えた。


「あぁ~そういうことか……

じゃぁ~美味しい枝豆が食べられるんだな」

クルツが期待を膨らませる。


「はい、もちろんです」

アレンは少し誇らしげに頷いた。


――――


「サンさん、ただいま戻りました。

何をすればいいですか?」

ルーナがエプロンを手に取り尋ねた。


「おかえり、枝豆がちょうど出来上がる。

ロルフを手伝ってやってくれ」

サンが手早く指示を飛ばす。


大釜のぐらぐらと煮立つ熱湯から

ロルフとルーナが息を合わせて大きな竹籠を

一気に引き上げた。


「ザザザーッ!」と音を立てて湯気が一気に吹き上がり

厨房が真っ白に包まれた。


籠の中には、お湯をくぐって一層鮮やかさを増した

エメラルドグリーンの枝豆がどっさりと盛られていた。


ロルフは籠を力強く上下に揺らし

滴る熱湯を豪快に切っていく。


湯切りが終わるやいなや、サンがすかさず大きな平ザルを用意し

そこへ熱々の枝豆を広げるように指示した。

「ロルフ、この平ザルに広げておくれ」


「はい、わかりました」

ロルフはすぐに実行した。


まだ熱い蒸気が立ち上る中、サンが大きめの器に入った

粗塩を指先でつまむと、高い位置からサラサラと

枝豆全体へ均一に振りかけていった。


白い塩の結晶が、まだ熱を帯びて湿っているサヤの表面に

触れた瞬間じんわりと溶けて馴染んでいった。


「ゴリム、今のうちに混ぜてくれ!」

サンが、横で見ていたゴリムに木べらを差し出す。


「えっ、俺ですか?」

ゴリムが目を丸くする。


「もちろんだ!おまえさん以外あり得ん」

サンが楽しげに笑う。


「ほい、これで扇ぎながら混ぜてくれ」

サンがうちわを渡した。


渋々ゴリムは、木べらで混ぜ始めた

うちわでパタパタと熱い風を送りながら

ザルの中の枝豆を豪快に底からひっくり返す。


「ゴリムさん、次はこちらですよー!」

ロルフが次の作業を示す。


「はいはい、やりますよ」

ゴリムは手を止めずに応じる。


「母さん、ハンバーグが糸引いてきたよ。

もういいんじゃないの?」

アカネがサンに見せながら確認した。


「もういい感じだね、次はこのくらいの大きさに

丸めて置いてちょうだい」

サンが次の仕事を与えた。


「こんなに大きくていいの?」

アカネが聞いた。


「このくらい大きくないと、満足しないだろ。

アカネもハンバーグ好きだろ」

サンが言った。


「好きだけど……」

アカネが呟いた。


「ロルフ、ルーナ、そっちが終わったら

ハンバーグに焼き色つけてくれるか」

サンが指示を出した。


「「はい」」

同時に返事をしてアカネの所に移動した。


「アカネさん、手伝いますよ」

ルーナがアカネの横についた。


ロルフは、アカネが丸めた肉ダネを手に取ると

大きな両手の間で勢いよく往復させ始めた。

「パンッ、パンッ!」と、小気味よい音が厨房に響き渡る。


右の手のひらから左の手のひらへ何度も力強く

叩きつけることで肉の隙間に残った余分な空気を

綺麗に抜いていく。


肉ダネがしっとりとまとまると、ロルフは手の中でそれを

両端が少し細くなった綺麗なレモンの形へと手早く整えた。


「よし、仕上げだ」

ロルフは成形した肉の真ん中に向けて、まるで空手チョップを

繰り出すように、手の側面をぐっと押し込んだ。


肉の中央に一本の溝ができると、今度はそこを起点にして

指先を揃えて外側へと優しく押し広げていった。


外側のふっくらとした丸みを決して壊さないよう

絶妙な力加減で内側から押し広げられたハンバーグは

中央がへこみ火が通りやすく、かつ肉汁をしっかり

閉じ込める理想的な厚みへと姿を変えていった。


ロルフは整えたハンバーグをフライパンへ

次々と並べていった。


ハンバーグは「ジュージュー」と音を立てて

焼き色がつけられていった。


「ロルフさん。私にハンバーグの成形を

教えてもらえませんか?」


「私もやりたい、教えて!」

しばらくしてハンバーグを丸め終えたルーナとアカネが

ロルフのもとへ詰め寄った。


ロルフが丁寧に手解きした。

「二人ともよく見てな」


「「はい!」」

厨房に元気な返事が響く。


「何でルーナさんは、そんなに上手く出来るの……」

アカネが自分のハンバーグと比べ、情けなさに肩を落としてぼやいた。


「私は、母さんとよく作ってましたので

初めてではないんです」


「そうなの……?」

アカネが弱々しく呟く。


「はい、アカネさんもすぐに出来るようになりますよ」

ルーナが温かな眼差しで、そっと肩に手を置き慰めた。


「できる、できる!おまえはサンさんの娘だろ」

ロルフが大きく笑い、背中を叩いて煽てるように声をかけた。


「そっ、そうだ!私は、母さんの娘なんだ。

きっとやれば出来る子なんだ……」

アカネが自らに言い聞かせるように呟き、肉ダネを手に取り

「パンッ、パンッ!」と、空気を抜く鋭い音を厨房に響かせた。


ーーーー


食堂ではマレナが手際よくテーブルを整えていた。


「騎士団のみなさん、誠にすみませんが

テーブルを整えさせていただきますので隣の席へ

移動していただけないでしょうか」

マレナがセッティングを終えたテーブルを示し、丁寧に頼んだ。


「わかりました。お仕事の邪魔をしてしまい

申し訳ありません」とサイラスは立ち上がった。


他の三人もサイラスの言葉と同時に

席を立ち静かに移動を始めた。


テーブルを整え終えたタイミングで

食堂にいつもの声が響く。


「さぁ〜、みんな並んでおくれ」

サンの声が、お客様の気配で妙に静かだった食堂に朗らかに響き渡る。


お客様がいる手前、おとなしくしていた魔獣たちが

待ちかねたようにいつもの勢いで席を後にした。


まるで子供のような魔獣の姿に

カイルたちは視線を奪われたまま動かせなかった。


「みなさん、まだまだ元気だったんですね。

おとなしかったので仕事で疲れているのかと思っていたんですが……」

サイラスが笑いながらアレンに言った。


「あいつらは、お客様がいるせいで緊張していただけですよ」

アレンが苦笑いで返した。


(それじゃまるで、人間と同じじゃないか……)

