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放課後直前の危機と、二人だけの秘密基地

放課後まで、あと五分。

最後の授業である現代文の最中、俺——藤野葵(ふじの あおい)は、ノートの端に意識を集中させていた。

(今日の放課後用スイーツは、冷やし抹茶プリン……黒蜜添えだ)

冷やす時間を計算して、朝の登校前に自宅の厨房で仕込んできた自慢の一品。

長谷川凛(はせがわ りん)がどんな顔をして食べるか想像すると、自然と口元が緩みそうになる。

ふと、斜め前の席に視線をやると、長谷川がすっと背筋を伸ばしてノートをとっていた。

相変わらず無駄のない美しい姿勢。

だが、彼女の右手が一瞬だけ上着のポケットに入り、小さな紙切れを取り出した。

(……え?)

長谷川は背中越しに、その小さな折り紙のような紙片を、俺のデスクの端へとすっと滑らせてきたのだ。

(お、おいおい……授業中に手紙!?)

周りの生徒に見られたら一發アウトだ。

俺は心臓が跳ね上がるのを感じながら、素早くペンケースでその紙片を隠した。

そっと開いてみると、そこには整った美麗な字でこう書かれていた。

『今日の試作品、何? 気になって集中できない。』

(……集中できてないの自分じゃないか!)

全校生徒が恐れる鉄壁の副会長が、授業中にスイーツのメニューが気になって手紙を回してくるなんて、誰が信じるだろう。

俺は苦笑しながら、紙の裏に『抹茶プリン。楽しみにしとけ』と書き込み、教員の目を盗んで彼女のデスクの端へ戻した。

紙切れを受け取った長谷川の背中が、ピクッと跳ねた。

背中越しでも、彼女が嬉しそうに口元を緩めたのが分かった。

◇

キーンコーンカーンコーン——。

待ちに待った放課後のチャイムが響き渡る。

「よっしゃ、放課後だ! 藤野、一緒に——」

隣の席の男子生徒・佐藤が話しかけてきた、その時だった。

「藤野葵くん」

冷冰冰(ひんやり)とした、透き通るような声が教室に響いた。

全員の視線が一斉に集まる。

そこに立っていたのは、鞄を手に持った長谷川凛だった。

「え、長谷川さん……!?」

佐藤をはじめ、周りの男子たちがざわめき立つ。

長谷川が自分から男子に話しかけるなんて、天変地異レベルの出来事だからだ。

俺は冷や汗をかきながら、努めて平然を装った。

「……何か用? 長谷川さん」

「ええ。生徒会とクラス委員の連携資料について、確認したい事項があります。今日の放課後、少し時間をいただけますか?」

堂々とした立ち振る舞い。

完璧な理由付け。

冷酷なまでの「塩対応」の表情。

周りの生徒たちは「なんだ、業務連絡か」「相変わらず長谷川さんは仕事熱心だな」と納得し、警戒を解いた。

(うわ……演技力すご……)

「あ、ああ、分かった。すぐ準備するよ」

「では、先に行っています」

長谷川は一礼すると、一度も後ろを振り返らずに教室を出て行った。

◇

十分後。

実家の洋菓子店『パティスリー・フジノ』の勝手口。

鍵を開けて中に入ると、すでに先回りしていた長谷川が、小さなソファで膝を抱えて待っていた。

「ふぅ……心臓が止まるかと思ったわ……」

「長谷川さん、教室で話しかけてくるとは思わなかったよ。びっくりした……」

「だって……葵が他の男子と遊びに行っちゃいそうだったから……」

膝に顔を埋めたまま、小声で呟く長谷川。

隙間から見える耳たぶが、真っ赤に染まっている。

「引き止める理由、あれしか思いつかなかったの……変だった……?」

「ううん、完璧だったよ。……ただ、ちょっとドキドキしたけど」

「……私も、すごくドキドキした……」

長谷川はそっと顔を上げると、上目遣いで俺を見つめてきた。

学校でのクールな副会長の面影はどこにもない。

「……約束の、抹茶プリン……ちょうだい?」

甘えるような、少しだけ甘やかされたいような声。

「はいはい、今持ってくるよ」

冷蔵庫から冷えたプリンを取り出し、テーブルにセットする。

長谷川はスプーンを手に取ると、一口すくって口へと運んだ。

「……んん……♡」

とろけるような笑みが、彼女の顔に広がっていく。

「……美味しい……。すごく濃厚で、ほろ苦くて……」

「喜んでもらえてよかった」

「……ねえ、葵」

プリンを味わいながら、長谷川がそっと俺の制服の袖を引っ張った。

「……さっきの教室でのこと、怒ってない……?」

「怒るわけないでしょ。むしろ、長谷川さんが俺との時間を優先してくれて……嬉しかったよ」

「〜〜〜っ!」

俺の言葉に、長谷川は慌てて両手で顔を覆った。

「……バカ葵……そういうこと、平気な顔で言わないでよ……っ」

手で隠しきれない赤くなった頬と、指の隙間から覗くうるんだ瞳。

誰にもバレてはいけない秘密の共有。

そして、少しずつ、でも確実に縮まっていく二人だけの距離。

「明日も……ちゃんと放課後、空けておいてね」

「……了解。またとっておきを作っておくよ」

解けていく氷の向こう側にある彼女の素顔を、俺はこれからも独り占めしていくのだと、密かに心に決めたのだった。

(第4話 おわり)

お読みいただきありがとうございました!


第4話では、教室でのヒヤヒヤする秘密のやり取りと、放課後基地での甘い時間をお届けしました。

長谷川さんの「独占欲」が少しだけ見え隠れする回となりましたがいかがでしたでしょうか?


【読者の皆様へお願い】

「長谷川さんの独占欲が可愛い!」「ハラハラしたけどキュンとした!」と思っていただけましたら、

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次回第5話は**「休日の偶然? 私服の長谷川さんと街で遭遇」**をお送りする予定です。

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