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新学期の生徒会視察と、隠しきれない甘い距離感

冬休みが明け、新学期がスタートした校舎には、冷たい空気の中にどこか引き締まった活気が戻っていた。

三学期——それは進級や受験に向けて慌ただしくなる時期であり、同時に学生生活の終わりや新たなステップを意識し始める季節でもある。

「いやぁ、冬休みボケが抜けないわ……。数学の課題、結局最後の一夜漬けで終わらせたし」

自分の席で頭を抱える佐藤の横で、俺——藤野葵(ふじの あおい)は、ぼんやりと窓の外の寒空を眺めていた。

(お正月、神社で和服の長谷川さんと初詣に行ってから、より一層距離が近くなった気がするな……)

学校では相変わらず「氷山の副会長」として冷徹な塩対応を貫いている彼女だが、放課後の『パティスリー・フジノ』で見せるデレデレの姿を思い出すと、自然と頬が緩みそうになる。

ふと、斜め前の席に視線をやった。

長谷川凛(はせがわ りん)は、綺麗に整えられた姿勢で国語の教科書に目を走らせている。

その完璧な佇まいは、相変わらず全校生徒の憧れの的だった。

……だが、彼女の右手は、なぜか自分の右耳たぶをこっそりと触っていた。

(——って、授業中だぞ長谷川さん……!)

周囲の生徒に見られていないかヒヤヒヤしながら見守っていると、長谷川はハッと気づいたように手を引っ込め、これでもかというほど真面目な顔で黒板を見つめ直した。

その耳たぶが、遠目からでもはっきりと分かるほど真っ赤に染まっているのが見えて、俺は思わず小さく吹き出しそうになった。

◇

お昼休み。

購買で買ったパンを食べていると、クラスの女子グループがキャッキャと楽しそうな声を上げながら近づいてきた。

「ねえねえ、藤野くん!」ん?

「ん? どうかしたのか?」

「次の家庭科の調理実習さ、班決めがあるんだけど、藤野くんってお菓子作り得意だよね? 私たちの班に入ってくれない!?」

「えっ、俺が……?」

女子たちに囲まれ、少し戸惑っていると——。

ガラッ、と教室の扉が勢いよく開いた。

「……そこまでです」

冷え切った、氷点下の透き通るような声。

教室の空気が一瞬で凍りついた。

そこに立っていたのは、生徒会の腕章をつけた長谷川凛だった。

彼女は冷徹なまでの『氷山』の眼差しで、俺を取り囲んでいる女子生徒たちをじっと見据えている。

「……長谷川さん……?」

「授業時間外の不要な私語、および特定の生徒への過度な集団行動は、風紀上好ましくありません。速やかに自席に戻りなさい」

「ひっ……! ご、ごめんなさい長谷川副会長……!」

圧倒的なプレッシャーに怯えた女子たちは、蜘蛛の子を散らすように慌てて自分の席へと逃げ帰っていった。

長谷川は冷淡な視線を一瞥くれた後、すっと俺の机の横へと歩み寄り——。

周囲に聞こえないほどの、ほんの小さな声で呟いた。

「……馴れ馴れしくしないでよ、バカ葵……」

「いや、俺は何もしてないんだけど……」

「……うるさい。あとで、ちゃんと覚えてなさい……」

そう言い残すと、長谷川はふんと顔を背け、凛とした足取りで教室を去っていった。

(……今の、完全にヤキモチだったよな……?)