カイルが心の中で呟く。


「ベイル、お前たちと変わらないなぁ~」

サイラスがしみじみと納得して言った。


「……」

ベイルはただ沈黙を守るしかなかった。


「ほんとだ!俺たちと何も変わんないじゃないか~」

ザックがカイルに視線を向け、驚きを隠さずに言った。


「そうだな……」

カイルは、その言葉を噛みしめるようにゆっくりと呟いた。


「サイラス殿。料理はお持ちしますので

しばらくお待ちください」

マレナが柔らかな声で伝えた。


「「ありがとうございます」」

魔獣たちのざわめきにつられて立ち上がった騎士団の面々は

我に返って頭を下げ、再びゆっくりと腰を下ろした。


厨房では、オーブンから焼きたてのハンバーグが

取り出され、台の上に置かれた。


「ジュッー」という音と共に

香ばしい匂いが厨房いっぱいに立ち上る。

サンが用意していた特製の焼肉のタレを

ハンバーグ全体に回しかけた。


「わぁ〜おいしそう!」

アカネの歓喜の声が厨房に弾ける。


「盛り付け開始だよ!」

サンの号令を合図に、ロルフたちが阿吽の呼吸で動き始める。


ロルフがハンバーグを手際よく皿へ盛り付けた。


「ロルフ、鉄板に残った肉汁はこの中に入れてくれ」

サンが厚手の鍋を持って来た。

中には、深い漆黒に近い艶やかな赤褐色のソースが煮込まれている。


ロルフが鉄板から肉汁を鍋へと流し込む。


サンが手早くかき混ぜると、鍋からは

鼻腔を力強く突き抜けるような、濃厚で芳醇な香りが立ち上った。


「これ、デミグラスソースですね!」

ルーナが食欲をそそる香りに、珍しく大きな声で叫んだ。


「あぁ〜そうだよ、ハンバーグと言えばこれだろ」

サンが誇らしげに胸を張った。


「これ、カイさんのレシピだからな」

ロルフが補足し、肉汁を吸ったソースをたっぷりと回しかけた。


ハンバーグの皿には付け合わせでお馴染みの

ポテト、人参、ブロッコリーが鮮やかに添えられる。


当然、横にはエメラルドグリーンの枝豆の皿が

主役の座は渡さんと、誇らしげに並べ置かれていた。


ーーーー


食事がみんなに行き渡った頃、サンが口を開いた。

「ここじゃ煤だらけだ。とうもろこしは外で焼こう」


「そうですね、またクルツさんにお願いしますか?」

ロルフが火魔法使いのクルツの名前をあげた。


「厨房にもいるだろ」

サンがにやりと告げる。


「あっ、いますね〜確かにすごい火魔法使いが」

ロルフが気づき笑顔で返す。


「アカネ!ついて来い。

とうもろこし焼きに行くぞ」

ロルフが羨ましそうに食堂を眺めていたアカネに呼びかける。


「えっ、とうもろこし……?」

アカネが戸惑いの声を上げる。


「アカネさん、ここは私に任せてください。

サンさんが待ってますよ」

ルーナが食堂の扉で、待つサンに目配せした。


「まって、まってー!」

アカネが厨房から飛び出し駆け寄った。


「さぁ〜主役が揃った。行こうか」

サンが言った。


三人が副庭のレンガ組みのバーベキュー炉に到着すると

ヴォルンが炉の前で炭火を起こす作業にかかっていた。


「ヴォルンさん、ありがとうございます。

どうしてバーベキュー炉を使うのご存じなんですか?」

ロルフが不思議そうに尋ねた。


「ははは、そんなことか。農場長に聞いたんだよ。

バーベキュー炉を使うから手伝ってやってくれってな」

ヴォルンが疑問に答えた。


「あぁ~そうなんですか」

ロルフが納得した。


話が終わると、ヴォルンは火床の底に空気の通り道を作るようにして

乾いた細い薪を井桁(いげた)の形に組み上げる。


その上に、隙間を開けながらゴツゴツとした炭を

ピラミッド状に優しく重ねていった。

薪の隙間には、火種となる乾いた細葉をたっぷりと差し込んでいく。


ロルフは

「アカネ、ここに火種、頼む。

俺を燃やすなよ……」

と声をかけると、アカネが静かに歩み寄り、

指先から小さな魔法の火を生成しロルフに近づけた。


「まて、まってくれ」

ロルフがびびって逃げる。


「ふっふっ」と笑い

指示された細葉へと指先の炎を落とした。


パチッと小さな音を立てて火種に赤みが差し、

またたく間に組まれた薪へと火が広がっていく。


パチパチと勢いよく炎が上がると

ロルフは団扇(うちわ)を優しく煽り

薪の炎の熱を上の炭へと送り続けた。


やがて薪が燃え尽きて崩れる頃

その熱をじっくりと吸い込んだ炭の表面が

じわじわと白く、内側から真っ赤に熾(おこ)り始めた。


「よし、炭火が安定したな。網を乗せてとうもろこしを並べろ!」

サンの指示で、ロルフは鉄網を敷き

朝一番に収穫した丸々と太いとうもろこしをゴロリと並べた。


「ロルフ、焦って最初からタレを塗るなよ!

糖分がすぐに黒焦げになっちまう。まずは炭火の遠赤外線で

実の芯まで完璧に熱を通すんだ」

サンの鋭い指導が飛ぶ。


「はい、わかってます。サンさん!」

ロルフはトングを握り、まだ素焼きの状態のとうもろこしを

丁寧に転がしていく。炭火の安定した強い熱を受け

じわじわと水分が飛び、黄金色の粒の表面に

かすかな焼き色がつき始めた。


実の芯まで完全に熱が回り、水分が凝縮した絶妙なタイミングを

見計らって、サンが言った。


「よし、今だ! 1回目のタレを塗れ。

一度にたくさん塗るんじゃないぞ!

