ゴールデンウィークの計画と、特製フルーツパフェの誘惑
四月下旬。
校庭の木々すっかり新緑に覆われ、初夏を思わせるようなあたたかな陽気が差し込む午後。
生徒たちの間では、もうすぐやってくるゴールデンウィーク(GW)の話題で持ちきりになっていた。
「おい藤野、今年のGWはどこに出かけるんだよ? まさか十連休全部リア充っぽくデートの予定で埋まってるわけじゃないだろうな?」
お昼休み、佐藤が自分の席からガバッと振り返り、ニヤニヤしながら問いかけてきた。
「残念ながら、我が家は洋菓子店だからね。GWは書き入れ時で、むしろ大忙しだよ」
「おっ、そうか! 実家のお手伝いか。じゃあ今年も『パティスリー・フジノ』のイートインで、お前の作る絶品ケーキを食い倒れるしかなさそうだな!」
佐藤が豪快に笑いながら自分の弁当箱へと向き直る。
私は心の中でホッと息をつき、斜め前の席にそっと視線を遣った。
長谷川凛は、相変わらず美しい姿勢で読書をしている。
……だが、そのページをめくる指がピタリと止まり、耳たぶがほんのりと桜色に染まっているのが見えた。
(……さては、彼女も今の会話を聞き逃さなかったな?)
誰もいない隙を突き、長谷川がすっと左手の指先でノートを二回トントンと叩いた。
——それは『放課後、絶対に誰にも邪魔されない場所で話があるわよ』という、甘い無言の呼び出しだった。
◇
放課後。
私たちはいつものように実家の洋菓子店『パティスリー・フジノ』の裏口へと滑り込んだ。
鍵を閉め、エプロンを装着するやいなや、長谷川はスタスタと私の目の前まで歩み寄ってきた。
今日の彼女は、いつも以上に真剣な、しかしどこか期待に満ちた瞳をしている。
「ねえ、葵」
「ん? どうしたの、凛」
「さっき、佐藤くんが言ってたこと……本当なの?」
「え? GWが書き入れ時ってこと?」
「そうじゃなくて……! GW中、お店がすごく忙しくなるって話よ。あなた、一人でお店の手伝いをして、てんてこ舞いになるんじゃないかって……私、心配なのよ」
心配そうに眉をひそめながら、私の制服の裾をキュッと指先で掴む長谷川。
その健気な姿に胸がキュンと締め付けられる。
「ありがとう、心配してくれて。でも大丈夫だよ、毎年恒例のことだし、父さんも母さんもいるからさ」
「……ううん、ダメよ」
長谷川は首を横に振ると、決意を秘めた強い瞳で私をまっすぐに見つめ返した。
「私だって……このお店の味を誰よりも知っているし、あなたの隣でスイーツを作ってきたんだもの。……お願い、GWのあいだ、私に『一日店員』としてお手伝いさせてちょうだい!」
「えっ……!? 凛が、お店の手伝いを……?」
「そうよ! 接客でも、レジでも、簡単なトッピングの補助でも何でもやるわ。だから……あなたと一緒に、お店を盛り上げたいの。もちろん、誰にもバレないように変装するか、裏方の仕事を中心にしてもいいから……!」
学校での「冷徹な氷山の副会長」が、自分のプライベートな時間を削ってまで、私と一緒にお店を手伝いたいと言ってくれている。
その熱意と、私へのまっすぐな想いが嬉しすぎて、私はしばらく言葉を失ってしまった。
「……凛。そんなに無理しなくてもいいんだよ?」
「無理なんかじゃないわ……! あなたと一緒にお店に立てるなら、私にとって一番楽しい時間なんだから……ダメ……かな?」
上目遣いで、少し不安そうに潤んだ瞳で見つめてくる長谷川。
こんなの、断る選択肢なんて最初から用意されていなかった。
「……分かったよ。じゃあ、GWの間は『特製パティシエ見習い』として、僕の専属助手をお願いしようかな」
「ほんと……!?やった……!」
