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【現役料理人が執筆】名を呼ばれた日、進化が始まった 〜召喚レッサーパンダの魔獣物語〜  作者: 幸辰


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103/125

騎士団と最良の収穫どき 第103話

今回は少し長めの更新となります。

お時間のある際にお読みいただければ幸いです。


もし作品を気に入っていただけましたら気軽に評価して下さい。


「少しでも面白いと思ったら、星3つで応援!」

「次が気になったら、星4つでモチベアップ!」

「全話楽しんでいただけたら、星5&ブックマークで作品を広めてください!」


評価とブクマが、この作品が多くの人に届くきっかけになります。

よろしくお願いいたします!


それでは本編へどうぞ。

「サイラス殿。園長室までご案内いたします」

クルツが告げた。


「はい。よろしくお願いいたします」

サイラスは軽く居住まいを正し、丁寧に答えた。


「本館の二階ですので、私についてきてください」


クルツが先頭に立ち、ゆっくりと歩き出す。


サイラスもその後に続いた。

その後ろから、ベイル、カイル、ザックの三人も

落ち着かない様子でついてくる。


先ほどまでの模擬戦の熱気が嘘のように

本館の廊下は静かだった。


木の床を踏む足音だけが、規則正しく響く。


サイラスは歩きながら、周囲へ視線を巡らせた。


高い天井、彫刻の施された柱、色褪せてはいるが

上質な壁紙。かつて貴族の避暑地として

使われていたという建物の名残が、そこかしこに

残っている。


(……立派な建物だな。噂には聞いていたが)


ほんとにこれが魔獣を保護する施設なのか……

想像していたものとはずいぶん違うな。


豪奢な調度の隙間に、質実な生活の気配が

自然に馴染んでいるような、不思議な空気があった。


先ほどの模擬戦の光景を思い出すたび

背筋にわずかな緊張が走る。


(……ここが、あの化け物たちを従える場所か)


背後で、ザックが小声でカイルに囁いた。

「……なぁ、この建物、なんかすげぇな」


「静かにしろ」

カイルが肘で小突く。


その隣で、ベイルも彫刻の施された柱を

物珍しそうに見上げていた。


階段を上りきると、廊下の中央に

大きな二枚の扉が見えた。


「ここです」

クルツが足を止め、軽くノックする。


コンコン


「……何の用だ」

低く、抑揚のない声が返ってきた。


「園長。騎士団の方をお連れしました」

クルツが告げる


一拍の間があった


「……入れ」

短い返事が、扉の向こうから響いた。


クルツはサイラスへ小さく頷いてみせると

静かに扉を開けた。


背後の三人は、廊下に残ったまま

息を潜めるように顔を見合わせていた。


「サイラス殿。お忙しい中お越しいただき

誠にありがとうございます。後ろの方々もお入りください」

園長が丁寧に挨拶した。


「クルツ。戻っていいぞ」

園長が人払いをした。


「こちらこそ、連絡もなく突然来させてもらい

ご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした」

サイラスが謝罪する。


「いや、大丈夫だ。

元々こちらの為に動いてもらうのだから

迷惑をかけるのはこちらの方だ」

園長が応じた。


「そう言っていただけるとありがたいです」

サイラスがほっとして肩の荷を下ろす。


「聞いているとは思いますが……偵察の件は

クルツ達にはくれぐれもバレないようにしてください」

園長が申し訳なさそうに頼んだ。


「はい、承知しております。

わかっているな。頼んだぞ」

サイラスが三人に目を向け念押しした。


「「はい」」

ベイル、カイル、ザックは背筋を伸ばし

元気に返事を返した。


「わかっておりますので、ご安心ください」

ベイルが園長に視線を向け返した。


「ありがとうございます。

申し訳ないですが、よろしくお願いします」

園長が頭を下げた。


「ヴァルド様。ニコ殿達は今はどちらに

おられますか?」

サイラスがわくわくしながら尋ねた。


「えっ……」

ベイルたちは無言でサイラスを見た

(副隊長……また楽しそうな顔して……)