4回塗るんだからな」


「はい!」

ロルフは片手に大きな刷毛(はけ)を持ち

特製の醤油タレを薄く、全体へ均一に滑らせた。


琥珀色のタレをまとったとうもろこしを炭火の上で転がすと

「ジュワッ」と小さな音を立ててタレが乾き

実にピタリと吸着する。


一度に塗ると垂れてしまうタレが、何度も熱をくぐることで

まるで上質な飴細工のように一粒一粒の表面に

香ばしい漆黒の層を形成していく。


手早く炭火の上で転がし、再びタレを薄く塗り重ねる。

ロルフはこの「炭火で薄く塗っては、じっくり炙る」という

緻密な作業を素早く3回、繰り返した。


「私にもやらせてー!」

アカネが叫んだ。


「言うと思ったよ……」

サンがぽつりと呟く。


「ロルフ、やらせてやってくれ。

今日頑張ったご褒美だ」

サンがしょうがなさそうにお願いした。


「わかりました」

ロルフはタレの器からタレを他の器に移し

タレが少しだけ残った器をアカネに渡した。


「えっ、タレこんだけでいいの?」

アカネが言った。


「俺が、おまえの器に少しずつ入れてやるから大丈夫だ」

ロルフがたくさん塗らせないように先手を打った。


「わかった!」

アカネが楽しそうにタレを塗り始めた。


横ではロルフがタレを調整していた。


「ロルフ、ナイスだ!」

サンが感心した。


とうもろこしが完璧な焼き上がりに達したその時、

サンが山のように積まれた藁を指差した。


「よし、ヴォルンさん。仕上げの藁をお願いします」


ヴォルンは指示された乾いた藁を

炉に次々と追加していく。


藁はもくもくと白煙を上げ、次の瞬間、一気に燃え上がる。

藁が一気に爆ぜ、火柱が立ち上がる。


「ロルフ、煙をまとわせろ!」

サンの声が飛ぶ。


「はい」

ロルフはとうもろこしの鉄網をガッと掴み、

今まさに立ち上った大量の煙の真上へと一気に移動させた。


「炎が最大になった瞬間を逃さず、一気に回して煙をまとわせろ!」

サンの声に応じ、ロルフはトングでとうもろこしを素早く何度も反転させた。


藁特有の甘い燻煙(くんえん)が、何層にも塗り重ねられた

焦げ醤油の表面へガツンと染み込んでいく。


「一瞬だ、皮を弾けさせろ!」

サンの声に応じ、ロルフは超高温の直火に

とうもろこしをサッと移動した。


ジュワァァァッ!!


残ったタレが熱い火床に滴り落ち

目の前が香ばしい白い煙で包まれた。

焦げた醤油の芳醇な香りと、藁の甘い匂いが混ざり合い

夕暮れの空き地を一気に支配した。


炭火でふっくら育った実の薄皮が

最後の強火でキュッと完璧に焼き締まった瞬間――


「上げろ!」

サンが指示する。


「はい」

ロルフはツヤツヤと黒光りする、極上の焼きとうもろこしを

一気に網から上げた。風に当てると実の水分が落ち着き

煙の香りが完璧に馴染んでいった。


炎はあっという間に落ち

藁は白く燃え尽きる。


残ったのは――軽く、乾いた白灰。

そこへヴォルンが静かに歩み寄る。

「旨そうだ……」


「ヴォルンさん、祝杯でもあげますか!」

サンが声をかける。


「そうだな〜ご馳走になるとするか」

ヴォルンがにやりと言った。


ーーーー


ヴォルンが園長とローデリックを伴ってやって来た。

「園長。例のやつは持って来たんだろうな」


「しつこいヤツだなぁ〜持って来てやったぞ感謝しろよ」

園長が酒瓶を目の前に突き出した。


「麦焼酎じゃないかぁ~こりゃ楽しみじゃわい」

ローデリックが舌舐めずりした。


「園長。お疲れ様です!」

魔獣たちが立ち上がって頭を下げた。


「挨拶はいいから、座って食べなさい」

園長が手を振って座るよう促す。


騎士団の面々も立ちあがろうとしたが

慌てて座り直した。


「ルーナ。泡泉水(ほうせんすい)はあるか?」

園長がカウンター越しに言った。


「あります。料理に使ってますので」

ルーナが説明した。


ドン、ドン!

