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【現役料理人が執筆】名を呼ばれた日、進化が始まった 〜召喚レッサーパンダの魔獣物語〜  作者: 幸辰


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クルツの心労とゴリムの役割 第101話

本格的な夏の訪れを感じさせる早朝。涼やかな風が吹き抜ける副庭に

いつもの面々が集まっていた。


「修行を始める前に、みんなに伝えておかなければならないことがある」

クルツは珍しく険しい顔つきで、四人の顔を見回した。


「「はい」」

ニコ、ガルド、クレイグ、ルーナが即座に姿勢を正し

背筋を伸ばしてクルツに向き直る。


「……先日の選抜戦で敗れた騎士団の面々だが

彼らが一般枠として闘技大会に参加することになった」

クルツがゆっくりと口を開く。


「えっ……騎士団の方々も参加できるんですか?」

ニコが驚きに目を見開いた。

驚きとともに、胸の奥でほっとする思いが広がる。


ガルドとクレイグも、互いに視線を交わした。

あの試合で敗れた騎士たちの、誇りを懸けた悔しそうな表情が

今も心に深く残っていた。

彼らに道が閉ざされたわけではなかった

――それだけで、十分だった。


「ああ。そうだが……落ち着いて聞いてくれ。この話には続きがあるんだ」

クルツは彼らの反応を受け止めつつ、再び言葉を紡いだ。


「彼らは一時的に騎士団の籍を外し、大会までの期間

この魔獣園で我々と共に修行を行うことになった」


「……籍を外す?」

ニコの表情から安堵が消え、今度は戸惑いが浮かぶ。

自分たちの勝利が、彼らにそのような「決断」を迫る

きっかけになったのではないか、という思いが頭をよぎったからだ。


「心配するな、一時的なことだ。領主様直々のご要望でな」

クルツはそこで一呼吸置き、静かに続けた。

「……俺たちに拒否権はない」

クルツはそう言うと、深く息を吐き、四人へ向かって深く頭を下げた。


「クルツさん。頭を上げてください。

僕らにとっては願ってもないことですよ」

ニコが力強く言った。


ガルドとクレイグも静かに頷き、同じ気持ちを示す。


「そうか……そう言ってもらえるとありがたい」

クルツはゆっくりと顔を上げ、今度はルーナへ向き直った。


「ルーナ。負担が増えることになるが……お願いできるか」


「私は大丈夫ですよ」

ルーナは迷いなく答えた。


クルツは一度だけ、深く頷いた。

「……ありがとう」


――――


「あれ? まだ修行、始めてないんですか?」


軽い足音とともに、アカネが副庭に駆け込んできた。


「ああ、これからだ」

クルツが何事もなかったように返す。


アカネはニコを見つけると、目を輝かせた。

「ニコさん! 私と模擬戦しましょう!」


「アカネさん」

ルーナが静かに声をかける。


「まず身体を起こすところからです」


「え~……」

アカネが不満そうに口を尖らせる。


「そうだ」

クルツが短く言った。


「焦る気持ちはわかるが、冷えた身体で剣を振れば

怪我をするのはお前自身だ」


アカネはしぶしぶ、それでも素直に木剣を構えた。


ニコたちはいつものように、静閃流の基本の型へと入っていく。

ゆっくりと、しかし一分の隙もなく。


足を踏みしめ、丹田に意識を落とし、木剣をゆるやかに持ち上げる。


アカネはそれを横目で見ながら、少し遅れて同じ動きを始めた。

最初は渋々といった様子だったが

しばらくすると、その目が真剣なものへと変わっていく。


副庭に、木剣を振る風切り音だけが静かに響いた。


ーーーー


「ただいま戻りました」

ルーナが厨房に顔を出した。


「おかえり。手を洗ったらすぐ手伝っておくれ」

サンが振り返らずに言った。


「はい」


――――


早朝修行を終えた面々が、ぞろぞろと食堂へやって来た。


汗を拭い、木剣を置き、それぞれが席に着く。

朝の空気はまだ涼しく、身体を動かした後の

心地よい疲れが漂っていた。


そんな中、一人だけ様子の違う者がいた。


ゴリムだ。


いつもなら真っ先に「今日の飯は何だ」と声を上げるはずが

今朝は腕を組んだまま、朝食が出来上がるのをじっと待っている。

その顔が、どこかうかない。


「ゴリムさん、どうかしたんですか?」

ニコが心配そうに声をかけた。


「……」

ゴリムはゆっくりとニコを見上げたが、何も言わない。


アレンが苦笑いで口を開いた。

「ゴリムは朝食の後、園長に呼ばれているんだよ」


「えっ、ほんとですか?」


「ああ。俺が園長から直接伝えるよう頼まれたんだから

間違いないぞ」


ニコはゴリムの顔を見た。

なるほど、それで浮かない顔をしているわけだ。


「最近のゴリムは心配症だからな」

ガルドが真面目な顔で言った。


「そりゃ仕方ないだろう」

クレイグが肩をすくめる。

