第3節 ― 正当に所有する皆様
湿度管理管の測定を終えたあとも、レオンは蒼硝子円蓋室を離れようとしなかった。
七葉銀冠。
交換された固定具。
内側に残された古い織布。
形も材質も判別せず、重量だけを記録する警報機。
封印の内側と、地下保存区画をつなぐ細い管。
彼は一つずつを見直していた。
ミラベルの筆が止まるたび。
何も言わず、次の場所へ視線を移す。
円蓋の外から、抗議の声がかすかに届いていた。
厚い石壁と二重扉を隔てているため、言葉までは聞き取れない。
ただ。
一定の調子で繰り返される声と。
それを押し返そうとする警官の号令だけが、蒼い硝子の天井へ鈍く響いている。
ミラベルは、閉ざされた扉を見た。
「外へ行ってきます」
レオンは展示台の下から顔を上げない。
「どこへ」
「抗議している人たちのところです」
「怪盗の捜査は?」
「この展示が、なぜ狙われたのかを調べます」
「抗議者が知っているとは限らない」
「美術館の中にいる人だけが知っているとも限りません」
レオンが、ようやく彼女を見る。
「一人で行くな」
「正面階段には警察が大勢います」
「大勢いることと、君を見ていることは違う」
「では、警部に見ていていただきます」
二人の視線を受けたグレアムが、露骨に嫌そうな顔をした。
「俺は子守に来たんじゃないぞ」
「記者の保護も、市民の保護に含まれませんか」
「口の減らん嬢ちゃんだ」
グレアムは円蓋室の入口に立つ若い巡査を呼び、顎でミラベルを示した。
「正面階段まで付いていけ。群衆の中には入るな」
「私は入ります」
「なら、戻ってくるところまで見張らせる」
「過保護ですね」
「お前が無謀なんだ」
レオンが言った。
「あなたにだけは言われたくありません」
ミラベルは取材帳を閉じた。
「権利書を見るまでには戻ります」
「急ぐ必要はない」
「意外です」
「外で話を聞く方が、ここで俺の後ろを歩くより役に立つ」
「一言余計です」
ミラベルは巡査を伴い、円蓋室を出た。
◇
正面扉が開くと。
声と霧が、一緒に押し寄せてきた。
美術館前の鉄柵には、いくつもの布札が結び付けられている。
旧王国の紋章を描いたもの。
再開発反対と大書されたもの。
土地権利の再調査を求めるもの。
七葉銀冠を旧エルフ王家へ返せと訴えるもの。
だが。
掲げられた言葉は、一つではなかった。
集まった者たちの種族も。
服装も。
訴えも違う。
古びた礼服を着たエルフ。
工房用の革前掛けを付けたドワーフ。
子どもの手を引いたヒト族の夫婦。
新聞記者。
学生。
再開発地域の商店主。
先祖の権利を語る者の隣で。
現在の住居を守れと叫ぶ者がいる。
二人の主張は、同じ市政へ向けられていながら、必ずしも同じ結末を望んではいなかった。
ミラベルが階段を下りると、数人が彼女の取材帳に気づいた。
「新聞かい」
声を掛けてきたのは、老いたエルフの女性だった。
長い耳の先は寒さに赤くなり、擦り切れた外套の胸元には、古い銀糸の紋章が縫い付けられている。
だが。
それは誇示するための紋章ではなかった。
布と一緒に擦り切れ、かろうじて形を残している。
「《ヴェルム市民記録報》です」
ミラベルは名乗った。
「お名前を伺っても?」
「名を載せれば、古い家柄を振りかざしたと言われる。載せなければ、誰とも知れぬエルフの戯言にされる」
老女は乾いた笑いを漏らした。
「どちらが記事に都合がいいね」
「お名前を載せるかどうかは、話を伺ってから決めます。匿名を希望されるなら、その理由も含めて扱います」
「変わった記者だね」
「よく言われます」
「隣の偏屈な男にもかい」
老女は美術館の窓を見上げた。
レオンが来ていることは、すでに群衆にも知られているらしい。
「王冠の返還を求めているんですか」
ミラベルが尋ねた。