園長がカウンターに酒瓶を置いた。


「コイツを泡泉水で割ってみんなに飲ませてくれ」

園長が言った。


「わかりました!園長。ただし条件があります。

飲みすぎない事と私たちの分を頂くことです。

よろしいでしょうか?」

めずらしくルーナが園長に意見した。

(……園長の酒癖の悪さを知っているからだ)


「構わん。好きなようにしろ」

園長がぶっきらぼうに言った。


「承りました。ありがとうございます」

ルーナが、ほっとし承諾した。


ーーーー


「みんな聞いてくれ!騎士団の方々を紹介する。

こちらが今回、騎士団から派遣された皆さんだ

当分の間、ここで修行することになったので

よろしく頼む」


「ここで修行するのか……?」

食堂にざわめきが広がった……


「サイラス殿。挨拶をお願い出来ますか」


園長の短い言葉に促され、まずはサイラスが立ち上がった。

「副隊長のサイラスです。突然の来訪にもかかわらず

温かい歓迎をありがとうございます。

よろしくお願いいたします」


次いで、サイラスの横で姿勢を正していたベイルが続く。

「ベイルです。明日からここで修行させていただきます。

ご指導のほど、よろしくお願いいたします」


ザックが勢いよく立ち上がった。

「ザックです! 今日一日、皆さんのすごさを肌で感じました。

これからよろしくお願いします!」


最後はカイルが、短く言葉を添える。

「カイルです。

……今日はおいしい料理をありがとうございました。

精一杯修行、励みます」


四人の騎士が座ると、園長は再びグラスを掲げた。


「……ま、堅苦しいのはナシだ。喰って飲め。乾杯といこう」


「「乾杯!」」


食堂に、再びグラスが触れ合う快活な音が響き渡った。


ニコはフォークを手に取り

立ち上る肉の香りを深く吸い込んだ。

(ハンバーグ……)

