初詣の和服姿と、新年の初・秘密協定
新年が明け、街は穏やかなお正月の空気に包まれていた。
寒さの厳しい一月上旬。
俺——藤野葵は、地元で最も賑わう『嘉義市内の歴史ある神社』の鳥居の近くで、待ち合わせの相手を待っていた。
(……来るかな。さすがに正月休みに神社で待ち合わせは、少し目立つかもしれないけど……)
クリスマスに聖夜のケーキを共に過ごし、お互いの気持ちがもう一歩で結ばれそうになってから数日。
年末年始の連休中も、LINEで細々と連絡を取り合っていたとはいえ、こうして顔を合わせるのは久しぶりだった。
ふと、人混みの中から、周囲の視線を一気に釘付けにする一人の少女が歩いてくるのが見えた。
(……あれは……っ!)
淡い桜色と白を基調とした、上品な古典柄の和服(着物)。
首元には白いファーショールをまとい、艶やかな黒髪は綺麗にまとめ上げられている。
いつもは凛とした制服姿の長谷川凛が、今日はまるで別人のような大和撫子然とした姿でそこに立っていた。
あまりの美しさに、すれ違う参拝客の男たちや観光客が思わず二度見していく。
「お、お待たせ、葵……」
長谷川はトコトコと近づいてくると、少し恥ずかしそうに頬を染め、裾をきゅっと抑えた。
「長谷川さん……! その、和服、すごく……似合ってるよ。めちゃくちゃ綺麗だ」
「——っ!?」
俺のストレートな言葉に、長谷川の顔が一瞬でトマトのように真っ赤に染まった。
彼女は慌てて白いファーショールに顔を半分ほど埋め、モジモジと足を動かす。
「う、うるさいわね……! 母に着せられたのよ、正月くらいこういう格好をしなさいって……。変じゃないかしら……?」
「変どころか、見惚れるくらい綺麗だよ。お正月マジックってレベルじゃない」
「もうっ! からかわないでよ……!」
ぷっと頬を膨らませる長谷川だったが、その目は嬉しそうに潤んでいて、隠しきれない笑みがこぼれていた。
◇
二人並んで鳥居をくぐり、神社の境内へと足を踏み入れる。
境内には露店がずらりと並び、甘酒やたこ焼きの香ばしい匂いが立ち込めていた。
「わぁ……すごい人……」
参拝客の多さに、長谷川は少し戸惑ったように眉をひそめた。
その瞬間、前方から大きな荷物を持った参拝客がフラフラとよろめいて近づいてくる。
「危ない!」
俺は反射的に長谷川の腕を引っ張り、自分の体に引き寄せた。
「——っ……!」
着物の袖がふわりと揺れ、長谷川の柔らかい身体が俺の胸元にすっぽりと収まる。
彼女の髪から漂う、上品で甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「だいじょうぶ? 人混みすごいから、はぐれないようにしないとね」
「……う、うん……」
長谷川は顔を真っ赤にしたまま、俺の胸元に額を預けた状態で小さく頷いた。
そして、そっと俺の和服の袖(またはコートの袖)を、指先でギュッと掴んできた。
「……はぐれたら困るから……その、こうしていても……いいかしら……?」
「……もちろん。離さないから、安心して」
「……っ……♡」
長谷川は嬉しそうに目を細めると、一層強く袖を握りしめた。
恋人同士のようでありながら、まだお互いの名前で呼び合う秘密の関係。
賑やかな神社の境内で、俺たちだけの甘い時間がゆっくりと流れていく。
◇
参拝の列に並び、手を清め、二礼二拍手一礼でしっかりと今年の願い事をした後——。
境内の一角にあるベンチに腰掛け、露店で買ったばかりの『温かい甘酒』と『みたらし団子』を分け合うことにした。
「はい、甘酒どうぞ。冷えた体に染みるよ」
「ありがとう、葵」
長谷川は両手で紙コップを受け取り、ふーふーと息を吹きかけながら一口飲んだ。
「ふぅ……甘くて、生姜の風味が効いていて、すごく温まるわ……」
「美味しいよね。あ、そういえばさっき、お賽銭のとき何をお祈りしたの?」
俺が冗談半分で尋ねると、長谷川はピクッと動きを止め、カップを見つめたまま頬を赤らめた。
「……ひ、秘密よ。言ったら叶わなくなるわ」
「えー、気になるな。もしかして『テストで学年一位を取れますように』とか?」
「ううん。そんなありきたりなことじゃないわよ」
長谷川はそっと顔を上げ、潤んだ瞳でまっすぐに俺を見つめてきた。
その視線は、どこまでも真剣で、そして甘かった。
「……私のお願いはね……『今年も、葵と一緒に美味しいお菓子を食べられますように』って……それと……」
「それと……?」
「……これ以上、葵に恋をさせられて、私の心が持たないから……これ以上、好きにさせないでっていう……神様へのワガママよ」
「——っ!」
不意打ちの特大級のデレ発言に、俺の心臓は一撃で撃ち抜かれた。
和服姿の破壊力と相まって、頭の中が真っ白になりそうになる。
「な、なに照れてるのよバカ葵……! こっちは恥ずかしいのを我慢して言ってるんだからね……っ!」
顔を真っ赤にしてポカポカと軽く俺の肩を叩いてくる長谷川。
その仕草すら愛おしくて、俺は思わずふっと笑ってしまった。
「ありがとう、長谷川さん。俺も同じ願いだよ。今年も、来年も、ずっと長谷川さんの隣で美味しいものを作り続けたいって、そう願ったから」
「……っ……! ほんと……?」
「本当だよ」
長谷川は息を呑むと、嬉しそうに、そして愛おしそうに満面の笑みを浮かべた。
それは、学校で見せる「氷山の副会長」の仮面など一片もない、世界で一番可愛い彼女の笑顔だった。
新年を迎えたばかりの澄み切った空の下。
お互いの温もりを感じながら、二人の新しい一年は、最高に甘く、最高に幸せな形で幕を開けたのだった。
(第13話 おわり)
お読みいただきありがとうございました!
第13話では、新年の初詣を舞台に、和服姿の長谷川さんの破壊力抜群の可愛さと、初詣での甘すぎるお祈りエピソードをお届けしました!
お正月の和やかな空気感と、二人の縮まった距離感を楽しんでいただけましたでしょうか?
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次回第14話は**「新学期スタート!学校で新たなトラブル? それとも二人の関係に決定的な進展が……?」**をお送りする予定です。
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