「王冠は返すべきさ。少なくとも、市の成立を飾る置物にしていい品ではない」
「土地も、旧王家へ返すべきだと?」
老女はすぐには答えなかった。
鉄柵の向こう。
再開発計画の告知板には、取り壊される街区と、新しく建設される道路、倉庫、商業施設が色分けされている。
老女は、その地図へ目を向けた。
「王へ返せとは言わない。あの土地には、もう別の人々が住んでいる」
ミラベルの筆が止まる。
「では、何を求めているんです?」
「確かめることだよ」
老女は言った。
「百二十七年前に、何が約束されたのか。誰が何を渡し、誰が何を預かったのか。いまの住民を追い出して、死んだ王の末裔へ土地を配れば正義になるとは思わない」
「ですが、権利を奪われたままにしてよいとも思わない」
「そうさ」
老女の瞳が、霧の向こうにある七葉銀冠を見ようとするように細くなる。
「返す相手が分からないからといって、奪ったことまでなかったことにはできない」
その横で、誰かが鼻を鳴らした。
若いドワーフの男だった。
肩幅は広く、厚い革前掛けには細かな金属粉が付いている。片手の指へ、新しい火傷を保護する布が巻かれていた。
「奪ったと決めるのも早いだろ」
彼は老女へではなく、ミラベルへ向けて言った。
「灰炉譲渡証書には、土地を渡したと書いてある」
「あなたは再開発に賛成なんですか」
「そうじゃない」
若い職人は眉を寄せた。
「俺の工房は西環にある。親方から継いだ小さな旋盤工房だ。再開発で立ち退けと言われてる」
「市有地だから?」
「長期使用契約が切れるからだとさ。市の土地なんだから、市が何に使おうと自由だと言われた」
男は告知板を見た。
新しい物流道路の予定線が、現在の工房街をまっすぐ横切っている。
「だから、市の言い分を信じているわけじゃない。だが」
彼は汚れた手袋を握った。
「百年前の紙一枚で、今の工房を閉じろと言われても困る」
「旧王国の権利が認められれば、そうなると思いますか」
「分からん」
若い職人は正直に答えた。
「誰が持ち主になるのかも分からん。古い王家か。旧住民の子孫か。エルフ全体か。そんな話になれば、工房を続けられる保証なんかない」
老女は彼を睨まなかった。
ただ、小さく息を吐く。
「だから、まず調べろと言っているんだよ」
「調べている間に、再開発が始まる」
「調べずに始めれば、終わったあとで誰も戻せない」
二人のあいだに、短い沈黙が落ちた。
敵意ではなかった。
どちらも。
自分が失うものを知っている者の沈黙だった。
ミラベルは、取材帳へ二本の線を引いた。
旧権利。
現住民。
その二つを対立させる矢印を描きかけ。
やめる。
片方が正しく。
片方が間違っているわけではない。
さらに。
二者の対立から利益を得る者が、別にいる。
「お姉さん」
小さな声に呼ばれた。
ヒト族の女が、幼い子どもの肩へ手を置いて立っていた。隣には夫らしい男がいる。二人とも上着の裾に煤が染みつき、仕事へ向かう途中で立ち寄ったような格好だった。
「新聞に書いてくれるのかい」
「お話を伺えれば」
「うちは王家なんか知らない」
女は言った。
「エルフの土地だったと言われても、私たちが住み始めたのは十二年前だ。市の窓口で契約して、保証金も払った」
夫が、折り畳まれた通知書を差し出す。
再開発に伴う退去勧告。
そこには、市有地の用途変更という文言が印字されていた。
「市の土地なら、なぜ急に追い出されるのか」
男は告知書を握ったまま言った。
「市のものだから自由だと言われた。だが、俺たちは市と契約したんだ。市の記録を信じて暮らしてきた」
「王冠が誰のものでも、私たちの家はここにある」
女が続ける。
「古い権利を調べるなとは言わない。でも、その結果を理由に、また別の誰かを追い出すなら、何も変わらないだろう」
