↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/23

彼女の名前と、学校の裏でのふたりきり

正式に恋人同士になってから、初めて迎える金曜日の放課後。

校内での「氷山の副会長」と「影の薄い男子生徒」という仮面は、相変わらず完璧に維持されていた。

……少なくとも、周囲の生徒たちの目にはそう映っているはずだった。

だが、当事者である俺——藤野葵(ふじの あおい)と、長谷川凛(はせがわ りん)にとっては、状況は一変していた。

朝のホームルーム前。

長谷川は教科書を取り出すふりをしながら、誰も見ていない隙を突いて、すっと右手の薬指を軽くトントンと叩いてみせた。

(……っ、それ、昨日の新しい合図……!)

『今日の放課後、いつもより長めに一緒にお店に直行するわよ』という意味の、二人だけの新しい秘密。

俺がペンを二回カチカチと鳴らして返答すると、長谷川は背中越しでありながら、ふっと愛おしそうに口元を緩めたのが分かった。

——しかし、問題はその「放課後」に起きた。

◇

終業のチャイムが鳴り響き、佐藤が「よっしゃ週末だぁ!」と大騒ぎしながら教室を出ていく。

俺も急いでカバンに荷物を詰め込み、いつものように斜め前の席に視線をやった。

「じゃあ、長谷川さん。生徒会の仕事、頑張ってね」

周囲に人がいるため、あえていつも通りの冷淡なトーンで声をかける。

長谷川もまた、完璧な氷山スマイルを浮かべて頷いた。

「ええ。生徒会の書類整理がありますので、今日は少し遅れます。……葵くんも、寄り道せずにまっすぐ帰るように」

完璧なまでの「塩対応のクラスメイト」の演技。

さすが学年次席、演技力までプロ級だと思いながら、俺は実家の洋菓子店『パティスリー・フジノ』へと先に向かった。

◇

実家の厨房で、今日の新作『特製オペラケーキ』の仕込みを始めてから約三十分後。

コン、コン、コン——。

待ちに待ったノック音が響いた。

俺が急いで鍵を開けて扉を開けると、そこには制服姿の長谷川が立っていた。

だが、今日の彼女はいつもと少し違っていた。

「ふぅ……っ……疲れた……」

パタンと扉が閉まった瞬間、長谷川はこれまでにないほど深く息を吐き出し、その場でぐったりと俺の胸元に寄りかかってきた。

「お、お疲れ様、凛。どうしたの、そんなにぐったりして」

「どうしたって……!」

長谷川は顔を上げ、潤んだ瞳で不満そうにぷっと頬を膨らませた。

「学校で……! 授業中も、生徒会の仕事中も……ずっと葵のことが頭から離れなくて……! 早く名前で呼びたいのに、周りの目が気になって『長谷川さん』なんて冷たく呼ばなきゃいけないのが、こんなにストレスだなんて知らなかったわよ……!」

両手で俺の制服の裾をぎゅっと掴みながら、ぶーぶーと文句を垂れる長谷川。

学校での完璧な副会長の姿は完全に消え去り、いま目の前にいるのは、ただただ彼氏に甘えたいだけの最高に可愛い彼女だった。

「はは、ごめんごめん。でも、生徒会の仕事もちゃんとやり切ったんだろ? えらいえらい」

俺が優しく彼女の黒髪をなでると、長谷川は気持ちよさそうに目を細め、さらにトスッと額を俺の胸に預けた。

「……頭なでるの、禁止……子供扱いしないでよ……」

「でも、嬉しそうじゃん」

「……うっ……否定はしないけれど……」

長谷川は恥ずかしそうに耳たぶを真っ赤に染めながら、小さく息を漏らした。

「ねえ、葵」ん?

「ん?」

「……来週の日曜日……学校が休みの日にさ……その、どこか出かけない……?」

「お、それって……デートってこと?」

「っ……! わ、わざわざ言葉に出さなくてもいいじゃない……! でも、そうよ! 二人っきりで、誰の目も気にしないで……丸一日、一緒に過ごしたいの」

上目遣いで、少し不安そうに、でも期待に満ちた瞳で俺を見つめてくる長谷川。

こんな可愛い誘いを断る理由なんて、どこにもなかった。

「もちろん。どこに行きたい? 映画でも、遊園地でも、行きたいところ全部付き合うよ」

「ほんと……? じゃあ……駅前の新しくできたカフェと、雑貨屋さんに行って……それから……」

嬉しそうにパァッと顔を輝かせ、行きたい場所を指折り数え始める長谷川。

その楽しそうな横顔を見ているだけで、胸の奥が甘い幸福感で満たされていく。

「よし、じゃあ今日の試作品は、そのデートの計画を立てながら食べようか。今週の新作、特製のオペラケーキだよ」

「ほんと!? やった……! 早く食べたーい!」すっかり子供のように目を輝かせる長谷川。

学校では「氷山の副会長」として周囲を圧倒している彼女が、この場所でだけ見せてくれる無防備な笑顔と甘え声。

秘密の協定は終わったけれど、二人だけの甘すぎる甘味生活は、ここからさらに加速していくのだった。

(第16話 おわり)

お読みいただきありがとうございました!


第16話では、正式に付き合い始めた後の「校内での我慢」と「放課後厨房での全開甘えモード」、そして次週の初デートの約束をお届けしました!


次回第17話は**「ついにやってきた日曜日!二人っきりの初めての本格デートと、さらに深まる甘い絆」**をお送りする予定です。

ぜひお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。