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相合傘の帰り道、雨音はふたりの秘密を知る

四月下旬。

ポカポカとした春の陽気が続いていた空が、今日の午後から急にどんよりとした鉛色に変わり、夕方前にはパラパラと冷たい雨粒がアスファルトを叩き始めた。


「うわ、マジかよ……傘持ってねぇ……!」


放課後の教室で、窓の外の雨脚が強まっていくのを見た佐藤が、頭を抱えながらカバンを掴んでバタバタと教室を飛び出していった。

彼の彼女が迎えに来てくれるのだろう。慌ただしい足音が廊下の向こうへと消えていく。


教室に残されたのは、私——藤野葵と、斜め前の席に座る長谷川凛(はせがわ りん)だけだった。


長谷川は静かに立ち上がると、窓の外の雨を見つめ、そしてそっと私の方を振り返った。

その瞳には、隠しきれない期待と、ほんの少しの企らみが混ざったような、最高に可愛い光が宿っている。


(……さては、彼女、最初から傘を持っていなかったな?)


私が苦笑いを浮かべながら自分のカバンから折りたたみ傘を取り出すと、長谷川はすっと猫のような足取りで私の机の脇まで歩み寄ってきた。


「ねえ、葵……私、今日の朝は晴れていたから、傘を持ってきちゃって……その、忘れちゃって……」


わざとらしいほどしおらしい声を出しながら、長谷川は私の制服の袖をキュッと指先で掴んだ。

——『だから、一緒に帰ろう?』という無言のアピール。


「はいはい、分かってますよ。じゃあ、相合傘で実家のお店まで帰るとしますか」


「——っ! た、相合傘……? べ、別に狙って忘れたわけじゃないけれど……でも、あなたがそう言うなら、仕方なく一緒に帰ってあげてもいいわよ……!」


顔を真っ赤にしてツンデレ全開のセリフを吐きながらも、長谷川の尻尾が見えたら間違いなくブンブンと振り回されているだろうというくらい、その足取りは嬉しそうに弾んでいた。


◇


学校を出て、一つの傘を二人でシェアしながら歩く。

雨粒が傘の布を叩く「パラパラ」という音が、周囲の喧騒を優しく遮断していく。


小さな折りたたみ傘。

二人で肩が濡れないように歩こうとすると、自然と体がぴったりと密着してしまう距離感だった。


「わっ……! 葵、右側に寄りすぎよ! 私の肩が濡れちゃう……!」


「あ、ごめんごめん。こうすればいい?」


私が長谷川の肩を優しく自分のほうへと引き寄せると、彼女の体温と甘いシャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。

長谷川の耳たぶまで真っ赤に染まり、彼女は恥ずかしそうに下を向いたまま、私の腕にしがみつくように歩幅を合わせてくる。


「……ねえ、葵」


「ん?」


「……こうして二人で傘に入って歩いていると……なんだか、世界中で私たちだけが取り残されたみたいで……少しだけ、ドキドキしちゃう……」


雨音にかき消されそうな小さな声で、長谷川が本音をポツリとこぼした。

その素直すぎる言葉に、私の胸の奥がキュンと激しく鳴る。


「俺もだよ。雨はちょっと肌寒いけど、こうして凛と腕を組んで歩けるなら……悪くないかなって思う」


「——っ! も、またサラッと言い返すんだから……! 私の心臓がいくつあっても足りないわよ……!」


顔を両手でパタパタと仰ぎながら、照れ隠しのようにぷっと頬を膨らませる長谷川。

その表情があまりにも愛おしくて、私は思わず彼女の手をとり、自分のポケットの中へと優しく滑り込ませた。


「手、冷えてるだろ。こうしてポケットに入れれば温かいよ」


「っ……!? ひゃ、ポケットの中……!?」


繋いだ手。

ポケットの中で指と指がしっかりと絡み合い、冷たい雨の日の寒さを一瞬で吹き飛ばしてしまうほどの確かな熱を伝えていく。

長谷川はもう言葉も出ないといった様子で、真っ赤な顔のまま私の腕にぎゅっとしがみついてきた。


◇


十分後。

雨に濡れた体を温めるように、私たちは実家の洋菓子店『パティスリー・フジノ』の裏口へと滑り込んだ。


「はぁ……雨風すごかったね。風邪ひいてない?」


「うん、平気……! 葵がずっと温めてくれたから……じゃなくて!」


言い間違えて自分で自分の首を絞めた長谷川は、真っ赤な顔でカバンをソファに放り出し、バタンと私の背中に抱きついた。

バックハグの体制。


「もぅ……! 今日の葵は、なんだかいつも以上に破壊力が強すぎるわよ……!」


「え、僕のせいなの?」


「そうよ! あんな風にポケットで手を繋いだり、優しいことばかり言うから……私、頭がおかしくなりそうなんだからね……!」


私の背中に顔をうずね、ジタバタと可愛い駄駄をこねる長谷川。

学校では誰もが畏怖する「氷山の副会長」が、今ではこうして私の背中で完全にメロメロのデレデレになっている。


「ごめんごめん。じゃあ、冷えた体を温めるために、特製のホット・ショコラを作ってあげるよ。もちろん、マシュマロトッピング付きで」


「ほんと……?〼 ……じゃあ、特別に許してあげる。早く作って、葵」


長谷川は満足そうに微笑むと、私の背中から離れ、パタパタとエプロンをつけてキッチンの横に陣取った。


雨の音が心地よく響く夕暮れの洋菓子店。

温かいホット・ショコラの甘い香りと、二人だけの穏やかな時間は、雨粒の数よりも優しく、私たちの心を潤していくのだった。


(第27話・おわり)

お読みいただきありがとうございました!


第27話では、雨の日の相合傘&ポケットでの手繋ぎデレ、そして洋菓子店での甘々バックハグをお届けしました!

長谷川さんの恥ずかしがりながらも甘えてくる姿、楽しんでいただけましたでしょうか?


【読者の皆様へお願い】

「相合傘のシチュエーションが青春すぎて尊い!」「ポケットで手を繋ぐシーンが甘すぎる!」と思っていただけましたら、

ページ下部の**【ブックマーク追加】や【評価(★★★★★)】**をいただけますと、毎日の執筆の大きな大きな励みになります!


次回第28話もお楽しみに!

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