「たしかニコは、午後は農場で収穫作業だと思います」

園長が自信なさそうに口にした。


「「「収穫作業……?」」」

不思議そうな声が揃って発せられた。


「早朝と午前中が剣の修行です

午後は魔獣園の仕事をさせていますので」

園長が説明する。


「そうですか……良い考えだと思います

一日中修行では、疲れてしまいますので」

サイラスが経験から答えた。


「戻ってきたら、ご挨拶させます。

別館にお部屋をご用意しますので

そちらでお待ちください」

園長は穏やかにそう告げた。


「ありがとうございます。

ところで――収穫作業を見学させて

いただくことは可能でしょうか?」

サイラスが一歩踏み込む。


「副隊長……それはご迷惑では……」

ベイルが小声で制するが。


「構いませんよ。案内の者をつけます。

その前に、食堂の方へ移動しましょう」

園長はあっさりと頷き、席を立つと

そのまま扉へと歩き出した。


「ありがとうございます」

サイラスは満面の笑みで頭を下げる。


「無理を言って申し訳ありません」

ベイルも続けて、やや恐縮気味に礼を述べた。


(どちらが副隊長だよ……)

ザックが小声で呟いた。


ガチャ

園長がドアを開け、退室を促した

「ご案内しますので、こちらへどうぞ」


「はい」

サイラスが返事を返し退室した。


後ろに続き三人が退室した。


――――


食堂に入ると、園長が声をかけた。


「こちらでお待ちください

すぐにお呼びいたしますので」と残し

園長はカウンターへ向かう。


「サン、忙しいところ悪いがルーナを

借りてもいいか?」


「ひと段落したところですので、構いませんよ」

サンは快く了承した。


「ルーナ、そういうことだ

園長の指示に従ってくれるか」

サンがルーナに伝えた。


「はい、わかりました」

ルーナはエプロンを外しながら返事をする。


「ルーナ、悪いがこちらの方々を

農場まで案内してもらえるか」


「今日はどちらで作業されていますか?」

ルーナが確認する。


「詳しいことはわからん

農場詰所の職員に今日の作業を

聞けば分かるはずだ」

園長が答えた。


「皆さん。この者はニコたちと修行を

共にしている者です」

園長が紹介する。


(……獣人と修行……?)


サイラスたちは動揺を隠せなかった。


「ルーナと申します

私が皆さまをご案内いたしますので

よろしくお願いいたします」

ルーナが名乗り、丁寧に頭を下げる。


「騎士団副隊長のサイラスと申します

よろしくお願いいたします」


「これから皆さまと修行をさせていただく

ベイルと申します

よろしくお願いいたします」


「同じくカイルと申します

よろしくお願いいたします」


「同じくザックと申します

よろしくお願いいたします」


三人が並んで頭を下げた。


「ルーナはシンフォリア連邦の出身です

連邦では魔獣と人は同じ国民として扱われています

この国とは考え方が異なるのです」

園長は彼らの動揺を察し、補足する。


「そうなのですか……

これからの旅で彼らもシンフォリア連邦を

訪れる予定ですので

しっかり心に留めさせます」

サイラスは理解を示した。


(そうなのか……魔獣が人と同じ国民……)


