明日に向かって
今朝、早起きして畑のようすを見にいく。
冬野菜は早くも芽を出し、先月に枝を落としたナスには新芽が出て、枝先に紫色の花をつけていた。
それぞれに水やりをした。
ふと……。
菊の花が一輪咲いているのに気づく。
さっそく摘んで、それを祖母の遺影の前に飾って見せてあげた。
工務店に勤め始めて一週間が過ぎた。
従業員は十人にも満たないが、そのぶん和気あいあいとしており、社長をはじめみんなが不慣れなオレによくしてくれる。
歓迎会も盛大にしてくれた。
仕事は経理をはじめ事務全般で、出産で辞める女性が引継ぎを兼ねて、今月いっぱい教えてくれることになっている。
この日。
仕事から帰ると、夕暮れの中、畑の前の道路に人影が立っていた。
暗くて顔まではわからない。
「おい、ボスが来てるぞ」
ノラが待っていたように教えてくれた。
「こんばんは」
声をかけて人影に近づく。
「仕事、少しは慣れたかな?」
サオリさんのお父さんは、オレの帰りを待っていたようである。
「はい、少しずつですが」
「それでミケのことだが、君には申しわけない」
「気にしないでください。お父さんは猫嫌いだと、サオリさんから聞いていますので」
「猫は嫌いじゃないんだが、実はひどい猫アレルギーでね。そばにいるだけでダメなんだよ」
「それで……」
「面倒なことを押しつけるみたいだが、しばらくミケのことを頼むよ。それにサオリのことも」
「はい、こちらこそ」
「サオリは子供のころから優しい子でね。捨て猫を育てるぐらいだから、きっといい嫁になると思うんだ」
サオリさんを嫁さんとしてアピールされる。
――これって、オレのことを婿さん候補に考えてくれてるってこと?
急に胸がざわついてきた。
それを押し隠すようにして、ナスを植えた一画にお父さんを誘った。
「見てください。教えていただいたとおり枝先を切ったら、新しく花が咲いたんです」
「ほんとだ、やってみるもんだな」
「ありがとうございます」
「礼なら、君のおばあさんにしたらいい。実はわたしも、ここで教えてもらったんだよ」
祖母の教えがまわりまわってきたということか。
これも縁なのであろう。
この家に引越してきて一年になる。
玄関の前で運送会社のトラックを見送ったことがなつかしく思われる。
この町に来てよかった。
ノラに出会えてよかった。
サオリさんに出会えてよかった。
「おい、メシをくれ」
ノラがいつものようにメシを催促してくる。
「今日は猫缶をつけてやるぞ」
「ほんとか?」
「ああ、今日はお祝いだ」
明日に向かって……。
オレとノラは、ともに新たな一歩を踏み出そうとしていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回の連載は「怪盗ガンタンと恐竜の子メイ」です。少年少女読み物として「童話」のジャンルでの投稿予定であります。こちらの方もよろしくお願いします。