冷酷な生徒会副会長の仮面の裏に隠された、あまりにも分かりやすい独占欲。

胸の奥がキュンと締め付けられるような、甘酸っぱい衝撃だった。

◇

そして、放課後。

実家の洋菓子店『パティスリー・フジノ』の裏口。

鍵を開けて厨房に入り、エプロンをつけようとした瞬間、いつもより激しい勢いでコンコン、とノック音が響いた。

慌てて扉を開けると、そこには制服のままで息を少し切らせた長谷川が立っていた。

「お、お疲れ様、長谷川さん。そんなに急いでどうしたの?」

「……どうしてって……!」

長谷川は厨房に滑り込むやいなや、パタンと扉を閉め、両手で自分の頬を押さえた。

「昼休み……あんなに女子たちと楽しそうにして……! 私、生徒会の巡回中なのに、思わず走り出しそうになっちゃったじゃない……!」

「いや、あれは向こうが話しかけてきただけで……」

「知ってるわよ! でも、面白くないものは面白くないの……!」

ぷっと頬を膨らませ、不満そうに目を潤ませる長谷川。

学校の誰もが見たら失神するであろう「氷山の副会長」のこんな子供っぽい嫉妬顔は、世界で俺しか知らない特等席だった。

「ごめんごめん。そんなに怒らないでよ。今日の試作品は、長谷川が大好きな特製プリンアラモードだからさ」

俺が冷蔵庫から取り出した豪華なプリンアラモードを差し出すと、長谷川の瞳がピクッと動いた。

「……ぷ、プリンアラモード……?」

「うん。怒った顔も可愛いけど、美味しいものを食べて機嫌直してほしいなって」

長谷川はしばらくじっとプリンを見つめていたが、やがて負けたように小さく息を吐いた。

「……ほんと、葵はズルい人ね……。そんなこと言われたら、怒っていられないじゃない……」

彼女はソファに腰を下ろし、スプーンを手に取ると、プリンを一口すくって口へと運んだ。

「……んん……っ♡」

瞬間、彼女の顔から不機嫌な色は完全に消え去り、とろけるような至福の笑みが広がった。

「……美味しい……。固めのプリンと、甘いフルーツのバランスが最高……」

「よかった。機嫌直った?」

「……まあ、これだけ美味しいものを食べさせられたら……許してあげるわ」

そう言って、照れくさそうに微笑む長谷川。

しかし、彼女はスプーンを置くと、ふっと真剣な表情に戻り、じっと俺を見つめてきた。

「ねえ、葵」

「ん? どうしたの?」

「……私ね、最近ずっと思っているの」

長谷川は立ち上がると、スッと俺の目の前まで歩み寄ってきた。

制服の袖を、いつものように指先でキュッと掴む。

「……いつまでも、こうやって『放課後の秘密』のままでいるのも……悪くないけれど……」

「長谷川さん……?」

「……私、もう、学校でも他の女子に取られたくないし……自分の気持ちに嘘をつき続けるのも、限界みたい……」

震える声。

けれど、その瞳にはこれまでにないほど真っ直ぐで、強い決意の光が宿っていた。

お互いの距離は、すでにゼロに等しい。

これ以上進めば、もう引き返せない「本当の恋人」の領域へと踏み出してしまう。

心臓がバクバクと暴れる音を聞きながら、俺はしっかりと彼女の目を見つめ返した。

新学期の冷たい空気の中、二人の関係はいよいよ決定的な瞬間へと動き出そうとしていた。

(第14話 おわり)

お読みいただきありがとうございました!


第14話では、新学期を舞台に長谷川さんの破壊力抜群な「ヤキモチ(嫉妬)モード」と、ついに本音をぶつけ合う告白寸前の極限展開をお届けしました!

二人の関係が大きく動き出すこの緊張感、楽しんでいただけましたでしょうか?


【読者の皆様へお願い】

「長谷川さんのヤキモチが可愛すぎて尊死した!」「次回の展開が気になりすぎて眠れない!」と思っていただけましたら、

ページ下部の**【ブックマーク追加】や【評価(★★★★★)】**をいただけますと、毎日の執筆の大きな大きな励みになります!


次回第15話は**「ついに迎える決定的な瞬間! 二人だけの秘密の終わりと、新しい始まり」**をお送りする予定です。

ぜひブックマークしてお待ちください!

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