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第10節 ― イル=ヴァスの問い

 ここで一度、記録を閉じよう。


 すでに、最初の問いには答えが出ている。


 六両で発った《黒梟号》は、なぜ七両で到着したのか。


 封印された七号車で、どのように殺人が行われたのか。


 ダリウス=モーンは、走行中の密室で殺されたのではない。


 灰橋の白灰側線へ置かれていた廃検査客車《C―214》。


 まだ列車の一部ではなかった、その古い客車へ誘い込まれ、殺された。


 犯人は遺体を左側の暖房管へ寄せ、主蒸気弁と左側分岐弁を全開にした。


 八年前の乗車券を胸へ入れ、原始編成表を座席下へ置き、前方扉を古い銅線と鉛封で閉ざした。


 そして、あらかじめ送り込んでおいた偽造移送命令によって、死体のある客車そのものを《黒梟号》へ連結させた。


 列車が走り出せば、蒸気は遺体の左半身を温める。


 到着時、死体は殺されたばかりに見える。


 扉の封印は破られていない。


 窓も閉じている。


 走行中、誰も七号車へ出入りしていない。


 すべて事実である。


 ただし、殺人が起きた時刻だけが違っていた。


 密室は破られていない。


 殺人のあとで、密室が作られたのだ。


 これが、第一の答えである。


 では――第二の問いへ進もう。


 誰が、それを準備できたのか。


 誰が、八年前に廃止された操車符号《R―7》を、現場で使われていた形のまま知っていたのか。


 誰が、《黒梟号》の出発前に中央運行課の発送棚へ近づき、灰橋行きの定時気送便へ偽造命令を紛れ込ませることができたのか。


 誰が、灰橋の白灰側線に置かれた《C―214》を知り、列車到着前に真鍮の《7》を取り付け、暖房弁を操作できたのか。


 読者諸君。


 破られた手帳を思い出してほしい。


 数枚の頁が、綴じ糸の根元から引きちぎられていた。


 だが、紙を取り去っても、その下へ押しつけられた文字の凹みまでは消えなかった。


 袖口に残っていた、黄色く光る金属粉。


 それは書類留めや真鍮定規から落ちた、ありふれた粉なのか。


 それとも、古い車体へ新しい番号板を取り付けたときに生じたものなのか。


 爪の際に残っていた、煤油だけでは説明できない黒い物質。


 それは機械へ触れた汚れなのか。


 あるいは、古い銅線と鉛封を固めていた封印材なのか。


 そして、灰橋の霧の中へ消えた十一分間。


 ほかの四人が隠していた行動には、証人か、足跡か、壊された錠か、作業記録が残っていた。


 ただ一人。


 その十一分間を支える他人の証言も、物的な痕跡も、まだ見つかっていない。


 それだけで、人を殺人犯と呼ぶことはできない。


 だが、偶然と呼ぶには多すぎる事実が、同じ場所へ集まり始めている。


 古い符号。


 破られた手帳。


 真鍮の粉。


 黒い封印材。


 誰にも確認されなかった十一分。


 さらに、封鎖保管庫からは、八年前の灰橋操車場職員台帳がこちらへ向かっている。


 そこへ、誰の名が記されているのか。


 誰が、八年前の七号車を記録から消す仕事へ関わっていたのか。


 観測神格イル=ヴァスは、答えを与えない。


 神はただ、すでに置かれた記録を指し示す。


 八年前の乗車券は、セルマを告発するための証拠だったのか。


 彼女へ殺人の罪を着せるための偽装だったのか。


 それとも、名簿から消された七人が確かに存在したと、世界へ示すためのものだったのか。


 犯人は、七号車を作ることができた者である。


 同時に。


 七号車を、どうしてもこの世界へ戻さなければならなかった者でもある。


 必要な手掛かりは、すでに示された。


 方法は解かれた。


 残る問いは、一つ。


 誰が――存在しない七号車を準備したのか。

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