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月曜日の教室と、危うい放課後の隠し事

日曜日、駅前のカフェや公園で甘い初デートを終えてから迎えた月曜日の朝。

校門をくぐり、いつものように自分の教室へと足を運ぶ。

頭の中には昨日のデートの記憶が鮮明に残っていて、自然と口元が緩みそうになるのを必死で抑えながら自分の席についた。

(昨日の帰り際、駅の改札の前で「また明日ね、葵くん」って小さく手を振ってくれたの、可愛かったな……)

ふと、斜め前の席に視線をやる。

そこには、いつものように背筋をピンと伸ばし、凛とした姿勢で教科書を読む長谷川凛(はせがわ りん)の姿があった。

一見すると、全校生徒が恐れる「氷山の副会長」そのものの完璧な佇まいだ。

……だが。

彼女の右手は、なぜか持っているペンのキャップをカチカチと何度も無意味に開け閉めし、耳たぶが耳の付け根まで真っ赤に染まっている。

どうやら、彼女も昨日のデートのことを思い出して一人で盛大に照れまくっているらしい。

(相変わらず、外見の鉄壁さと内側のデレ度のギャップが凄まじいな……)

心の中で苦笑していると、ガタッと乱暴な音を立てて教室の扉が開き、友達の佐藤が慌てた様子で駆け込んできたおい!

「おい聞いたか藤野! 今日の放課後、生徒会室のほうで全校集会の資料準備を手伝うことになったんだけどさ、お前も図書委員の仕事で残るだろ?」

「え? あぁ、まあ一応その予定だけど……それがどうかしたのか?」

「いや、それがさ……生徒会の長谷川副会長って、相変わらず鬼のように厳しいじゃん? こないだ提出した書類のミスで説教されるかと思うと、今から胃が痛くてさぁ!」

佐藤が頭を抱えているその横で、斜め前の長谷川の背中が、わずかにピクッと跳ねた。

……もちろん、彼女が「鬼のように厳しい」わけがない。

むしろ放課後、裏の厨房で俺に甘えまくっている張本人なのだから。

「大丈夫だろ、ちゃんとやることやってれば怒られないって」

「そうだけどよ……おっ、ちょうど本人が来たぞ!」

佐藤が振り返ったその瞬間、教室の扉から、まさにその長谷川凛が冷徹なオーラを纏いながら入ってきた。

◇

ホームルームが始まり、午前中の授業が淡々と過ぎていく。

そしてお昼休み。

購買で買ったパンを机で食べていると、佐藤がひょいと顔を近づけてきた。

「なあ藤野、さっき職員室の前で生徒会の長谷川さんとすれ違ったんだけどさ……気のせいかな、俺に冷たい目を向けたあと、なぜか一瞬だけすごい『不機嫌そうな顔』して通り過ぎていったんだよ。俺、何かやらかしたかな……?」

(……いや、お前がさっき「長谷川副会長が鬼のように厳しい」とか大声で言ってたからだろ……)

俺が心の中でツッコミを入れていると、視線の先で、長谷川が自分の席からチラリとこちらを睨みつけてきた。

(……っ、目が合った……!)

長谷川は冷ややかな視線を送るふりをしながら、誰も見ていない隙を突いて、こっそりと人差し指を立てて『後で覚えてなさい』というジェスチャーを小さく送ってきた。

(……怒ってる、絶対怒ってるぞ……!)

◇

そして、放課後。

図書委員の仕事を猛スピードで終わらせた俺は、足早に実家の洋菓子店『パティスリー・フジノ』の裏口へと向かった。

鍵を開けて厨房に入り、エプロンをつけようとした、その時——。

ガチャン! と、いつもより少し荒々しい勢いで勝手口の扉が開いた。

「お、お疲れ様、凛……って、うわっ!?」

扉の隙間から滑り込んできた長谷川は、入ってくるなり俺の胸元にドンと両手をつき、潤んだ瞳で怒ったように見上げてきた。

「……ねえ、葵!」

「ひ、ひえっ、なんでそんなに怒ってるの、凛殿……?」

「さっきの昼休み、佐藤くんと何楽しそうに喋ってたのよ……! 『鬼のように厳しい』とか言われて、私、余計なところで嫉妬しちゃって、書類にハンコ押す手が震えそうになったんだからね……!」

ぷっと頬を膨らませ、本気で不機嫌そうに唇を尖らせる長谷川。

学校ではあんなに完璧な「氷山の副会長」を演じているのに、ここに来たと途端にこれだ。

「ごめんごめん、佐藤があんなこと言うからさ。でも、鬼なんかじゃないだろ、俺にとっての凛は、世界で一番可愛い彼女なんだからさ」

「——っ!?」

ストレートな言葉に、長谷川の顔が一瞬で真っ赤に染まった。

彼女は言葉を失ったように目を見開き、やがて恥ずかしさのあまり両手で顔を覆って、トスッと俺の胸に額を預けてきた。

「……ずるい……そんなこと言われたら、怒りたくても怒れなくなっちゃうでしょ……バカ……」

「はいはい、怒ってごめんね。じゃあ、機嫌直してもらうために、今日の特製スイーツをどうぞ」

俺が冷蔵庫から取り出したのは、甘酸っぱいイチゴをふんだんに使った『特製レアチーズ・タルト』。

「……これ……美味しそう……」

パッと顔を上げた長谷川の瞳が、一瞬で少女のように輝き始めた。

彼女はソファに腰掛け、スプーンを手に取ると、一口すくって口へと運ぶ。

「んん〜っ……♡」

一口食べた瞬間、彼女の顔から不機嫌な色は完全に消え去り、とろけるような至福の笑みが広がった。

「……美味しい……。チーズの濃厚さと、イチゴの酸味が絶妙で……さっきまでのモヤモヤが全部吹き飛んじゃった……」

「よかった。機嫌直って」

「……うん。葵の作るお菓子も、葵の言葉も……全部、反則だわ……」

照れくさそうに微笑みながら、タルトを美味しそうに頬張る長谷川。

学校での冷徹な仮面と、放課後のこの甘すぎる素顔。

そのギャップを独り占めできるこの場所こそが、世界で一番最高な「秘密基地」だった。

(第18話・おわり)

お読みいただきありがとうございました!


第18話では、学校での佐藤の失言(?)による長谷川さんのヤキモチと、放課後の厨房での甘すぎる仲直り(レアチーズタルト)をお届けしました!


次回第19話もお楽しみに!

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