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まおーさま! してんのうです!

「まおーさま! ごほーこくです!」


 今日も天使のような可愛らしい声が魔王城、玉座の間に響く。

 魔王マオの記念すべき最初の使い魔であるラズベリーの声だ。

 彼女は2頭身ほどのぬいぐるみの形をしているが、明確な意思を持っていて会話もできる。

 そして魔王の命令を聞いて、今しているように結果を報告に来るのだ。


「うむ。申してみよ」


 その声に応えるのは、堂々とした態度で玉座に座る少女、新米魔王ことマオだ。

 マオは魔王の娘であり、行方不明(行き先は予想できているが知らないふり)の父に代わり、魔王の座についている。

 先日の作戦で父親の残した借金を返済し終えて魔王城を買い戻したマオは上機嫌な様子であった。

 ちなみに悪行のつもりで実施したその作戦では、何故か宿敵であるはずの勇者から感謝状を送られる結末になった。

 その時送られた感謝状は、「勇者が魔王に感謝状なんて送るな!」と憤慨していた割に、マオの自室に額縁に入れて飾られていたりする。


「はい! きょうは、してんのうさまたちからのおてがみです!」

「ほう、勇者の来訪に合わせて召集をかけていたが、まずはその返信だろうか」


 ラブベリーから4通の手紙を受け取る。

 それぞれの手紙の宛名には見覚えのある名前が綴られていた。

 

 死闇の精霊レイス、レン。


 豪腕の鬼神オーガ、ロウガ。


 寡黙の暗黒騎士ダークナイト、サイト。


 謀略の淫魔サキュバス、アリス。


 先日の作戦でも良く働いてくれた、魔王の頼もしい仲間達だ。

 ……どいつもこいつも癖が強くて、正直マオは苦手なのだが。


「どれ、上から順番に読んでみるとしようか」


 受け取った手紙入りの封筒をひとつずつ確認することにするマオ。

 重ねた4つの封筒の、一番上にあるレンの手紙を手に取る。


「あいつ、毎度彼氏の自慢やら惚気話ばかりだから正直苦手なのだがなぁ……。

 まあ、そうも言うておれんな。どれどれ……」


 レンという少女への文句を呟きつつ、マオは文面を読み進めた。



『勇者の件、了解しました。ただちに魔王城へ帰還します。

 追伸。

 ふられた。ふられた。ふられたふられたふられたふられた。

 あんなに愛していたのにリン君にふられた。他に好きな人がいるってふられた。

 お前の愛が重いとふられた。付き纏うなってふられた。泥棒猫はあの女なのに、俺の恋人を傷つけるなってふられた。

 どうして? どうしてどうしてどうして分かってくれないのリン君わたしこんなに愛してるのになんでなんでなんで?

 私もっと頑張るから捨てないで、戻ってきて、私を愛して。私はあなたを今も愛してる。

 あいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてる』




「ヤンデレイスうううううううう!?」



 悲鳴を上げながら手紙を放り投げるマオ。

 魔王の威厳なんてまるでない。そんな彼女は文字にすら宿る狂気的な愛の念にあてられて恐怖に身体を震わせている。


「な、なんで? あいつこの前まで『今日もリン君とデートしちゃいました、きゃっ♪』なんて幸せそうだったじゃないか!?」


「ついしんのほうがながいとかありえないです! というかしごとのてがみにこんなことかいてんじゃねーです!」


「いやまあそれはいつも通りだし別にいい。……あれ? いやいや良くない! いつものことすぎて感覚がおかしくなってる!」


 自分の発言の少し間を空けて自分でつっこみをいれるマオ。

 その後、投げ捨てた手紙をおそるおそるといった様子で拾って、文面を見ないようにしながら封筒に仕舞いなおす。

 何事もなかった風に装い、次の手紙を開いた。


「ロウガ……あいつは脳筋だが、まあレンのようなことはなかろう」


 うむ、と。気持ちを切り替えるように頷いて2つ目の手紙に目を通し始める。



『勇者の件、了解だ! 久々の大喧嘩になりそうで腕が鳴るぜ!

 追伸。俺達、結婚します』


 手紙に同封されていた写真には、幸せそうな笑顔で互いに肩を寄せ合うロウガとレンの姿が映っていた。




「乗り換え早すぎるううううううう!?」



 投げ捨てこそしなかったものの、マオは力の限り叫んでいた。

 写真の中のレンは、最初に見た手紙の惨状からは予想すらできない、幸福に満ちた微笑みを浮かべている。

 嫌々写真だけ取ったわけではないことは明白であった。


「あ、あんなにリン君とやらを愛していると言うとったのに、もう次の恋に移っておるではないか!?」


「ろーがさまは、れんさまをずっとまえからあいしていたそうなのです!

 こいびとがいるなら、とろーがさまはあきらめていたそうですが、こんかいのけんでおもいきってあたっくしたそーです!