「それではご案内いたしますので

後についてきてください」

ルーナはそう告げて、ゆっくりと歩き出した。


やがて農場詰所に到着する。

中では農場長のローデリックが記録を取っていた。


「農場長、お疲れさまです

お忙しいところ申し訳ありません

本日の魔獣の作業はどちらで行われていますか?」

ルーナが頭を下げて尋ねる。


「確か、早朝はとうもろこしの収穫で

午後からは枝豆の収穫の予定だ」

ローデリックが答えた。


「そうですか

ありがとうございます」

ルーナは再び頭を下げる。


「お客人だろう

わしが案内してやろうか?」

ローデリックがちらりと一行を見て尋ねた。


「本当ですか?ありがとうございます。

よろしくお願いします」

ルーナは笑顔で礼を述べた。


ーーーー


場面は早朝にさかのぼる。


「みんな、朝早くからすまない。

今日はとうもろこしの収穫をする」

アレンは頭を下げ、予定を告げた。


「とうもろこしですか……

なんで早朝なんですか?」

コボルトの一体が疑問を口にした。


「とうもろこしは早朝に採るのが

一番うまいんだよ!」

ゴリムが経験から説明した。


「そうだ、ゴリムの言う通りだ。

悪いが協力してくれ。その代わり

朝食後は昼まで自由時間とする」

アレンは頷きながら補足した。


「ゴリム、お前とうもろこしの収穫は初めてだろ。

なんでそんなに詳しいんだ?」

アレンが問い詰める。


「えっ、た、たまたま知ってただけだよ……」

ゴリムは目を逸らし、小さく呟いた。


「あやしいなぁ~。まあ今回は追及しないでおいてやるが、

勝手に取って食べるなよ!」

アレンは目を細めて釘を刺した。


(バレてるじゃないか……)

ゴリムは何も言わず、列に並んだ。


「みんな、揃ったな。

それでは出発するぞ!」

アレンの号令が響いた。


朝露に濡れた草を踏みしめ、魔獣たちは列をなして進んでいく。

涼しく澄んだ朝の空気が心地よく体を包み

思わず深く息を吸い込みたくなる。


やがて東の空がゆっくりと明るみ始め

淡い光が大地を照らし出した。


畑へ続く道には、昨夜の湿り気が残り

足元からは土の匂いが立ち上る。


鳥のさえずりが遠くから響き

静かな朝に命の気配が満ちていく。


やがて視界が開け、とうもろこし畑が姿を現した。


朝露が光る早朝、とうもろこし畑は青々と葉を茂らせ

力強い生命力に満ちていた。


大人の背丈ほどに伸びた茎の節から

丸々と太った実が外へ向かって突き出している。


収穫の合図は、実の先端から伸びる絹糸――ヒゲだ。


数日前まで淡い緑色だったヒゲは

すっかり焦げ茶色に乾き、縮れている。


手で実を包むように握ると、皮の上からでも

一粒一粒が隙間なく詰まっているのが分かる。


「みんな、ここに集まってくれ」

アレンが場所を指差し、集合をかけた。


近くの魔獣たちが集まってくる。


「これから収穫の手本を見せる。

よく見て覚えてくれ」


「まず実の根元をしっかり掴む。

掴んだら、下へ一気に力を込めて押し下げる」

アレンは手本を見せた。


「ペキッ」

みずみずしい音が畑に響いた。


「これで茎から実が離れる。

取ったとうもろこしは、この籠に入れてくれ」

アレンは用意した籠を持ち上げ、指示を出した。


アレンは収穫したての皮を少し剥く。

中からツヤツヤと輝く、鮮やかな黄色の粒が顔を出した。


もぎたての切り口からは、果汁のような透明な水分が

じんわりと滲み出してくる。


「うまそうだ!」

ゴリムが叫んだ。


「いいか、収穫のための作業だからな。

食べるんじゃないぞ」

アレンはゴリムを睨み、釘を刺した。


「収穫開始!」

号令とともに、魔獣たちがぎこちなく動き始めた。


――ただ一体を除いて。


「こうやって、こうだ!」

ゴリムは周りに手ほどきを始めた。


その動きは無駄がなく、手際がいい。

器用なゴリムは、教えるのも上手かった。


「ゴリム、お前ほんと上手だなぁ~。

俺より教えるのもうまいし……」

アレンは肩を落とした。


ゴリムの指導もあり、収穫は想像以上に順調に進んでいく。


夏の強い朝陽を浴びながら、

ずっしりと実ったとうもろこしが次々と籠に積み上がっていった。


アレンは太陽の位置を確認した。

「もう昇り切りそうだな……」


東の空は淡い橙色に染まり

地平線の向こうから光がじわりと滲み出している。

遠くで鳥の鳴き声が重なり

静かな畑に一日の始まりを告げていた。


「アレンさん、もうそろそろですね」

ゴリムが収穫の終わりを察して声をかけた。


「そうだな、帰るとするか」

アレンは頷いた。


「よし、みんな手を止めてくれ

収穫終了だ!」

アレンは声を張り上げた。


「籠に布を被せて整列してくれ!

