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観測余録 ― 少女記録、開始

 深夜。


 白鐘女学園の窓は、すべて眠りの色へ沈んでいた。


 鐘楼の白い鐘は修理中だった。


 古い縄は取り外され。


 打鐘機構も固定されている。


 今夜。


 誰にも、あの鐘を鳴らすことはできない。


 それでも。


 白い鐘が、一度だけ鳴った。


 澄んだ音が鐘霧丘を渡り。


 旧東棟の壁を震わせる。


 記録室の暗がりに。


 黒いシルクハットをかぶった、小柄なドワーフの男が立っていた。


 黒い外套。


 白い手袋。


 細身の杖。


 エル=ネフリドは、散らばった古い記録の間へ杖を差し入れた。


 昼間の資料整理では回収されず。


 古い記録箱の陰に残されていた。


 別の、小さな仮番号札。


 表には。


 ――第十三在籍者


 それだけが記されている。


 杖の先で、札を裏返す。


 何もなかったはずの裏面へ。


 新しいインクが、紙の内側から染み出すように。


 文字を結んでいった。


 ――エレノア=クラウス

 ――配役 未定


 エル=ネフリドは、しばらくその文字を眺めていた。


 やがて。


 静かに笑う。


「死亡記録、なし」


 札を指先で弾き。


 黒い外套の内側へ収める。


「少女記録、開始」


 鐘の余韻が消えたとき。


 記録室には、もう誰もいなかった。


 ただ。


 夜の廊下の向こうから。


 誰かを追いかける少女たちの足音と。


 楽しげな笑い声だけが、近づいてきていた。

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