パァッと顔を輝かせた長谷川は、嬉しさのあまり思わずその場で飛び跳ねそうになり、慌てて自分の口を両手で押さえた。
学校では絶対に見せない、最高に無防備で可愛い笑顔だった。
◇
「じゃあ、お手伝いの予行練習として……今日は特別に、GW限定の新作『特製マンゴーとパッションフルーツのトロピカルパフェ』を二人で作って、味見してみようか!」
「わぁ……! マンゴーのパフェ! 私、これ絶対にお店で一番の人気メニューになると思う!」
すっかりテンションが上がった長谷川と一緒に、厨房の作業台に並んでパフェの組み立てを始めた。
グラスの底に自家製のマンゴーゼリーを敷き詰め、スポンジケーキ、バニラアイス、そしてたっぷりのフレッシュマンゴーを美しく重ねていく。
「ねえ葵、ここを生クリームで可愛くデコレーションするのって、こうだっけ?」
「そうそう、上手だよ。さすが僕の専属助手だね」
「ふふん、褒めても何も出ないわよ……って、きゃっ……!?」
勢い余って生クリームの絞り袋が少しズレてしまい、長谷川の鼻の頭に白いクリームがちょこんとついてしまった。
「あ、まただ。凛、鼻にクリームがついてるよ」
「えっ……うそ、どこ……?」
両手で慌てて顔を拭おうとする長谷川だが、位置がずれて余計に広がってしまう。
私は思わず笑いながら彼女に近づき、指先で優しくその鼻の頭のクリームを拭い取った。
「こうやって取るんだよ」
「——っ!? またそんなことして……ズルい……!」
顔を真っ赤にしてジタバタする長谷川。
私は拭い取ったクリームがついた指先を、冗談半分で自分の口元に運んで舐めて見せた。
「……うん、甘くて美味しい。マンゴーの風味もバッチリだ」
「——っ! あなたねぇ……本当に、そういう自然なタラシ行為をするの、法律で禁止したほうがいいわよ……! 私の心臓がいくつあっても足りないんだから……っ!」
両手で真っ赤になった顔を覆い、その場にしゃがみ込んでしまう長谷川。
そのあまりの可愛さに、私の胸の動悸も最高潮に跳ね上がっていた。
◇
そのあと、完成した『特製マンゴーとパッションフルーツのトロピカルパフェ』を二人で並んで食べた。
「んん〜っ……♡ 美味しい……っ! マンゴーの濃厚な甘さと、パッションフルーツの爽やかな酸味が、初夏の訪れって感じで最高……!」
「よかった。これならGWに来るお客さんたちも大満足してくれるはずだね」
「うん! 私、接客も仕込みも、ぜーんぶ完璧に頑張るからね、葵!」
パフェのグラスを片手に、力強くこぶしを握ってみせる長谷川。
その横顔は、いつものツンデレな彼女からは想像できないほど頼もしく、そして最高に愛おしかった。
ゴールデンウィークの足音が、もうすぐそこまで聞こえてきている。
二人で迎える初めての長期連假と、秘密のお店お手伝い計画。
胸の高鳴りは、初夏の陽気よりもずっと熱く、私たちの未来を甘く彩っていくのだった。
(第28話・おわり)
お読みいただきありがとうございました!
第28話では、ゴールデンウィークの「一日店員修行」の約束と、トロピカルパフェをめぐる甘々クリームハプニングをお届けしました!
長谷川さんの積極的なデレと、お店のお手伝いに張り切る姿、楽しんでいただけましたでしょうか?
【読者の皆様へお願い】
「長谷川さんが店員さんになる展開が楽しみすぎる!」「パフェを食べるシーンが尊い!」と思っていただけましたら、
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次回第29話(GW本番・秘密の店員アルバイト編)もお楽しみに!




