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13.毒沼から美少女を救出


 アスベルは、順調に森の中で遭難した生徒たちを、次々と救助していた。


「だー♡ は、どうしてそんなに的確に、位置を特定できるのかしら~♡」


「……だー?」


 アスベルは、森の中を駆け抜ける。その背後を、ほうきに乗ったキルケーが追いかけてきていた。妙な呼び方をしてくる。「だー」と。


「だー、とは何ですか、先生」


「だーりんの、だー♡ よ♡」


 アスベルは、眉間を押さえた。彼女の言動が、どうにも理解できない。なぜ突然、一介の生徒である自分を、ダーリンなどと呼ぶようになったのか――


 そもそも、誰のせいで、こんな事態を招いているのか。呆れが先に立つアスベルであったが、当のキルケーは、まったく気づいていない様子であった。すでに彼女は、完全にアスベルへ心を奪われていたのである。


「生徒たちの位置が分かるのは、俺が気配を察知しているからです」


「気配……」


「ええ。意識を研ぎ澄ませば、人の気配は察知できます」


 無論、それは、彼が身につけた剣術のおかげであった。


 『鋭招剣』。身体強化の一種である。肉体そのものではなく、神経そのものを研ぎ澄ませることで、五感の鋭敏さを高める剣技であった。もちろん、これもまた、魔法の一種である。


 彼がこれまで習得してきたもの、無意識のうちに行っていることの、そのすべてが、実は高度極まる魔法であった。もっとも、本人には、まるでその自覚がない。


 彼は感覚強化によって、聴覚と視覚を同時に高め、生徒たちの発するかすかな声や、魔力のきらめきを拾い上げ、その居場所を割り出していたのである。


「すごいわ……。探査《サーチ》の魔法よ。しかも、駆けながら行うなんて……さすが、だー♡」


 さすが、ダーリン――略して、さすがだー♡、であるらしい。危機感というものを、まるで理解していない様子であった。


(これは、ガンダールヴル学院長に、報告しなければならないな)


 そもそも、この森は安全だと、彼女が保証していたはずであった。その時点で、すでにおかしいのである。


「探査の魔法は、精神を集中させる必要があって……走りながらだなんて……」


「もう結構です。少し、黙っていてください。まもなく、次の生徒の場所に着きます」


 辿り着いた先は、毒の沼であった。その中央には、大きな鳥の巣のようなものがある。


 巣の中には、「た、助けて……!」と叫ぶカレンの姿があった。こちらに向かって、手を振っている。


「カレン! どうした!」


「この巣の主に、ここまで連れてこられたの!」


 どうやら、毒沼を巣として住処にしている魔物に捕らえられ、連れ去られたらしい。


 毒沼は、半径二十五メートルほどの広さであった。それほど遠い距離ではなく、泳いで渡ろうと思えば、すぐにでも渡れそうな距離である。――ただし。


 ひらり、と木の葉が、毒沼へと舞い落ちる。


 じゅ、と。


「……葉っぱが、一瞬で蒸発した!」


「わたしが飛んで、助けに参ります、だー!」


 キルケーが飛び立とうとする。だが、アスベルの目は、しかと捉えていた。キルケーのほうきの先端が、毒沼の上を通過しようとした、その瞬間――魔法が解けたことを。


 アスベルは、凄まじい速さで、キルケーの体だけを回収した。取り残されたほうきは、そのまま毒沼の上を通過し――


 じゅっ、と。


「やはり……毒沼から立ち昇る毒霧には、酸性の質まで込められていたか」


「きゅきゅん……♡ ぶげっ!」


 どこまでもふざけた女教師を、いささか乱暴に地面へと下ろす。そして、アスベルは、冷静に状況を分析した。


「毒沼は泳いでも渡れず、空を飛んでも、毒霧の被害を受ける」


 さらに厄介なのは、毒霧があたり一帯に充満していることであった。カレンたちのいる場所も、例外ではない。


「はぁ……はぁ……苦しい……」


 カレンたちの目つきが、次第に怪しくなっていく。意識が、朦朧としているのが見て取れた。


 泳がず、飛ばずに、カレンのもとへ辿り着く方法は――


「ふう……はぁ!」


 アスベルは、目の前の何もない空間へ向けて、斬撃を放った。すると、空間そのものに、裂け目が生じる。


 開いたその裂け目の向こうに、カレンたちの姿が見えた。


「カレン!」


 裂け目に手を差し入れ、カレンと、その連れの手を取る。ぐい、とアスベルが引き寄せると――裂け目の向こうから、二人が姿を現した。


「な、転移魔法……!?」


 キルケーが、驚愕の声を上げる。


「空間を一瞬で移動した……これは、転移魔法だ、だー!」


「そ、そうよね……すごいわ、アスベル。転移魔法って、失われた魔法……古代魔法とまで呼ばれる、とても高度な……いえ、違うわね」


 はぁ、と、カレンがため息をついた。


「どうせ、剣術なんでしょ」


「ああ。『次元斬』という。二つの空間を斬り開き、繋ぎ合わせることで、一瞬で移動する剣術だ」


 カレンは目を閉じ、空を仰いだ。


「アスベル。助けてくれて、ありがとう。その上で、言わせてもらうわ」


 かっ、と目を見開き、カレンは叫んだ。


「それ! もう、剣術じゃないでしょおおおおおおおおお!」


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