「ここのところ、いろんなことが立て続けに起きたんだ。

俺だって不安なことばかりだぞ」


「それはそうだな……」

ガルドが腕を組み、珍しく神妙な顔になった。

「正直に言えば、俺だって園長に呼ばれたら

緊張して声が出なくなる自信がある」


「お前でもそうなのか」

クレイグが少し驚いたように言った。


「お前はならないのか?」


「……なるな」

クレイグが短く認めた。


その会話を聞きながら、ゴリムは深く息を吐いた。

自分だけじゃないと分かっても、気が楽になるわけではない。

だが、少しだけ――ほんの少しだけ、肩の力が抜けた気がした。


ーーーー


朝食を終え、ゴリムがゆっくりと重い腰を上げる。


「ゴリムさん。途中まで一緒に行きましょうか?」

ニコが、見かねて声をかける。


「ついて来てくれるのか?」

ゴリムの強張った顔が少しゆるんだ。


「行きましょう」

ニコがゴリムの腕を掴み、食堂から出ていった。


廊下を歩きながら、ゴリムの足取りは重い。

階段の手前で立ち止まり、二階を見上げる。


「……」


「大丈夫ですよ」

ニコが先に階段を上り始めた。


ゴリムは一拍遅れて、重い足を踏み出した。


二階の廊下。

突き当たりの園長室の扉が見えた瞬間

ゴリムの足がぴたりと止まる。


「……」


ニコはゴリムを振り返り、小さく頷いた。

そして扉に向かい、軽くノックする。


「園長。ニコです、ゴリムさんを連れて来ました」


「入れ」


低い声が返ってきた。


ニコがドアノブに手をかけ、ゆっくりと開ける。

そして振り返り、ゴリムの背中に両手を当てた。


「……ちょ、ちょっと待っ」


有無を言わさず、ぐいっと押し込む。


ゴリムが部屋に踏み込んだ瞬間

ニコはそのままドアを静かに閉めた。


――――


部屋の中に、ゴリムだけが残された。


園長が机越しに、静かにこちらを見ている。


「……座れ」


ゴリムは言われるまま、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。


「ニコたちの旅に、お前を同行させようと思っている」


ゴリムの目が、わずかに開く。


「斥候だ。お前の足と目と耳が必要だ。

そのために努力してきたんだろ」


「そうですが……俺が、行っていいんですか?」


「お前でなければ意味がない」

園長は静かに、しかしはっきりと言った。


ゴリムの喉が鳴る。

返事が出てこない。


「お前はヴォルンに弓と短剣を作ってもらえ。

話はしてある」


園長は続ける。


「素材集めを優先して構わん。

アレンには俺が許可したと言っておけ」


「アンズーとシルヴァにも話を通しておく」


「アンズーさんとシルヴァに……?」


「弦と矢羽根に、軽くて強靭な奴らの羽が必要だ」

園長が短く答えた。


「お前の弓だ。お前に合ったものを作ってもらえ」


ゴリムはしばらく黙ったまま

膝の上に置いた拳を見つめていた。


剣の修行には参加できなかった。

素振りも、踏み込みも、切り返しも

――輪の外から見ていただけだった。


それでも、ここに来た。

静けさを身につけ、森を歩き、羽根のローブをもらった。


そしてついに今、名前を呼ばれた。


「……わかりました」


ゴリムは椅子から立ち上がり、深く頭を下げた。


「精一杯やります」


園長は小さく頷いた。


「行け。ヴォルンが待っている」


ゴリムは踵を返し、扉へ向かう。


ドアノブに手をかけたところで、園長の声が背中に落ちた。


「……ゴリム」


振り返る。


「お前が仲間を守れ」

その言葉だけだった。


ゴリムは一度だけ、深く頷いた。

そして扉を開け、廊下へ出た。


(いつも守られてばかりの俺が……みんなの力に)

ゴリムは、静かに拳を握った。


――――


廊下の壁に背を預け、ニコが待っていた。


「どうでしたか?」


ゴリムはしばらく黙ってから、ぽつりと言った。

「……俺も、お前たちについて行けるらしい」


ニコの顔がぱっと明るくなる。

「ほんとですか?……よかった」


ゴリムは照れくさそうに顔を背けた。

だが、その口元は――ほんの少しだけ、緩んでいた。


「園長にヴォルンさんに弓と短剣を

作ってもらうように言われてるんだけど……」


「そうなんですか」

ニコが感心したように言った。


「俺に弓と短剣が使えるようになるのかなぁ〜」

ゴリムが不安そうに呟く。


「大丈夫じゃないですか。

ゴリムさんは器用ですから」

ニコが言った。


「そうか……」


「ニコ。お願いがあるんだけど

アレンさんに、園長から農作業免除と素材集めの

許可をもらったと伝えてくれないか」

ゴリムがニコに頼んだ。


「わかりました。伝えておきますよ。

頑張ってくださいね」

ニコが頷き、駆け足で食堂へ戻っていく。


ゴリムはその背中を見送ってから、大きく息を吐いた。


(……ヴォルンさんの所に行くか)