籠は二人で持てきてくれ」

アレンは続けて指示を出した。


魔獣たちは動きを止め、次々と列を整えていく。

収穫されたとうもろこしの入った籠が

あちこちで持ち上げられた。


やがて整列が完了した。


「帰ろう!」

アレンの号令が響いた。


魔獣たちはゆっくりと歩き出す。

背後では、ついに朝日が地平線から顔を出し

強い光が畑一面を照らし始めていた。


ーーーー


食堂に戻ってきたアレンたちは

カウンターの前にとうもろこしの籠を下ろした。


「サンさん。とうもろこしの収穫、終わりました」

アレンは声をかけた。


「アレン、ありがとう。ご苦労様だ」

サンは穏やかに頷いた。


「ロルフ、湯の準備はいいか!」

サンはすぐに視線を向け尋ねた。


「大丈夫です。しっかり沸いています」

ロルフは即答した。


「アレン、悪いが厨房まで運んでくれ」

サンは続けて頼んだ。


「はい、わかりました」

アレンは振り返り、魔獣たちへ指示を飛ばす。


三つ並んだ大鍋の前に、籠が順に運ばれていく。

鍋からは白い湯気が立ちのぼり、熱気が辺りを包み込んでいた。


「ついでだ。鍋に入れてくれ。慌てるな、ゆっくりでいい」

サンは落ち着いた声で告げた。


「火傷に注意してください」

ロルフは一歩前に出て声をかける。


「俺が手本を見せます。代わってください」

ロルフはゴリムの前に立った。


「ゴリムさん、いいですか。呼吸を合わせましょう」

低く、落ち着いた声が響く。


二人は視線を交わし、朝採りのとうもろこしが

山盛りに入った大きな竹籠を挟んで構える。

編み目からは青い香りが立ち上り、湯気に混じって鼻をくすぐった。


短く息を合わせ、同時に腰を落とす。


「せーの」

太い縁を左右から掴み、下半身の力で一気に持ち上げる。

ずしりとした重みが腕に食い込む。


歩幅を揃え、慎重に鍋へと近づく。

ぐらぐらと沸き立つ湯の真上で、ぴたりと動きを止めた。


「いきますよ、せーの!」

ロルフが声を張る。


二人はタイミングを完全に合わせ

籠をそのままゆっくりと下ろしていく。


籠の底が湯面に触れ、静かに沈み始める。

熱湯が跳ねないよう細心の注意を払いながら、

重みのままに沈ませていく。


「ザバッ」

鈍い音が響いた。


激しく泡立っていた湯が一瞬だけ静まり、すぐに大きく波打つ。

籠はゆっくりと沈み、やがて鍋の底へ落ち着いた。


手元に伝わる重みの変化で、安定したのが分かる。


「ゴリムさん、離してください」

ロルフが短く告げた。


二人は素早く手を離し、同時に一歩下がる。

張り詰めていた緊張がほどけ、思わず息を吐いた。


竹の香ばしい匂いが湯気に乗って広がる。

鍋は再びぐらぐらと力強く沸き始めた。


サンはその様子を見届け、砂時計をひっくり返す。


「よし、上手くいったな」

満足げな声が漏れる。


「ゴリムさん、残りも一緒にやりましょう」

ロルフは感心した様子で告げた。


「そうだな、それがいい」

サンも頷く。


「えっ、またですか……」

ゴリムは肩を落とし、顔を引きつらせる。


その後も籠は同じ手順で鍋へ沈められていく。


サンは並んだ砂時計を見つめ、満面の笑みを浮かべる。


「ゴリムさん、ありがとうございました」

ロルフは深く頭を下げた。


「あぁ〜、緊張した……」

ゴリムはその場に崩れ落ちる。


「ははは」

周りの魔獣たちから笑いがこぼれた。


「解散だ。昼食まで自由時間とする」

アレンが締めくくった。


「やったー!」

魔獣たちは一斉に歓声を上げた。