故郷で母と囲んだ食卓の記憶が、鮮やかに脳裏を駆け巡る。


あの時とは違う、魔獣園という新しい場所で

仲間と共に食べるこの一皿。


ニコは一口切り分け、口へ運ぶ。

口の中に広がる濃厚な肉汁と

懐かしくも新しいデミグラスソースの風味。

目頭が熱くなるのを堪え、ニコはそっと微笑んだ。


隣の席ではゴリムが、山盛りのハンバーグを前にして

至福の表情を浮かべていた。

「……んんっ、最高だ」

今日一日、アレンの指示に従い、慣れない農作業をやり

厨房ではサンの指示に従い奮闘した。

自分への最高のご褒美。

ゴリムはソースをたっぷりと絡め、大口で肉を頬張る。

「頑張った後の飯は、どうしてこうも美味いのか……」

ご満悦の様子で、ゴリムは次々と枝豆を口へ放り込んだ。


騎士団のサイラス、ベイル、ザックは

初めてのハンバーグに固まっていた。

フォークで肉を割るたび、あふれ出す肉汁。


一口含んだ途端、見た目からは想像できないほど繊細な旨味と

複雑で奥深いデミグラスソースが舌の上で溶け合う。

「……なんだこれは。ソースの深みが……まるで魔法のようだ」

サイラスが感嘆の声を漏らす。


ベイルとザックも言葉を失い

ただただ無言で二口、三口と肉を追いかけていた。


カイルだけは、過去の記憶との違いに愕然としていた。

「……俺が知っているハンバーグじゃない」

これまでに食べた事のある料理だったが

ここで食べたそれは、もはや別物だった。

「こんなに……こんなに旨い料理だったのか……」

カイルはソースを一滴残すまいと、付け合わせのポテトに絡め取り

ソースの最後の一滴までを味わい尽くした。


向かいの席では、クレイグとガルドが淡々と

しかし確実に肉を胃に収めていく。

「……悪くないな」

クレイグが低く呟くが、その手は止まらない。


ガルドも枝豆を殻ごと口に入れ

手際よく豆だけを弾き出す技を披露しながら

ハンバーグを平らげていく。


その様子を眺めながら、園長は焼酎を泡泉水で割り

静かにグラスを傾けていた。

「……悪くないな」

園長が呟いたその言葉には、園の平穏と

皆が腹を満たしている光景への密かな安堵が混じっていた。


ヴォルンは、ハンバーグを口に運び

「今日は最高の宴だな!」

と笑い飛ばす。

「この麦焼酎の泡泉水割は何と言うのどごしだ!」

空になった枝豆のさやを積み上げながら呟く。


その隣でローデリックも、ハンバーグとデミグラスソース

枝豆と塩が絶妙な調和を奏でていることに気づき

「酒が……酒が止まらんわい」

と、満足げに目を細めていた。


食堂は麦焼酎の泡泉水割と枝豆の誘惑に

どっぷりと浸かったままかつてないほどの

幸福感に包まれていた。


食堂の扉が勢いよく開き

サンとロルフが、香ばしい煙の余韻をまとって飛び込んできた。

「焼きとうもろこし出来ました!」

ロルフが掲げた大皿の上には、ツヤツヤと漆黒に黒光りする

見事な焼き色のとうもろこしが山盛りに積まれていた。


一瞬にして、焦げた醤油タレの芳醇な匂いと

藁焼き特有の甘く深い燻煙(くんえん)の香りが

食堂の隅々まで行き渡った。


その暴力的なまでに食欲をそそる香りに

席について待っていた面々の目が一斉に釘付けになる。


「うわあ、すごい匂い……!美味しそう!」

ルーナがカウンターから身を乗り出して目を輝かせる。


アレンが「俺も手伝いますよ、朝採りたてです!」と

胸を張って、みんなの席へとうもろこしを運んだ。


クルツが我慢しきれない様子で、熱々のとうもろこしを