子どもが母親の外套をつかんだ。
美術館の高い壁を、怯えたように見上げる。
その壁には、特別展示の大きな告知幕が掛かっていた。
――百二十七年にわたる、正当な継承の歴史。
その下。
再開発組合の案内所では、完成後の西環旧市街を描いた色刷りの絵が配られている。
広い道路。
新しい倉庫。
整然と並んだ商業施設。
そこには。
現在の工房も。
老いたエルフの記憶も。
子どもの家も描かれていなかった。
「展示と再開発が、同じ言葉を使っていますね」
ミラベルが呟いた。
「何だって?」
若い職人が尋ねる。
「正当な所有です」
特別展示は、過去を見せるためだけのものではない。
現在の計画を、すでに決着した歴史の続きに見せるためのものだった。
市は百二十七年前から土地を所有している。
ゆえに現在も所有している。
ゆえに再開発する権利がある。
王冠と権利書は、その論理を、市民の目に見える形へ変える。
美術館の硝子ケースに収められているのは、古い王冠だけではない。
これから取り壊される家々の根拠でもあった。
ミラベルは、三者の言葉を取材帳へ書き終えた。
老エルフは、王への単純な土地返還を求めていない。
若いドワーフは、市の所有を信じていないが、古い権利によって工房を失うことも恐れている。
ヒト族の家族は、正規の契約を結んだのに、市有地だからという理由で追い出されようとしている。
これは、エルフとドワーフの争いではない。
過去の所有者と、現在の住民。
どちらか一方だけを選べば終わる問題でもない。
誰の権利を。
誰の都合で。
どの時点の記録へ所属させるのか。
その問題だった。
「書きます」
ミラベルは取材帳を閉じた。
「王冠だけの記事にはしません」
老女は、わずかに笑った。
「なら、怪盗より先に盗まれないようにおし」
「何をです?」
「話の意味をさ」
◇
権利文書室は、蒼硝子円蓋室よりも冷えていた。
窓はなく。
低い蒸気灯の光だけが、平型展示ケースを照らしている。
光を嫌う古文書のため、壁も床も暗い色で統一されていた。
中央には《灰炉譲渡証書》。
その周囲に。
古エルフ語原文の拡大複製。
百二十七年前に作成された共通語訳。
現在の市記録院による現代語訳。
そして、土地所有権認定書が並べられている。
四つの文書は、同じ事実を、違う時代の言葉で語っているはずだった。
レオンは展示ケースの縁へ両手を置き、三つの文章を順に見比べていた。
グレアムは部屋の隅で、警備配置図を確認している。
セルマは原文側に立ち。
マリウスは現代語訳と所有権認定書の側に立っていた。
まるで。
文書の解釈そのものが、部屋の左右へ分かれているようだった。
「戻りました」
ミラベルが入ると、レオンは原文から目を離さずに言った。
「遅かったな」
「急ぐ必要はないと言ったのは、あなたです」
「本当に急がないとは思わなかった」
「話を聞いていたんです」
「何人から」
「三組です。王冠を王家へ返せと考えていない老エルフ。古い権利で工房を失うことを恐れているドワーフ。市と契約したのに、市有地だから退去しろと言われているヒト族の家族」
グレアムが配置図から顔を上げる。
「外で揉め事は」
「ありません。少なくとも、私がいたあいだは」
「意見はばらばらか」
「同じ再開発へ反対しています。でも、望んでいる結末は同じではありません」
ミラベルは平型ケースへ近づいた。
「展示は、その人たち全員に対して、市の所有権は確定していると示すためのものなんですね」
「市制記念展示です」
マリウスが答える。
「再開発の宣伝施設ではない」
「告知幕には『正当な継承の歴史』とありました。再開発組合の案内にも『正当な市有地の活用』と書かれています」