ーーーー


正午を過ぎ、太陽が真上から容赦なく照りつける時間。

アレンたちは枝豆畑に到着した。


畑全体の気温が一気に跳ね上がる中、

アレンたちは比較的日陰になりやすい、

枝豆の葉が大きく茂った畝の根元に狙いを定める。


「みんな、一番暑い時間は無理をせず

この株元の掃除を頼めるか?」

アレンは収穫までの時間を使い、準備を進めるよう指示した。


「枯れ葉が溜まっていると風通しが悪くなって

夕方に虫が集まっちゃうんだ」

理由も簡潔に伝える。


魔獣たちは

「まかせろ!」と元気よく動き出した。


コルナは耳をピコピコと揺らし、

小さな体をさらに丸める。枝豆の青々とした葉の天幕をくぐり、

株元の土の上へと滑り込んだ。


そこは上からの強い日差しが遮られた、

わずかに涼しさを感じる空間。

しかし土の上には、寿命を迎えて茶色く乾ききった古い葉や、

病気気味で黄色く傷んだ葉が何層にも積もっていた。


「よいしょ、よいしょ……」

コルナは小さな両手を熊手のように丸め、

リズムよく枯れ葉をかき集めていく。


他の魔獣たちも、カサカサ、カサカサと

小気味よい音を立てながら作業を進め、

溜まっていた枯れ葉を一箇所へと丁寧に集めていった。


ニコは、ただの枯れ葉だけでなく

病斑が出始めた見落としがちな黄色い葉にも目を配る。

株を傷つけないよう指先でそっと摘み取っていった。


「おおっ、すっきりしたな!さすがだ」

アレンは思わず声を上げた。


魔獣たちが通り過ぎた後の株元は、

黒々とした清潔な土が顔を出し、

風がすうっと通り抜けるのが目に見えるようだ。


「すごいなお前たち。これで夕方はカメムシに邪魔されずに収穫できるぞ」

アレンは満足そうに頷いた。


アレンは日陰から冷たい麦茶の入った水筒を差し出す。

「みんな、水分補給だ!集まってくれ」


集まってきた魔獣たちは、嬉しそうに日陰で喉を潤した。


午後三時。夏の強烈な西日が照りつける中、

青々と茂る枝豆畑で、夕方の収穫に向けた準備が再び始まる。


「アレン、作業は順調か?」

農場長が尋ねた。


「はい、順調ですよ」

アレンは答え、視線を横へ向けた。


「そちらは騎士団の方ではないですか。どうされたんですか?」

見知った顔を見つけ、問いかける。


「あぁそうだ。ルーナが案内を頼まれてな

わしも手伝っているところだ」

ローデリックが説明した。


「アレンさん、こちらの方々が農場の見学を

希望されていますのでお連れしました」

ルーナが補足した。


「そうですか。夕方に枝豆の収穫を行います。

今はその準備をしておりますので、ぜひ見学していってください」

アレンは丁寧に説明した。


「そうですか……枝豆の収穫をされているんですね」

サイラスが頷いた。


「副隊長、枝豆をご存じなんですね」

カイルが感心したように告げる。


「カイル、私は枝豆は食べたこともあるんだぞ」

サイラスは少し誇らしげだ。


「そうですか……枝豆はカイさんが栽培を

始めたはずですが……」

カイルが言う。


「私は初めて聞きました」

ベイルが素直に答えた。


「俺も今、初めて聞きました」

ザックも続く。


「そうだろ!美味いんだぞ、枝豆は」

カイルは目を輝かせる。


「お前に自慢されたくないな」

ザックがぼそりと呟く。


「ははは」

サイラスが笑った。


「失礼しました。作業を続けてください」

サイラスは軽く頭を下げた。


アレンは首に巻いたタオルで汗を拭きながら

魔獣たちに大きく声をかけた。