両手で掴み、豪快にガブリとかじりつく。

「プチッ!!」

静かな食堂に、弾けるような小気味よい音が響き渡った。


炭火の遠赤外線で芯までじっくりと熱を通され

仕上げの藁の強火でキュッと焼き締められた一粒一粒の薄皮が

口の中で一斉に弾けたのです。

中から、果汁のように濃厚で瑞々しい夏の甘みが

ジュワリと溢れ出しました。

「……美味い! なんだこれ、めちゃくちゃ甘いぞ!」

クルツが熱さにハフハフと息を漏らしながら

言葉を失ったように二口、三口と勢いよく食らいついていきます。


「ほう、これは見事な焼き加減ですね」

サイラスが感心したように頷き、上品に口を動かしました。


「「うまいっ!!」」

ベイル、ザック、カイルの三人も声を揃え

夢中になって実を齧り取っていきます。

口の周りを醤油タレで茶色く汚すのも構わず

ガリガリ、シャキシャキと小気味よい音を立てて

一心不乱に芯のキワまでしゃぶり尽くしていきました。


「ヒッヒッ、この鼻から抜ける香りが

ただの炭火焼きとはワケが違うわえ」

モルダがしゃがれた声で笑いながら

藁の燻煙の薫り高さを堪能しています。


ゴリムも手でとうもろこしを掴むと

まるで軽いおやつでも食べるかのように

圧倒的な勢いでバリバリと音を立てて平らげていきました。

「生も美味しいが、焼きとうもろこしは別次元だ!」


「おまえやっぱり盗み喰いしてたのか……」

アレンの呟きが聞こえた。


熱々の焼きとうもろこしの香ばしさと

大釜で茹で上げられたばかりのエメラルドグリーンの枝豆

そして特大ハンバーグに特製デミグラスソース

魔獣園の食堂は、夏の恵みを絶賛するみんなの笑顔と

賑やかな咀嚼音で最高の盛り上がりを迎えていました。

第104話

おとなしい魔獣と夏の恵み

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、農作業から始まった一日の締めくくりとして

魔獣園の晩餐を丸ごと描いた回になりました。


厨房でのとうもろこしの塩茹で、ハンバーグの成形

そして屋外での炭火焼きと、いくつもの調理工程が

同時進行する賑やかさを楽しんでいただけたら嬉しいです。


今回、特に力を入れたのはアカネの成長です。

「私は、母さんの娘なんだ」と自分に言い聞かせる場面には

彼女なりの葛藤と、それでも前を向こうとする強さを

込めたつもりです。ルーナとの対比を通して

少しずつ料理人として成長していく姿を

これからも見守っていただけたら幸いです。


そして、騎士団の四人が魔獣たちの素顔に触れる場面。

「それじゃまるで、人間と同じじゃないか……」という

カイルの内心の呟きに、彼らの価値観が少しずつ

揺れ動いていく様子を込めました。


後半は、園長・ヴォルン・ローデリックによる

酒盛りの場面も楽しく書かせていただきました。

ルーナが園長に条件をつける場面には

これまでの二人の積み重ねが表れていればと思います。


そして最後は、とうもろこし・ハンバーグ・枝豆という

三つの料理が一堂に会する、贅沢な晩餐の締めくくり。

それぞれのキャラクターがそれぞれの想いを込めて

食事を味わう様子を、丁寧に描きました。


一日を通した労働の実りが、こうして食卓に集約される

――そんな満足感を、少しでも味わっていただけたら

嬉しいです。


引き続き、よろしくお願いいたします!


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