「同じ事実を根拠にしているのですから、表現が似るのは当然でしょう」
「同じ事実ですか」
ミラベルは展示ケースの三つの文章を見た。
「いま、そこを調べている」
レオンが言った。
「違いがあるんですか」
「一語だけな」
彼は、古エルフ語原文の中ほどを指した。
細く流れる古い文字。
その直下に置かれた、当時の共通語訳。
さらに隣へ配置された、現代語訳。
三つの文章は、配置も行数もほぼ対応していた。
だが。
レオンの指が止まった一か所だけ。
現代語訳の文が長くなっている。
「原文は?」
ミラベルが尋ねる。
「俺の古エルフ語を信用するな」
「自信がないんですか」
「専門家ほどではないという意味だ」
レオンはセルマを見る。
「アストレイ主任。原文のこの語を、正確に訳すなら?」
セルマはすぐには答えなかった。
展示ケースの中にある古い文字を見つめる。
その横顔には、円蓋室で王冠を見ていたときと同じ緊張があった。
「一語では訳せません」
「なぜ」
「現在の共通語に、完全に一致する概念がないからです」
「候補は」
セルマは小さく息を吸った。
「管理を託す。守護を委ねる。相手の手へ渡す」
「所有権の譲渡は」
「含む場合があります」
「含まない場合も?」
「あります」
マリウスが口を挟む。
「文書全体の構造を無視して、一語の多義性だけを論じるべきではありません」
「まだ文書全体の話はしていない」
レオンが言った。
「いま確認しているのは、この語だけだ」
彼は当時の共通語訳へ指を移す。
「百二十七年前の翻訳では、『七つの領地の管理を評議会の手へ委ねる』に近い」
次に。
現代語訳。
「こちらでは、『七つの領地に関する全所有権を永久に譲渡する』となっている」
ミラベルは二つを見比べた。
「言葉が増えています」
「全所有権」
レオンが一つを示す。
「永久に」
もう一つ。
「原文のどこにありますか」
「直接対応する語はありません」
セルマが答えた。
「ただし、返還期限も明記されていません。以後の行政文書では、市の前身組織が土地を所有するものとして扱われています」
「だから『永久に』を加えた?」
「後世の法制度へ合わせ、意味を確定させたのだと思います」
「誰が確定させた」
「一人ではありません」
マリウスが答えた。
「百二十七年間の条例、税記録、道路建設、土地登記、裁判判断。その積み重ねです。現代語訳は、それらの法的経緯を反映しています」
「原文の翻訳ではなく、後世の判断を本文へ入れた」
レオンの声は静かだった。
「現代の市民が理解できるよう、法的意味を示したのです」
「解説欄ではなく、翻訳文へ?」
「古語を逐語的に置き換えれば、誤解を招く」
「どちらが誤解かを決めたのは、市だ」
マリウスの顎が、わずかに上がった。
「市が百二十七年間、その土地を管理してきたことは事実です」
「管理と所有は同じですか」
ミラベルが尋ねる。
「法制度上は、長期にわたる排他的な管理と行政実績が、所有権を補強します」
「補強するのであって、最初の契約を変えるわけではない」
レオンが言った。
「最初の契約だけで、現在の権利を判断するわけではありません」
マリウスは原文ではなく、市の所有権認定書へ手を向けた。
「曖昧な古語より、百二十七年間の行政実績が所有を証明する」
低い蒸気灯が、認定書の印章を照らした。
市記録院。
土地記録局。
現在の制度が押した、現在の所有者の印。
レオンはしばらく黙っていた。
「その主張には根拠がある」
彼が言うと。
マリウスの目に、わずかな意外さが浮かんだ。
「では」
「だが、原文が永久譲渡を明記しているという説明とは別だ」
レオンは現代語訳へ視線を戻した。
「事実として言えるのは三つだ。原文の語には、複数の読み方がある。当時の翻訳は、現在の翻訳ほど強い意味を持たない。現代語訳には、原文へ直接存在しない『全所有権』と『永久』が加わっている」