「よし、みんな。夕方に一番うまい枝豆を獲るために

今のうちに前準備を終わらせるぞ!」


「みんな、頼んだぞ!」

アレンの明確な指示を受けて、面々が一斉に動き出す。


アレンから受け取った目印用の赤いリボンを器用に扱い

密集する葉を手でかき分けては、パツパツに実の詰まった

株の根元にリボンを素早く巻き付けていく。


さらに、サヤを隠す大きな葉を「パチッ、パチッ」と

爪先で小気味よく間引いていった。


「ボルム、そこの土を少し緩めておいてくれ」

アレンの指示に、ボルムは嬉しそうにリボン付きの株の根元を掘り

固い土をザクザクと柔らかくほぐしていった。


一方、ゴリムは動線の確保を担当していた。

ゴリムはアレンが指差す場所へ竹籠を等間隔に配置していく。


引き抜いた株を夕方の西日にさらさず

一瞬で放り込めるようにするための完璧な配置だ。


「みんな、いいペースだ! 仕上げに水を撒くぞ!」

アレンが声をかけると、畑の木陰で静かに待機していた

コボルト数体がフィグの指示で動き出した。


コボルトの中でも一際高い知性を持つ

ワイズコボルトのフィグの指示のもと水路から運んできた

木桶の水をコボルト達が畑全体にまき始めた。


「おお、助かるよフィグ!」

アレンが感謝した。


「農場長、水分量はこれで大丈夫ですか?」

フィグは、たまたま居合わせた農場長に意見を求めた。


ローデリックは土の湿り気とサヤの張り具合を見極め

「完璧だ! あと一時間もすれば、実に最高のみずみずしさが戻るぞ」

と太鼓判を押した。


夕方の「一番美味しい瞬間」を仕留めるための舞台は

完璧なチームワークによってすべて整った。


「ルーナさん、魔獣の方々はいつもこんな感じなんですか?」

サイラスが不思議そうに尋ねた。


「こんな感じとは?」

ルーナが問い返す。


「失礼かもしれませんが……魔獣の方々は強制労働では?」

サイラスが申し訳なさそうに尋ねた。


「強制労働ではないですよ。みなさん喜んで働いていますので」

ルーナが笑顔で答えた。


「やはりそうですか。失礼な質問をして申し訳ありませんでした」

サイラスは頭を下げた。


午後五時半。オレンジ色の斜光が畑を美しく染め上げ

心地よい涼風が枝豆の葉をさわさわと揺らしていた。


水をたっぷりと吸い込んだサヤは、パチパチと弾けんばかりに膨らみ

最高の収穫期を迎えていた。


「そろそろだな」

ローデリックが呟く。


「そうですね……

「よし、みんな! 一番うまい時間だ、収穫を始めるぞ!

印をつけた赤いリボンの位置に着いてくれ」

アレンが枝豆畑を見つめ指示を告げた。


「おーーっ!」と魔獣たちが歓声を上げ

それぞれの持ち場へと一斉に散っていった。


「アレンさん、我々も参加させて頂くことは出来ませんか?」

サイラスがアレンに近づき、興奮気味にお願いした。


「……副隊長。それは迷惑では……」

ベイルが止めに入った。


(……またか……)

カイルとザックが顔を見合わせ呆れたように呟く。


「いいですよ。むしろ、こちらからお願いしたいぐらいです。

枝豆の収穫は時間との勝負なので」


「「「えっ!いいんですか?」」」

騎士団の面々が驚きの声を発した。


「ニコ!まだ配置出来てないところに

案内してくれ」

アレンがニコに指示を出した。


「みなさんこちらへー。

赤いリボンの場所で待機して下さい」

ニコが四人の位置を指定した。


アレンが大きく右手を掲げ、夕空に響く大きな声で合図を出した

「よし、みんな! 一番うまい時間だ、収穫を始めるぞ!