――――


鍛冶工房の扉を開けると

ヴォルンはすでに作業台の前に立っていた。


「来たか」

振り返りもせず、短く言う。


「園長から話は聞いていると思いますが

……よろしくお願いします」

ゴリムが頭を下げた。


「ああ」

ヴォルンは道具を置き、腕を組んだ。


「まず樫の木が要る。

北の森に生えているはずだ。案内しろ」


「俺が……ですか?」


「お前は森に慣れているだろう。

木の目利きはわしがする。お前は森の中を案内してくれ」


ゴリムは少しだけ胸が熱くなるのを感じた。

役割を任された、ということだ。


「わかりました。行きましょう。

それで、どんな所に生えているんですか?」

ゴリムが尋ねる。


「森の中の開けた、日当たりの良い場所だな」

ヴォルンが答えた。


――――


二人は北の森へ向かった。


朝の光が木々の間を縫い、草の露がきらきらと光っている。

夏の森は緑が深く、風が吹くたびに葉が揺れてざわめいた。


ゴリムは自然と歩き方が変わる。

踵から乗らない。足の外側からそっと置く。

枯れ葉の帯は避け、湿った苔の上を選んで進む。


後ろを歩くヴォルンが、ふと言った。

「……音がしないな」


「森に入ると、こうなるんです」

ゴリムが小声で答えた。


ヴォルンは何も言わなかった。

だが、その目がわずかに細くなった。


しばらく進むと、北の斜面が見えてきた。

傾斜がなだらかで、日当たりがよく、水はけも良さそうな地形だ。


ゴリムは立ち止まり、鼻を動かした。


「……あっちです」

森の中の開けた場所を指さす。


「どうしてわかる」

ヴォルンが問う。


「葉の匂いが違います。濃くて、少し渋い匂いがする」

ゴリムが答えた。


ヴォルンは無言で頷き、先へ進んだ。


やがて、木々がまばらになった場所に

どっしりとした幹の木が数本、並んで立っているのが見えた。


日当たりが良く、地面は適度に湿っている。

濃い緑の葉が風に揺れ、どんぐりの名残が

いくつか地面に落ちていた。


ヴォルンが近づき、幹に手を当てた。

指先で叩く。

コン、コン。

澄んだ、詰まった音が返ってくる。


爪で表面を削る。断面を嗅ぐ。

腕を回して太さを確かめる。


しばらくして、ヴォルンが低く言った。

「……これだ」


「いいんですか?」

ゴリムが確認する。


「密度がある。真っ直ぐ育っている。虫食いもない」

ヴォルンは幹から手を離し、空を見上げた。

「弓の芯に使える」


ゴリムはその木を見上げた。


この木から、自分の弓が生まれる。

そう思うと、不思議と足が地に根を張るような感覚があった。


ヴォルンは懐からナイフを取り出し

幹の目線の高さに、小さく印を刻んだ。

カリ、と乾いた音がする。


「後で取りに来る。

切り出してから乾燥させる時間が要る」


「どのくらいかかりますか?」

ゴリムが聞く。


「急ぎなら……最低でも数日だ」

ヴォルンは短く答え、ナイフを懐に戻した。


「わかりました」


――――


素材を確認し終え、二人は帰路についた。


来た道を戻りながら歩いていると

往路では素材探しに集中していて気づかなかったが

木々の間から、遠くに何かが見えた。


ゴリムが足を止める。

「……ヴォルンさん」


「見えている」

ヴォルンも立ち止まり、前方を見つめた。


木々の向こう。

北の果てに、天を覆うほどの巨木がそびえていた。