「それで、寄託だったと証明できますか」
マリウスが尋ねる。
「できない」
レオンは即答した。
セルマが、わずかに目を伏せる。
「原文が曖昧であることは確認できる。永久譲渡以外の意味へ読めることも確認できる。だが、それだけで最後王が寄託を意図したとは断定できない」
「決定的な証拠がない」
ミラベルが言った。
「そうだ」
「だから公式には、永久譲渡として扱われている」
「現状はな」
レオンはセルマを見る。
「この語が両方へ読めることを、美術館は展示解説に記したか」
セルマの唇が、わずかに動く。
「いいえ」
「なぜ」
答えたのはオスカーだった。
いつの間にか、権利文書室へ入ってきている。
「市記録院の正式認定と異なる未確定の解釈を、記念展示へ併記する必要はないからです」
「未確定だから載せない」
「当然でしょう」
「確定したように見せる現代語訳は載せる」
「公的認定に基づいています」
「展示を見た市民は、原文にも『永久譲渡』と書いてあると思う」
「専門的な翻訳論まで一般展示へ持ち込めば、かえって混乱します」
ミラベルは、外で聞いた声を思い出した。
返す相手が分からないからといって、奪ったことまでなかったことにはできない。
百年前の紙一枚で、今の工房を閉じろと言われても困る。
市の土地なら、なぜ急に追い出されるのか。
「混乱は、もう外にあります」
彼女は言った。
「展示へ書かなかったから、なくなったわけではありません」
オスカーは答えなかった。
蒸気灯の管が、かすかな音を立てる。
古い紙を守るために調整された空気が、暗い部屋をゆっくり循環していた。
レオンは展示ケースを離れた。
「円蓋室へ戻る」
「権利書の調査は終わりですか」
ミラベルが尋ねる。
「原本をケースから出せない以上、ここで読めるのは展示された範囲までだ」
「怪盗の言う『展示されなかった一文』は?」
「この証書にあるとは限らない」
「王冠の内側かもしれない?」
セルマの表情が、一瞬だけ硬くなった。
レオンはそれを見た。
だが。
この場では追及しなかった。
「仮説を増やす前に、すでに見えている物を確かめる」
◇
蒼硝子円蓋室へ戻ると、警官たちは夜間警備の位置を床へ印していた。
展示ケースの四方。
各扉の前。
円蓋回廊へ続く螺旋階段。
七葉銀冠は、その中心で変わらず蒼い光を受けている。
レオンは王冠を通り過ぎた。
最後王の肖像画の前で止まる。
縦長の大きな油彩画だった。
滅亡寸前の王国を治めた最後王は、白い長衣をまとい、石造りの広間に立っている。
背後には、旧王国とヴェルム=クロウ建設評議会の紋章。
画面の下部には、長卓へ広げられた文書。
王の右手には、署名を終えた羽根筆。
そして、その頭には。
七枚の銀葉が輪を描く、七葉銀冠。
「この肖像画は、いつの場面ですか」
レオンが尋ねた。
セルマが隣へ立つ。
「灰炉譲渡証書へ署名した日の公式記念画とされています」
「後世の想像画ではなく?」
「当日の記録に、王と建設評議会が画家を同席させたとあります。完成は後日ですが、構図と衣装はその場で記録されたものです」
レオンは、肖像画の下に付けられた銘板を見た。
制作日。
描かれた出来事の日付。
灰炉譲渡証書の署名日と一致している。
「王冠を渡した日に、王冠をかぶっていた」
ミラベルも絵を見上げた。
「肖像画だからでは?」
王として描かれるなら、王冠を着ける。
たとえ、その日に譲渡したとしても。
権威の象徴を省かないことは、不自然ではないようにも思える。
レオンは、描かれた王の手元を見た。
署名を終えた筆。
卓上の証書。
王の頭に残された七葉銀冠。
「なら、誰が何のためにそう描かせた」