赤いリボンのついた株を根元からひっこ抜けー!」


ゴリムは腕を伸ばし、リボンのついた株の根元をガシリと掴み

「ぬんっ!」

短い気合の声とともに真上へと腕を引き上げると

ザクッと小気味よい音を立てて、大量のサヤをつけた株が

根こそぎ引き抜かれた。


「さすがゴリムさん!」

ニコが興奮気味に叫んだ。」


「騎士団のみなさん。先ほどのゴリムのように

しっかり根元を掴んで一気に引き上げてください」

アレンが丁寧に指示をした。


「こうか……」

ザックが見よう見まねで根元を掴んだ。


「ザックさん、もう少し根元近くをお持ちください」

アレンが近づき手元を確認し伝えた。


「こうですか?」

ザックが掴み直した。


「そうです、一気に引き上げてください」

アレンが告げた。」


「ぬんぁっ!」

気合とともにザックが真上へと思いっきり引き上げる

ザクッと小気味よい音とともに、根こそぎ引き抜かれた。


「ザック、やったな! 今度は俺の番だ!」

カイルが根元を掴んで言った。


「お前らも楽しそうじゃないか!」

抜いた株を手にしたサイラスが意地悪そうに述べた


「確かに……」

(副隊長のわがままに付き合わされた)

そう思いながらも、ベイルは苦笑いで返した。


次々と枝豆の株が竹籠に集まっていった。


「アレン。素晴らしいスピードだな

これなら鮮度は心配ないな」

ローデリックが感心して言った。


「みんな最高だ! 獲れたての枝豆を、厨房の大釜が待ってるぞ。

この調子で一気に竹籠を満杯にしよう!」

アレンの言葉に魔獣たちはさらに活気づいた。


夕焼けに染まる畑には、株を引き抜く土の音と

みんなの弾んだ声が心地よい響き渡っていた。


アレンは、枝豆畑の充実した顔ぶれを見渡し

パチンと手を叩いて小気味よい音を響かせた。

「よし、今日の収穫はここまで!

みんな、最高の仕事をしてくれたな。

籠を運んでくれ、魔獣園へ帰るぞ!」


「おーーっ!」と元気な歓声が上がった。


気づけば、アレンたちの足元に伸びる影は長く

淡く引き伸ばされている。

横から差し込むオレンジ色の斜光が枝豆畑を鮮やかに染め上げ

風に揺れる青い葉の一枚一枚を、黄金色の輪郭で眩しく縁取っていた。


「ルーナ、騎士団のみなさんの案内を頼めるか?」

アレンは振り返り、穏やかに声をかける。


「はい、お任せください」

ルーナは丁寧に応じた。


「それじゃあ、帰ろう!」

アレンの呼びかけに応じ、仲間たちは手際よく荷車を整え

ゆっくりと動かし始める。


こうして一行は、魔獣園への帰路についた。


夕焼けに染まる畑の向こう、林の奥からはヒグラシの鳴き声が

「カナカナ」と静かに響いていた。

第103話

騎士団と最良の収穫どき

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、園長室での挨拶から始まり

農場での丸一日の収穫作業まで

盛りだくさんの一話になりました。


サイラスの「ニコ殿達は今はどちらに」という

わくわくした様子と、それを見守る

ベイル、カイル、ザックの生温かい視線の対比を

楽しんでいただけたら嬉しいです。


とうもろこし収穫では、ゴリムの意外な知識と

手際の良さが光りました。「なんでそんなに詳しいんだ?」

というアレンの追及から目を逸らすゴリムの姿は

きっと読者の皆さんにも覚えがあるのではないでしょうか。

ロルフとの息の合った大鍋作業も

このコンビらしい丁寧さを込めて描きました。


そして枝豆畑では、ボルム、フィグ、コボルトたちが

それぞれの得意分野で連携する様子を描いています。

名を得た魔獣たちが、こうして自分の力を

自然に発揮している姿を見ていただけたら幸いです。


後半、サイラスたちが実際に収穫に参加する場面は

書いていてとても楽しかった部分です。

ベイルの気遣いと、カイル・ザックの若さ

そしてサイラスの子供のような無邪気さ――

騎士団の四人それぞれの個性が

農作業を通して自然に滲み出てくれたなら嬉しいです。


そして「強制労働ではないですよ。みなさん喜んで

働いていますので」というルーナの一言。

この作品を通してずっと大切にしてきた

「魔獣たちが自ら望んでこの場所にいる」という価値観を

改めて言葉にした場面でした。


夕焼けに染まる畑を後にする一行の姿で

今回は締めくくりました。

次回もどうぞよろしくお願いいたします!


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