↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

15.初級魔法で、寮をぶった斬ってしまう


 奴隷を得てしまった、アスベル。彼は、純粋に魔法を学びに来たはずであった。だというのに――


「はぁん♡ ご主人様ぁ~♡ お掃除、しておきましたぁ~♡」


「……ありがとうございます、キルケー先生」


 寮の自室に、キルケーがいた。アスベルは、先ほどまで図書館で自主学習に励んでいたのである。部屋に戻ってみれば、メイド姿のキルケーが待ち構えていた。頼んでもいないのに、掃除まで済まされている。それに――


「……俺の部屋、鍵をかけておいたはずなのですが……」


「『開錠《アンロック》』という魔法が、ございますのよ~♡」


 新しい魔法を知れたはずなのに、素直に喜べない。アスベルは、深々と溜息をついた。


「それ、普通に、不法侵入では……」


「わたくしは、アスベル様の奴隷ですのでぇ~♡ 問題、ございませんわ」


 ――確かに、奴隷とは所有物として扱われるものらしい。とはいえ、彼の中では、キルケーが奴隷であるという事実を、まだ完全には受け止めきれていなかった。


 学校の教師が、いきなり自分の部屋にいる。しかも、さも当然のような顔で物色している。これは、率直に言って、ちょっとした怪談じみていた。


「……はぁ」


(前向きに、考えよう。魔法の教師が、個人指導をつけてくれるのだと思えば……まあ……うん……)


 精一杯、好意的に捉えようとしたが、どうにも無理があった。アスベルは、それ以上考えるのをやめた。


「開錠は、どうすればいいのですか」


「無属性魔法だから、杖を振るだけで足りるわ」


(そういえば、武装解除も、呪文は必要なかったな……)


 そして、蘇るのは、あの悲劇の記憶であった。杖を振った瞬間、相手を全裸に剥いてしまうという、とんでもない失態を演じたばかりである。


(二度、同じ過ちを繰り返すは愚か者の証。今度こそ、慎重に……)


 もっとも、今回の杖の振りは、あのときほど大仰なものではなかった。


「開けたい鍵に杖先を向けて、すっと落とす。それだけよ♡」


「ありがとうございます」


 魔杖剣を手に取り、試しに、鍵穴へと向ける。自分の部屋であれば、誰にも迷惑をかけまい。そう考えてのことであった。


 すっと杖先を向け、そして――ひゅっ。


「開錠」


 ――そのときであった。


 キィン、と、何か固い物同士がぶつかり合うような音が響いた。


「あら、あらぁ……開錠、できたかしら~♡ 奴隷であるわたくしがぁ……おーぷん!」


 キルケーが、ドアノブに手をかける。鍵は、確かにかけておいたはずであった。ドアノブが回り、ぱか、と――


 ドアが、開いたのである。


「おお! 成功ですわ!」


 ――縦に。


「「は……」」


 状況を説明するならば、こうであった。アスベルは、出入り口の前に立っていた。キルケーがドアノブを回し、前へと押す。その瞬間、ドアが真ん中から、縦に――割れたのである。


 それはもう、見事なまでに、ぱっかーん、と。そして、割れたのは、ドアだけではなかった。


 彼の部屋のドア、そこを出てすぐの廊下の壁、床、天井――彼が杖先を向けた延長線上にあったもの、そのすべてが、縦にぱかんと開いてしまったのである。


 ごごご……!


「り、寮が、揺れておりますわ!?」


 アスベルは、慌てて廊下へと飛び出す。ずず、と、廊下の半ばより向こう側が、沈み込んでいる。


「廊下が、沈んでいる……いや! 建物ごと、沈んでいますわ!」


「そんな……馬鹿な……!」


 彼の放った開錠の魔法。その効果は、単にドアの鍵を開けるだけに、留まらなかった。


 その延長線上にあるもの、すべて――建物そのものすら、真っ二つに割ってしまったのである。


 寮の生徒たちが、驚きと戸惑いの入り混じった声を上げている。


「な、なんだ、これは!」


「向こう側が、見えないぞ!」


「でっかい刃物で、寮が一刀両断されたみたいになってやがる!」


「ひぃいい!」


 幸い、真っ二つになった寮の向こう側にいた生徒たちも、無事であった。どうやら、此度の魔法で、命を落とした者はいなかったらしい。


 だが、一歩間違えれば、犠牲者が出ていてもおかしくない。それほどまでに、恐ろしい一撃であった。


「すごいですわ!」


 これほどの失態を演じておきながら、キルケーは怒るどころか、尊敬に満ちた眼差しを向けてくる。


「ただの、ドアの鍵を開けるだけの無属性魔法で、寮を両断してしまうだなんて! さすがですわ!」


(少しも……凄いとは、思えない……。いや、威力そのものは、確かにとんでもないのだが……)


 狙いが、完全にずれてしまっているのである。これを、いったいどう喜べというのか――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。