後日談
−−正式に王太子と結婚し、未来の王妃となったエレナの朝は、一本の丁寧なスープの仕込みから始まります。
コトコトと音を立てる鍋からは、香ばしいハーブと厳選された地鶏、そして野菜の旨味が凝縮された、文字通り「黄金色」の湯気が立ち上っていました。
「ふふ、今日も完璧な出来栄えですわ」
味見をしたエレナが満足げに微笑んでいると、背後から力強い腕がそっと彼女を抱きしめました。
「おはよう、エレナ。朝から君の料理の香りで目が覚めるなんて、僕は世界一の幸せ者だな」
耳元で囁いたのは、夫となったユリウスです。
「おはようございます、ユリウス様。もう、仕込みの最中ですから危ないですわ」
「いいじゃないか、夫婦なんだから。それに、君のスープを毎朝飲むようになってから、僕の体調は万全そのものだし、公務の効率も上がった。我が国の重臣たちも、君の『健康管理』の素晴らしさに、全員が最敬礼しているよ」
かつてミゼルに「可愛げがない」「口うるさい」と言われたエレナは、この国では「至高の賢妻」として、称賛されていたのです。
そこへ、お茶の準備を持ってきた執事のヘンリーが、クスクスと笑いながら話しかけてきました。
「エレナ様、ユリウス殿下。本日はミゼル様の国から『風の噂』が届いておりますが、お聞きになりますか?」
「ああ、相変わらずかい?」
ユリウスが尋ねると、ヘンリーは肩をすくめました。
「はい。ミゼル様は幽閉先で、毎日出される普通の食事を『マズい、エレナのスープを出せ!』とひっくり返し、完全に孤立しているそうです……今や、普通の食べ物を受け付けず、日に日に干からびているとか」
「……哀れなものだな。自分を支えていたものの価値に、失ってから気づくとは」
ユリウスは冷ややかにそう切り捨てると、すぐに愛しい妻へと視線を戻します。
「そんなことより、エレナ。今日の夜は久しぶりの二人きりの晩餐だろう?食事の後に、僕が君にマッサージで癒してあげる番だ」
「あら、ユリウス様の指圧マッサージは、まだまだ見習い……本当に私を満足させられますの?」
「ああ、エレナが癒やされるまで挑戦するさ。言っただろ、僕の生涯をかけて君を愛し、幸せにするって」
エレナは顔を赤くし照れながら、少し悪戯っぽい顔で小首をかしげました。
「ふふ、ユリウス様。もう一度伺いますわ」




