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終わりだ、バルトロメウス

分厚い雲海を割り、その眼下に現れたのは――救済の地でも、黄金の都でもなかった。


そこは、ただ厚い雲に覆われただけの、虚無が支配する天空の荒野だった。


「ちょっと、……それって……」


ベルカの震える声が響く。

ザックの手にあるのは、眩い光を放つ黄金の果実。

見上げるフィリスに、ベルカは真っすぐに頷いた。


伝説に謳われた世界樹の至宝。

それこそが、この絶望的な景色を呼び覚ます鍵だった。


「世界樹の黄金の果実と共に、王国は翼となり約束の地へと還り、地上から人は消えた。……予言の最終章、そのものか」


アリストンの乾いた笑いと共に呟くと、カサンドラが空を仰いだ。


「予言は、今この瞬間、このことだったの……?」


困惑する信者たちのざわめきを背に、アダムスは静かに「ワンルーム」の扉を開いた。


聖域に場違いな鉄の扉。彼は悠然とした足取りで、城門へと向かう。


熱狂する信者たちが、ある者は先導し、ある者は祈りを捧げながら、その後を追った。


城門の先は、冷たい灰色の岩盤。


アダムスがその乾いた大地に降り立つ。信者たちも続こうとしたが、厚い雲の境界線が、見えない壁となって彼らを拒んだ。


「人間」は、この先へ進むことは許されない。


雲の先へ。


風化した白骨の指先が、岩盤に深く刻んで止まっていた。


『飽きた』


それが、三千年の執着を煽り続けた男の、たった三ヶ月目の真実。


アダムスがその骨に触れると、足元で魔法陣が淡く発火した。


溢れ出したのは、あの工房で嫌というほど聞いた、乾燥した羽ペンの走る音。


――ザリ、ザリ……、……ザリ。


三千年前に死んだ男の、生きた残響。


魔法はすぐに途切れ、荒野には再び、救いようのない静寂が戻った。


アダムスは、ただその音に包まれた。


――不意に、アダムスは笑った。


三千年。


自分一人だけが、読み終えられた物語の続きを必死に書き足そうとしていたのだ。

その滑稽さが、今はひどく愛おしい。


「……勝手に飽きていろ、バルトロメウス。私は、まだこの『不良品』たちの退屈に付き合うつもりだ」


男は背を向けた。

ゴーレムは記録を収めた。


雲の壁の向こう、そこには救済はない。

ただ、汚らしく、騒がしく、明日をも知れぬ命を繋ぐ人間たちが、彼の帰還を待っている。


その頭上に広がる空は、三千年前の工房の天井よりも、ずっと高く、果てしなく濁っている。



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