日曜日、ふたりきりの初デートと、隠しきれない独占欲
日曜日、午前十時。
待ち合わせ場所である駅前の大型商業施設の前。
俺——藤野葵が少し早めに到着して待っていると、人混みの中に一際目を引く美しい少女の姿を見つけた。
淡いアイボリーのニットワンピースに、上品なベージュのショートコート。
首元にはふんわりとした白いマフラーを巻いており、艶やかな黒髪が風に揺れている。
学校の制服姿とはまた違う、大人の女性らしさと可愛さが同居した私服姿。
それが——長谷川凛だった。
(……やば、今日の私服、破壊力高すぎないか……?)
通行人の男たちが思わず二度見していく中、俺に気づいた長谷川は、パァッと顔を輝かせてトコトコと小走りで近づいてきた。
「お、お待たせ、葵……! 待った……?」んう、今来たところだよ。私服、すごく似合ってるね」
「——っ!」
ストレートに褒めた瞬間、長谷川の顔がみるみるうちにトマトのように真っ赤に染まった。
彼女は慌てて白いマフラーに顔を半分ほど埋め、モジモジと足を動かす。
「も、もう……! そんな堂々と褒めないでよ……! 家で何回も鏡見て、変じゃないか確認してきたんだからね……!」
「変なわけないだろ。世界一可愛いよ」
「〜〜〜っ! バカ葵……! 公共の場所でそういうこと言うの禁止!」
顔を真っ赤にしてポカポカと軽く俺の腕を叩いてくる長谷川。
その口元は隠しきれないほどニヤけていて、嬉しさが全身から溢れ出ている。
「はいはい、ごめんごめん。じゃあ、さっそく予定通りカフェに行こうか」
「……うん!」
長谷川は嬉しそうに頷くと、自然な流れでスッと俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
——恋人繋ぎ、ではなく、腕組み。
周囲から見れば「仲の良いカップル」そのものの距離感。
学校での冷徹な「氷山の副会長」の面影は微塵もなく、ただ俺に全幅の信頼を寄せる可愛い彼女がそこにいた。
◇
駅前の人気お洒落カフェ。
テラス席に並んで座り、長谷川が注文した『特製モンブラン・パンケーキ』が運ばれてきた。
「わぁ……美味しそう……!」
キラキラと瞳を輝かせながらナイフを入れる長谷川。
一口食べた瞬間、彼女は「んん〜っ……♡」と小さくトロけるような声を漏らした。
「どう? 美味しい?」
「うん……! 栗の濃厚なクリームと、ふわふわのパンケーキが口の中でとろける……。ねえ、葵も一口食べる?」
そう言って、長谷川はフォークに小さく切ったパンケーキを乗せ、俺の口元へと差し出してきた。
「あ、じゃあいただきます」
パクッと食べると、上品な甘さが口いっぱいに広がる。
「美味しいね。お店のセレクト、大正解だったな」
「でしょ? ネットですごく評判が良かったから、前から気になってたの……! 葵と一緒に来れて、本当によかった……」
嬉しそうに微笑む長谷川の横顔を見ていると、本当に彼女がこのデートを楽しみにしていたことが伝わってきて、胸が温かくなる。
◇
カフェを出たあとは、街の雑貨屋さんや本屋を巡った。
雑貨屋のぬいぐるみコーナーの前で、長谷川が先週街で見かけていた「小さな猫のキーホルダー」を名残惜しそうにじっと見つめている。
「……それ、欲しかったの?」
「ううん、別に……ただ、可愛いなって思っただけよ」
強がる長谷川だったが、瞳は完全に「欲しい」と言っていた。
俺はこっそりレジへ向かい、そのキーホルダーを購入してポケットに忍ばせた。
その後、少し人の少ない公園のベンチに腰掛け、一息ついた時。
「はい、これ。今日のデート記念」
俺がそっとその猫のキーホルダーを差し出すと、長谷川は目を見開いて固まった。
「え……これ……さっきの……っ!」
「欲しかったんだろ? はい、プレゼント」
長谷川は震える両手でキーホルダーを受け取り、信じられないものを見るような目で俺を見つめた。
そして、瞳にみるみるうちに大粒の涙が浮かんできた。
「……っ……ずるい……。なんで、私の欲しいもの……すぐ分かっちゃうのよ……」
「泣くなよ、嬉し涙なら大歓迎だけどさ」
「泣いてないもん……っ!」
そう言いながらも、長谷川はたまらず俺の肩に頭を預け、ぎゅっと抱きついてきた。
「……ありがとう、葵。大切にする……一生、カバンにつけて大事にするから……」
「うん、よろしく頼むよ」
公園の木漏れ日の中、通り過ぎる風は冷たかったけれど、お互いの体温と心はこれ以上ないほど温かかった。
学校の「氷山」なんて、もうどこにもいない。
あるのは、世界で一番幸せな、俺と彼女の甘い時間だけだった。
(第17話・おわり)
お読みいただきありがとうございました!
第17話では、正式に付き合い始めてからの初めての本格デート、カフェでのあーん、そしてサプライズのプレゼントをお届けしました!
長谷川さんの嬉し涙とデレデレの姿を楽しんでいただけましたでしょうか?
次回第18話もお楽しみに!