幹は滑らかで淡い灰白色。

所々に横縞模様が走り、艶やかな樹皮が

夏の光を柔らかく受け止めていた。

天を覆う葉は、深く生命力に満ちた緑。

吹き抜ける風に葉をそよがせていた。


二人は自然と、その方向へ歩き出していた。


近づくにつれ、その大きさがわかってくる。

幹の太さは、園の建物が丸ごと収まるほど。

根は大地を深く掴み、どんな嵐にも揺らがない強さを持っていた。


「……でかいな」

ゴリムが思わず呟く。


根元まで来て、ゴリムは思い切り上を見上げた。


天まで届くかのような枝が広がり

深緑の葉が空を覆い尽くしている。

その隙間から、木漏れ日がゆっくりと降り注いでいた。


音がない。

風だけが、葉を揺らしている。


ゴリムはしばらくの間、ただそこに立っていた。


あの夜、ニコの声がここに届いた。

この巨木は、その証だ。


「……ニコがつけた名前だ」

ゴリムが静かに呟いた。


「ヴェルディオス」


その名を口にした瞬間、風がふわりと吹いた。

葉が揺れ、木漏れ日がゴリムの顔を照らす。


まるで、答えるように。


「……行くぞ」

ヴォルンが短く言った。


「はい」

ゴリムは一度だけ振り返り、巨木を見上げた。


そしてまた前を向き、歩き出した。


ーーーー


鍛冶工房に戻ると、ヴォルンはすぐに

やりかけの仕事へと向かった。


作業台に向かいながら、振り返りもせずに言う。

「木の伐採はアレンとクルツに頼んでおけ」


「はい。わかりました」

ゴリムが即答する。


ヴォルンは道具を手に取り、作業を再開しながら続けた。

「あとは……弦と矢羽根だな」


手を動かしたまま、少し考えるように眉をひそめる。

「軽くて強靭な羽が要る。そう簡単には手に入らんぞ」


「それなら大丈夫です」

ゴリムが笑顔で返した。

「園長がアンズーさんとシルヴァに

話をしてくれているはずなので」


ヴォルンの手が、ぴたりと止まった。


ゆっくりと振り返る。

「……アンズーと、シルヴァだと?」


「はい」


ヴォルンはしばらく無言でゴリムを見つめた。


それから、低く、しかし確かな熱を帯びた声で言った。

「……そりゃとんでもない弓ができるぞ」


「ほんとですか?」

ゴリムが思わず身を乗り出す。


「ああ、ほんとだ」

ヴォルンは作業台に向き直り

腕まくりをし直しながら不敵に笑った。


「こりゃ……腕がなるな」


ヴォルンはそう言って、しばらく何かを考えるように

作業台を眺めていた。


やがてゴリムが、ふと思い出したように口を開いた。

「ヴォルンさん。羽根ってどうやって採るんですか?」


「どうやってって……」

ヴォルンが作業の手を止めずに答えた。

「寝床に行けば落ちてるだろ」


「えっ」

ゴリムが間の抜けた声を出す。


「鳥や翼のある魔獣は、毎日羽が抜け落ちる。

それを拾えばいい。それだけだ」


「……そんなに簡単に手に入るんですか?」


「簡単とは言っとらん」

ヴォルンが短く訂正する。

「量が要る。根気よく集めるんだ」


「なるほど……」

ゴリムは素直に頷いた。


ーーーー


ゴリムはアンズーの厩舎へと向かった。


扉の前で立ち止まり、そっと中を覗き込む。

アンズーの姿はない。出かけているようだ。


「今がチャンスだな……」

ゴリムが小さく呟いた。


足音を殺し、するりと中へ滑り込む。

