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まおーさま! かんしゃじょうです!

連載ではありますが4,5話くらいでさくっと終わる予定です。


「まおーさま! ごほーこくです!」


 魔王城、玉座の間に能天気そうな子供の声が響く。

 子供、としか表現できないがその身体は人間の子供よりさらに小さい。

 2頭身程の小さな人形に意思が宿った存在が、その声の主であった。

 その人形は意思を持って会話を行うだけでなく、自律行動が可能で魔王の命令に従い手駒として動く従者でもある。

 そんな人形のひとつ、魔王が生まれて初めて作成した使い魔のラズベリーは可愛らしい顔をした女の子の人形だ。


「ふむ。ご苦労。申してみよ」


 その使い間である意思持つ人形に大仰な態度で先を促す少女。

 玉座に堂々と座る彼女こそが魔王である。

 魔に連なる者達の王。人類の敵対者。

 魔王の後継者・マオである。


「はい! あのさくせん……にんげんたちからちからをうばうぞ! さくせんのけっかほーこくです!」

「ほう……人間共の悪感情から生み出される魔力を搾取する、あの魔法だな」


 人間の悪意は魔族の糧となるエネルギーだ。

「暴食」、「色欲」、「強欲」、「憂鬱」、「憤怒」、「怠惰」、「虚飾」、「傲慢」。

 そういった人間と切り離せない負の感情こそが、魔族にとって魔力の源となる。

 今回の作戦は、その魔力の源を人間達から大々的に搾取するための術式を広範囲に配置することで、大規模な魔力吸収を行うことが目的だった。


「さくせんはせいこうです! あつまったまりょくはなんと53まんです!」

「ほほう! 実によいな、これで……」


 魔王はラズベリーの報告に満面の笑みを浮かべて。


「……ようやく城を建て直せるな」


 そういって魔王は周囲を見渡す。

 魔王の居場所である玉座の間以外、現在の魔王城は存在しない。

 先代魔王でありマオの父親が、ギャンブルの末こさえた借金の担保にしていたせいで差し押さえられてしまったのだ。

 お情けで玉座の間だけは残してもらえたが、それ以外はただ広大な敷地があるだけ。

 しかし集まった魔力を魔族の通貨に換金すればなんとか借金の返済は完了。そして新たな魔王城を立て直す目処も立つ。

 ちなみにその先代魔王は借金取りに捕まった後、王妃である母親に連れて行かれた後行方不明である。


「それと、おてがみです!」

「ふむ。母上からか? 先日も送られてきたばかりだが」


 母からは定期的に手紙が届くが、連行されていった父親のことには一切触れられていない。

「魔王としてのお勤めがんばってね、ファイト♪」なんてマオを応援する言葉はたくさん書かれているのだが。

 同封される写真の後ろの方に簀巻きにされた男の背中が見えることもあったが、父親の行方は知らないったら知らないのである。


「いえ、あいては……ゆうしゃです!」

「何!? ……いや、くふふ。当然ではあるか。人間共から搾取した魔力のことを思えば、勇者が危機感を覚えるのも無理はない。

 その手紙はおそらく宣戦布告の類であろうな」


 マオはラズベリーから手紙の入った封筒を受け取り、開封する。

 そこには人類の希望であり、魔王の宿敵である勇者・ユウからのメッセージが書かれていた。




『戦争寸前だった三大王国が和解して和平条約を結んでくれたよ!

 王様も国民も何か憑き物が落ちたみたいにすっきりした顔で戦争反対って、争いを止めたんだ!

 急にどうしたのかと思ってたら、魔王が人間の悪意を取り除いてくれたからだってその人形ちゃんから聞いたよ!

 僕、魔王って悪い人だと教わって、そうなんだって思ってたけど、本当はすごく良い人なんだね!

 本当にありがとう! あなたのおかげでたくさんの人達が助かったよ!

 つきましてはこの手紙に感謝状を同封していますので、よければお受け取りください!』




「勇者が魔王に感謝状なんて送るなあああ!」



 ぱっしーん、と手紙を床に叩きつけるマオ。

 苛立ちのあまり投げてしまったが、もう一度拾って読み返してみる。

 しかし何度文章を読み返しても、手紙の上から下ぎりぎりまで魔王への感謝の言葉で溢れていた。


「なんなんだ、なんなんだこれは……勇者は魔王と敵対する運命なのだろう?」

「ちゃんすですよ、まおーさま!」


 予想外の出来事にぶつぶつと呟くマオに、ラズベリーが声をかける。


「何がチャンスだというのだ!? なんかもう私、勇者の中ですっごい良い人扱いされてるぞ!?」


「そうおもってゆだんしてるところをぐさっとやっちゃえばいいのです!

 もしくはくちさきでだまくらかして、おもいどおりにあやつってしまうのもありですよ!」


「おまえ可愛い顔してえげつないこと言うね!?」


 魔王もびっくりの腹黒さであった。

 確かにそれは有効な手段ではある。あるのだが……マオは首を横に振る。


「いや、戦略的には正論なのだが、魔王としてはもっとこう、堂々と迎え撃つべきだろう?」


「かてばそれでいいのです! だまされるほうがわるいのですよ!

 ゆだんしているゆうしゃとそのなかまたちを、ほねのずいまであじわってやるのです!

 なんならどれいにしてうりとばしてやって、まおーぐんのしきんにしてしまうのです!」


「おまえ本当えげつないね!?」


 魔族的には正しいのかもしれないが、ラズベリーの可愛らしい顔で言われるとギャップがありすぎて魔王であるマオですら戸惑ってしまう。

 人形としてのラズベリーを作ったのはマオであるが、そこに込められる魂は周囲の環境に合わせて変化する。

 一体何が彼女をこうしてしまったのか……なんて考えながら、マオはふと封筒を確認した。

 手紙にあった感謝状とやらと、よく見ればもう一枚紙が入っている。

 手に取って読んでみると、そこには『追伸』と書かれていた。


『追伸。手紙だけでは感謝の言葉が伝わりきらないと思うので、そのうち直接会いに行きます!』


 それを見たマオは一瞬きょとんとした後、我が意を得たりとばかりに「くっくっく……そうきたか」と微笑を浮かべながら呟いた。


「勇者め、感謝状だの何だのと油断させて近づき、我を仕留める気か!

 そうはいかぬ、むしろ返り討ちにしてやろう! はっーはっはっは、ごほっ、げほっ!」


「まおーさま、なれないわらいかたするから、むせちゃうんですよ!」


「ええいうるさい、魔王と言えば高笑いはお約束なのだぞ! 勇者が来るまでに練習だ!」


「まおーさま、それよりほかにやっとくことがあるのです!」


 ラズベリーの忠告にはっとするマオ。

 確かにそうだ。勇者との決戦となればただ待ち構えているだけでは盛り上がらない。

 罠のひとつやふたつは用意して、悪の王としての在り方を見せ付けてやらねばならない。

 正面から堂々と罠に掛けたり騙し打つのは魔王らしいというのがマオの信条であった。


「おまえの言う通りだな、ラズベリー! では勇者を歓迎する用意をしろ!」

「あいあいさー! おまかせください!」


 とたとた、と駆けて行くラズベリーを見送り、マオは慣れない高笑いをする。


「ふーっはっはっは! 来るがいい勇者よ、この魔王マオが返り討ちにしてやる!

 くくく、はっはっはっごほ、けほっ!」





 そもそも、勇者がやってくるまでに借金返済と魔王城再建を急がないといけない。

 そのことにマオが気付くまでに、彼女が高笑いしてむせた回数は実に2桁を記録した。


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