 さいしょはこばんでいたれんさまも、あいするよりあいされるよろこびにめざめて、いまではむちゅーらしいですよ!」


「ほ、ほう……なんだ、ロウガの奴ただの脳筋かと思うていたが、恋の駆け引きなんてできたのだな」


「ろーがさま、ちゃんすなのにあーだこーだへりくつをこねてうじうじしてやがったので、けしかけてやったのです!」


「黒幕おまえか!? い、いや二人とも幸せそうだし、良いことか……?」


「そんで、ふたまたやろーのりんと、どろぼうねこおんなには、きっちりおとしまえつけさせたです!」


「何やったの!? ねえおまえ何やったの!?」


 よくよく写真を見てみると、ロウガとレンの二人が腰掛けているのはベンチではなく、なにかひとのかたちをしているような……。

 マオは気付かなかったことにして、その写真を封筒に押し込んで「見てない、私は何も見てない……」と自分に言い聞かせた。

 断じて、血塗れでベンチ代わりにされている二人組みなんて見ていない。見ていないんだったら。


「さあ、次だ次! 3度目の正直だ!」


「にどあることはさんどある、ともいうです!」


「やめて!? 不安になっちゃう!」


 マオは気を取り直して3通目を開封する。

 今度こそはまともなの来い、と心の中で念じながら。

 3通目、寡黙なる暗黒騎士サイトの手紙は。


『勇者の件、了解だよー☆ ちょー特別イベントの予感にわくわくしちゃう!

 そういえば魔王様はついこの前、近所にオープンしたクレープ屋さんは行っちゃった系?

 私も興味あるんだけど、一人で行くのさびしーから、今度いっしょに行っちゃわない?

 べ、別にいっしょに行く友達がいないわけじゃないんだけど、せっかくなら魔王様と仲良くなりたいなー、なんてね!

 そんなわけで勇者の件か片付いたら、魔王様さえ良ければデートしませんか? なんてね、女の子同士でデートなんておかしいよね、あは☆』




「おまえ手紙では超饒舌ですねえ!?」



 なんとも可愛らしい文字やイラストが添えられた、とても女の子っぽいものだった。


「ぼっちのかおりがあふれでていやがるです!」


「ま、まあ普段は誰の傍に置かず、一言も喋らないからな、あいつ……そういえば手紙で連絡取り合うのはアリスとは初めてか」


「はじめてのおてがみではしゃいじゃって、なんともぱっぱらぱーなのです!」


「おまえはいつも通り容赦ないねえ!?」


「あんこくきしになったのは、にんげんのまちでぼっちすぎてつらかったからなのです? とたずねたら、ないてにげたのです!」


「やめてあげてよぅ!?」



 ここまでつっこんだり叫んだりし続けたせいでひどく疲れたマオだったが、ここまできたら最後まで行ってしまおう、と4通目の手紙を手に取る。

 謀略の淫魔サキュバス、アリス。様々な策略で人を陥れることを生き甲斐とする彼女からの手紙は。



「どこまでもお人よしな勇者を仕留める好機ですわね。

 うすのろなお仲間達を人質に取って脅してやりましょうか。

 かぞくを攫ってやるのも一興ですわね。

 たのしい恐怖の宴に勇者共を招待してやりましょう!

 すぐにでも招いてやりたいところですが、しばしこちらも準備をいたしましょう。

 けいさんし尽くしたわたくしの策略をお披露目いたしますわ!

 てがみ、確かにお送りいたしました」



 なんとも、普通な文面であった。

 過激な内容ではあるものの彼女らしく、今まで見てきた手紙と比べれば随分とまともなものであった。

 一部、漢字で書くべき箇所をひらがなで記しているのが気になるが、だからといってどうということはないだろう。


「……一番過激で侮れん奴の手紙が一番まともとはな。頭が痛くなる」


「まおーさま! まおーさま! よくみてください!」


 ラズベリーが何やら囃し立て、玉座をよじ登りマオの膝の上に乗っかる。

 そしてそのぬいぐるみの手がなぞる様に手紙を縦に……正確には各行の最初の文字を縦に読んでいく。


「どうかたすけて……縦読み!? というか何があったというのだ!?」


「ひんとは、どろぼうねこおんなです!」


「寝取ったのあいつかああああ!? というか仲間内で争ってどうする!?」


「さいしょはまないきなくちきいてやがりましたが、さいごにはこどもみたいになきじゃくってたのです!

 このひのために、あのどろぼうねこのことをみのがしてやってたので、すっごくすっきりしたのです!」


「あんたって本当に最高にえげつないね!?」



 今日も魔王城には騒がしく声が響く。

 そんな彼女達の元に勇者達が来訪する予定日は、もうまじかに迫っていた。





正直「ヤンデレイス」が言いたかっただけだろと言われたら否定できないとです。

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