表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/26

15 北限の宿屋で

 ひときわ大きな体をした男を見て、シレーネは巨大な体をした魔物として知られるトロールを思い出した。


「どうして、アスラルの名を出してはいけないの? 大熊騎士団は、アスラルと一緒に活躍したはずじゃない。ここは大熊騎士団の駐屯地かと思ったのだけど……ひょっとして、あなたたちはただの山賊だったのかしら?」


「お前、あいつとどういう関係だ?」

「妻よ」

「あいつ、結婚していたのか?」

「未来のね」

「賞金稼ぎじゃないんだな?」

「そう見える?」

「ああ」


 シレーネとしては心外だったが、全身を総板張の鎧で包み、ほとんど人が来ない山奥の集落で賞金首の名を出せば、賞金稼ぎだと思われても仕方のないことだ。


「私を賞金稼ぎだと思ったってことは、アスラルが賞金首だって知っているのね?」

「ああ。何日か前、手配書が届けられた。その時にはもう、あいつは旅立った後だった。あいつには世話になった。戦いたくはない。だが、いると知って見逃せば、俺たちが罪に問われる」


「だから、『名を出すな』なのね。あなたたちは、世話なった恩人が国に追われれば、昔の恩を忘れて、国に従うの? 随分、恩知らずね」

「お頭、こんな女に言わせとくことはねぇ。やっちまおうぜ」


 お頭と呼ばれた男には敵わないが、いずれも身の丈は2メートルを超え、体重は150キロ以上あろうかという男たちがいきり立った。


「お頭と呼ぶなと言っただろうが。団長と呼べ!」

「すんません」


 大男たちが頭をさげる。荒くれ者たちを従えているのは、団長と名乗る男のようだ。


「フォレスト王国は、大熊騎士団を恐れて、こんな場所に駐屯させているらしいじゃない。アスラルは、あなたたちの活躍の場を与えてくれたのでしょう? 国に忠義を尽くしても、報われないわよ」

「だが……裏切れば軍が来る。俺たちはそれを知っている」

「いずれ、軍は来るでしょう。アスラルが目的を果たせば、必ず軍が動くわ」


 それは、カーネルから聞いたことだ。アスラルがヴァルメスに呼ばれ、ヴァルメスが復活したのなら、リバレッカが軍を起こすだろう。


「あれとは戦えん」


 団長の言う『あれ』がアスラルのことだと、シレーネは確信していた。


「共に戦えばいいじゃない。アスラルが軍を率いれば無敵よ。知っているでしょう?」

「王に逆らって、その後はどうするんだ?」

「新しい王をいただけばいい」


 団長と名乗る男の視線がさまよった。迷っているのがわかる。

 考えてもいなかったのだろう。

 シレーネは、アスラルと敵対して王国につくより、アスラルとともに戦う方が、どれほどまともな選択なのかわからないと感じていた。

 目の前の大男が、同じ結論に到達するとは限らない。


「……駄目だ。いくらあいつでも、そんなことは出来るはずがない」

「ならばここで殺すわ」


 シレーネが剣を抜き、団長に向けた。


「おもしれぇ!」


 雄叫びをあげたのは、団長の隣にいた大男だ。

 叫んだ途端、団長に殴り飛ばされた。


「お前じゃねぇ! 引っ込んでろ!」

「へぇ」


 鼻血を出しながら、男が床に座り直した。


「いいだろう。あいつの嫁だと言ったな。あいつと同じ青の部隊の……シンデレというのはあんたか?」

「シレーネよ」

「ああ。そう言った。あいつの嫁ですら俺より強いってんなら、考えちゃる。俺たちは、もともと国に恩はねぇ。だが……俺たちを殺しに軍がくるってのが、本当かどうかわからねえと同意はできねぇ。それまでは、あいつがいたら殺して国王に引き渡す」