森で身につけた静かな足運びが、思わぬ場所で役に立った。


寝床を見渡すと、大きな羽根がいくつも散らばっている。


「結構落ちてるなぁ~」

ゴリムが感心したように呟き、しゃがみ込んで羽根を拾い始めた。


その時だった。


ゴソゴソ。


「……っ!」

ゴリムの体が固まる。


ゆっくりと振り返ると――


「……なんだよ、おまえか」

思わず力が抜けた。


「ガァオ、ガァオー!」

ハスキーが尻尾をぶんぶん振りながら、ゴリムに飛びついてくる。


「こら、邪魔するな! 俺は今忙しいんだ」

ゴリムが小声で追い払おうとするが

ハスキーはお構いなしに顔をぐいぐいと押しつけてくる。


「……静かにしろよ。

隣で寝ているカイチさんが起きたらどうするんだよ!」


「おまえ。何をしている」

低い声が、背後から落ちてきた。


ゴリムの背筋が凍る。


ゆっくりと振り返ると、カイチがいつの間にか起き上がり

こちらをじっと見下ろしていた。


「カッ……カイチさん」

ゴリムの声が裏返る。


「は、羽根を集めているんです」

しどろもどろに答えながら、麻袋の羽根を見せた。


「羽根……アンズーの羽を集めているのか?」

カイチが低く問う。


「そっそうです。弓を作るのに、たくさん必要で……

園長から許可もいただいてます」

ゴリムが正直に、少し早口で話した。


カイチはしばらくゴリムを見つめたまま

何も言わなかった。


やがて、鼻をひとつ鳴らし

口元にわずかな笑みを浮かべた。


「そうか……ならば、我にいい考えがある」


「え……?」


「手伝ってやる。感謝しろ」


ゴリムは一瞬だけ呆気にとられ

それから深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


厩舎に眩しい日差しが差し込んでいる。


二人の間での密約が交わされたことなどどこ吹く風と

ハスキーは二人の足元で無邪気に尻尾を振っていた。


第101話 

クルツの心労とゴリムの役割

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回は二つの流れを並行して描きました。


一つ目は、クルツが抱える心労です。

選抜戦で敗れた騎士たちが一般枠として

闘技大会に参加することになり、さらに彼らを

魔獣園で預かって共に修行することになった。

頭を下げるクルツに「願ってもないことです」と

力強く返すニコの言葉が、クルツの重さを

少しだけほどいてくれたのではないでしょうか。


二つ目は、ゴリムがついに旅への同行を

認められる場面です。

剣の修行の輪の外で、ひたすら静けさを磨き続けたゴリム。

園長の「お前でなければ意味がない」という一言は

32話からの長い積み重ねへの答えでもあります。


そして今回のお気に入りの場面は

アンズーの厩舎でこっそり羽根を集めていたところに

ハスキーが現れ、さらにカイチまで起き出してきてしまう

ゴリムの慌てぶりです。

「感謝しろ」と言いながら手を貸すカイチと

そんな二人をよそに無邪気に尻尾を振るハスキー。

緊張感のある展開の中に、こういった温かい場面を

入れることを大切にしています。


次回はいよいよ、カイチの「いい考え」が明らかになります。

どうぞお楽しみに!


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