第10節 ― イル=ヴァスの問い
ここで。
記録を止めよう。
中央記録塔の主機は沈黙し。
エリアス=フォルンの名票鍵は、なお生者照合板へ差されたまま。
レオン=クラウスは。
事件を再現するため、停止した塔へ戻ろうとしている。
だが。
その前に。
わたしは、あなたへ問いを置く。
わたしは、イル=ヴァス。
記された事実と。
記録によって作られた事実。
その境界を観測する神格である。
◇
第一の問い。
死亡記録は。
なぜ三十九分後の時刻を、先に記すことができたのか。
紙の左端には。
将来発効記録を示す、三つの穿孔があった。
記録が印刷された時刻と。
命令が効力を持つ時刻は。
同じではない。
ならば。
あの紙は未来を予言したのか。
それとも。
未来へ置かれた命令を、先に表示しただけなのか。
◇
第二の問い。
午後十一時十分に死んだのは。
エリアス=フォルンの何だったのか。
彼の肉体は呼吸し。
自分の声で答え。
救出されたあとも。
午後十一時三十一分まで生きていた。
それでも。
午後十一時十分。
差されたままの名票鍵を残し。
生者照合板から、彼の名は消えた。
◇
第三の問い。
主動力を止めたあと。
何が彼を殺したのか。
主要蒸気系統は閉じられていた。
だが。
補助凝縮管には、蒸気の道が残されていた。
記録筒室には。
時刻を指定できる自動洗浄工程がある。
そして。
生きた職員が中にいると照合されるかぎり。
その工程は、始まらない。
◇
第四の問い。
なぜ。
事故の瞬間に大勢の前へいた者も。
容疑から外れないのか。
将来発効命令も。
自動洗浄工程も。
あらかじめ時刻を指定できる。
殺人が実行された時刻と。
殺人を準備した時刻は。
同じである必要がない。
◇
第五の問い。
十二年前と昨夜を結ぶ者は。
誰なのか。
十二年前。
四人の作業員は。
救助が終わる前に、死亡閉鎖された。
そのうち一人。
イーダ=メルクは、今も生きている。
閉鎖された名が、生者の照合から外れる構文を教えた者がいる。
その講義を受け。
意味を理解した者がいる。
そして。
保守命令索引には。
《B―0》という運用番号が残されていた。
◇
将来発効の穿孔。
複製された総帥印。
一度だけ鳴った非常警報。
止められた主機と。
止められなかった蒸気の道。
必要な手掛かりは。
すでに、あなたの前へ置かれている。
問うべきは。
誰がエリアス=フォルンを殺したのか。
それだけではない。
誰が。
都市へ命じたのか。
――この者を、生者として数えるな、と。