「殺せたらね」

「宿を壊すと、直さなくちゃならねえ。表に出ろ」

「了解。望むところよ」


 団長が宿の外を指差した。

 シレーネは、すでにアスラルが出立しているという情報に肩を落としたが、久しぶりのまともな実戦に妙な高揚感を覚えていた。


 ※


 先に外に出たシレーネは、宿屋の前で馬番をしていたはずのドーレルがいなくなっているのに気づいた。

 カムオウが盗まれたのでないかと心配するが、ドーレルのことは気にかけなかった。

 ドーレルは騎士なのだ。しかも、勇猛で知られる猛虎騎士団の一人である。


 仮に死んだとしても、シレーネの心は痛まない。

 外に出たシレーネに続き、出てきた男の体躯は、屋外ではより大きく感じられた。

 宿屋から出てきたのは一人ではない。次々と出てきて、シレーネと大熊騎士団の団長を取り囲む。

 宿から出てきただけではない。

 周囲にある他の建物からも、同様の体躯の男たちが出てきた。


「あんたたち、大熊騎士団でしょう?」

「ああ。さっきから、そう言っている」

「女一人に、大男が雪崩を打ってかかってくるの? 恥を知ったら?」


「勘違いするな。お前さんの相手はわしだけだ。こいつらは見物だよ。こんなところだ。娯楽といえば、殺し合いを肴に賭博をするぐらいだ。わしが殺されたところで、こいつらはわしの仇などとらん。安心しろ」


 シレーネは取り囲む男たちを見回した。楽しそうに談笑している。

 金のやりとりをしている者たちもいる。

 手を出すつもりはないのだろう。


「了解」


 シレーネは剣を抜いた。カムオウがいない。騎士としての戦いかたはできない。

 体格が違いすぎる。

 だが、負けるつもりはなかった。


「シレーネ・フォン・アルテーゼ」

「名乗りか……いいだろう。大熊騎士団団長、ガソレル・コマドー」

「行くわよ」

「おう」


 シレーネが地面を蹴った。

 三年に及ぶ令嬢としての生活と監禁されていた日々のおかげで、体力は落ちていた。

 旅の疲労もある。

 全盛期の半分も力が出ない。

 それを自覚しても、シレーネは負けるとは思わなかった。


 距離を詰め、剣を振るう。

 ガソレルは武器を持たず、拳を叩きつけた。

 シレーネは、ガソレルの腕を切りとばすのを避けた。

 アスラルの盟友だという遠慮はあった。


 剣でガソレルの拳を逸らし、自分の細い体を大きな体躯の懐に潜り込ませた。

 肘と肩を、ガソレルの腹部にねじ込み、衝き上げた。

 ガソレルの手が迫った。

 シレーネはさらに体を縮め、足をとった。


 自分の全体重をかけても、ガソレルの体は動かない。

 だが、腰の短剣を足の甲に突き刺せば話は別だ。

 大声をあげて、ガソレルがひっくり返る。

 シレーネが離れた。


「この女! もう構わねぇ! わしの武器をもってこい!」

「『全員でかかれって』言わなかったことは誉めてあげるわ。そこまでは堕ちていないってことね」


 ガソレルの足を抑える手が血で濡れる。

 シレーネが剣を構えると、巨大な斧が大熊騎士団の団長に渡された。


「わしを甘く見るな! ここからが本番だ!」

「そう願いたいわね」


 足の怪我などなかったように、ガソレルが踏み出した。

 シレーネが再び距離を詰める。

 剣と斧が交差することなく、ガソレルの体が回転して地面に落ちた。


「まだやる?」


 地面に這いつくばった髭面に、シレーネが剣を突きつける。


「当たり前だ!」


 ガソレルは叫ぶと、再び斧を構えた。


「これは、時間がかかりそうだわ」


 ガソレルを屈服させるのがシレーネの狙いだ。どうやら簡単には行かなそうだと、シレーネは三度剣を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