三話 勇者ちゃんとお宝探し
「おねえさま、見てください!」
コレットは両手に分厚い書物を抱え、マノンの部屋までやってきた。
三つ首番犬によって灰にされた肉体も、無事に元通りになって今日も元気いっぱいだ。
マノンは持ち込まれた本を一瞥し、顔を引きつらせる。
「って、それ魔導書じゃない」
【魔術研究区】にある書庫から拾ってきたのであろう。
コレットは埃を被った本を机に積み上げていく。
「またひとりで危険なことをして。見つけるまでに何回死んだの……」
「えっと……六くらい?」
本人が自覚していないだけで、その倍は死んでいるだろうことが容易に予想できる。
「なんだかお宝の予感がするんです!」
「予感ね……」
コレットはのほほんとしているが、こうみえても勘が鋭い。
その勘の鋭さを本来は危機回避に使うべきなのだが、今さらだろう。
とにかく、コレットは城に眠るお宝を見つける能力に長けていた。
これも魔族にはない、勇者の奇跡というものなのだろうか。
「扱いにはくれぐれも気を付けなさい。この手の書物には呪いがあるの」
城の書庫には、知識と共に愚者へ死をもたらす魔導書が平然と紛れ込んでいる。
「ふぇ?」
忠告も虚しく、コレットは無警戒でページをめくっていた。
「ば、ばか! 急いで逃げな――――」
案の定というべきか。魔導書から鈍い光が放たれて、コレットを包み込む。
コレットの全身から急速に水分が抜け落ちていく。あっという間にカピカピのミイラと化して事切れた。
「…………うぇ」
ミイラから漂う刺激臭に、マノンは鼻をつまみながら、ドアを開けて急いで部屋の換気をした。
しばらくして、ふんわりと光に包まれて生き返るコレット。腐敗臭もなくなり、花のいい匂いに変わる。
「び、びっくりしました!」
「こちらの台詞よ」
マノンはため息をつきながら魔導書を引き寄せると、今度こそ呪いがないか慎重にチェックした。
どうやら先程の一撃で魔力は消費し尽くしたようで。安心してページをめくっていく。
「おねえさま、どうですか?」
「慌てない」
近い時代の文献と照らし合わせながら、マノンは古代文字の暗号を読み解いていく。
「これは……古の地図ね。お宝の印もあるわ」
先代の、そのまた先代の、遥か昔の魔王が遺したであろう遺産。
城にはまだまだ未知の領域が存在する。そして先代たちが残したであろうお宝も。
「ははさまに喜んでもらえます?」
「……どうだろう。地図だけだとなんとも。まだ偽物の可能性もあるし、罠かもしれない」
魔族というのは、総じてひねくれ者が多い。同族だろうと力なき愚者を忌み嫌う。
ぬか喜びさせておいて、宝箱を開けたら即死……などという悪趣味な余興も日常茶飯事なのだ。
「でも、もしも武器や兵器が見つければ。人間界への侵攻の助けになるかもね」
それでもマノンは、真面目に調べる価値はあると踏んでいた。
いずれ来たる人間界への侵略戦争を見据えれば、古代兵器は有用だ。
「ははさまの……お疲れを癒せるものであればいいのですが」
しかしコレットは、人間界の侵略などにはさほど興味はないようで。
「とにかくお手柄よ。ここから先は、宝探しが得意な連中に一任して、報告を待つとしましょう」
「おねえさま……」
コレットはマノンの服の袖をつまんで、上目遣いで訴えかける。
「まさか、自分で取りに行くとか言い出さないよね?」
「大事な会議の邪魔をしたばかりで……このままだと……ははさまに捨てられちゃうかも」
悲しそうに目を伏せるコレット。
そんなことはない、母上は貴女を溺愛している。マノンはそう伝えたかったが。
魔王としての立場がある以上、ベルナディアの真意がコレットに届くことはない。
このまま放置していいのだろうか。
もしかしたら、コレットが希望を失うのではないか。
二度と、蘇らなくなるのでは。マノンは嫌な想像をしてしまう。
「し、仕方ないね。コレットはバカだから。ひとりだと迷子になるだろうし、ついていってあげる」
「マノンおねえさま!」
抱きしめられてその温もりを、マノンは満更でもない様子で受け止める。
古い地図を持って、二人はさっそく城にある【極限環境区】を目指した。
魔王城は数千年もの間、代々受け継いで拡張し続けた超巨大な迷宮だ。
城内は大きく六つの区画に分かれている。
【中央居住区】【食料生産区】【極限環境区】【魔術研究区】【無限宝物庫】【廃棄区画】
【極限環境区】は――魔界の過酷な自然環境を城内にそのまま閉じ込めたエリアであり、魔王の命令すらも受け付けない危険な怪物まで住み着いている。
「おねえさま、入口はあちらですよ?」
「おバカね。正面入口から歩いて何年かかると思っているの。二度と帰って来られなくなるよ」
魔王の娘であるマノンは、専用のゲートを召喚する。
城の管理者である一族の者は、深部へのショートカットが使えるのだ。
ゲート前の空間に、地図に記された数値――転移座標を入力する。
夕食前には戻りたい。そんな軽い気持ちでゲートをくぐる。
直後、ムワッとした異常な熱気が二人を包み込んだ。
「あ、あつい……です」
「……うっ、よりによって【灰燼回廊】じゃないの」
眼下に広がるのは、ぐつぐつと煮えたぎるマグマの海。
日帰りのお宝探しに、さっそく暗雲が立ち込めてきたのだった。




