第3話 少女が鎖を振るう夜
その夜、少女は初めて人を殺した。
正確に言えば、彼女が手にかけたのは1人ではなかった。
薄暗い地下室に、鉄の臭いが満ちていた。
床に転がる男たち。ひっくり返った木箱。割れた酒瓶。壁に飛び散った赤黒い染み。
その中心に、ひとりの少女が立っていた。
両手には、太い鉄の鎖。
手首には、錆びついた枷が残されている。
ライラック色の髪は乱れ、桃色の瞳は虚ろだった。
彼女の足元で、最後の男が這いずった。
「ひっ……化け物……!」
男は震える手で床を掻き、少女から逃れようとした。
「来るな……来るなあああっ!」
少女は首を傾げた。
どうして逃げるのだろう。
どうして、そんなに怯えているのだろう。
だって彼らは、いつも彼女にそう言っていたではないか。
──怪力の化け物。
──人間の形をした、忌まわしいもの。
少女は鎖を握り直した。
そして、その拳ごと振り下ろした。
鈍い音が地下室に響く。
男の悲鳴は、それきり途絶えた。
静寂が訪れた。
少女はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
それから、ゆっくりと鎖を下ろした。
「……終わった」
誰に告げるでもなく、呟いた。
終わった。
もう、殴られない。
もう、食事を抜かれない。
もう、見世物のように檻の中へ押し込められない。
もう、誰かに値段をつけられない。
そう思ったはずなのに。
少女の胸には、何もなかった。
喜びも、悲しみも、怒りさえも。
ただ、ひどく静かだった。
彼女は鎖を引きずりながら、地下室の扉へ向かった。
その先に何があるのかなど、考えていなかった。
生きるために、殺した。
それだけだった。
◇
少女が生まれた家は、貧しいながらも、ごく普通の農家だった。
父と母、兄が二人。
そして、末娘のライラ。
彼女は幼い頃から、ほかの子供とは少し違っていた。
生まれつき、力が強かったのだ。
最初に異変が起きたのは、まだ4歳の頃だった。
泣きながら父親の指を握ったライラは、ただ慰めてほしかっただけだった。
けれど、次の瞬間。
父親の指から、鈍い音がした。
「ぎゃあああっ!」
父親が叫んだ。
母親が駆け寄り、兄たちが怯えた顔で妹を見た。
ライラは何が起きたのか分からなかった。
「お父さん……?」
差し伸べた小さな手を、父親は乱暴に振り払った。
「触るな!」
その日から、家族は彼女を遠ざけるようになった。
食卓では席を離され、兄たちと遊ぶことも禁じられた。
何かを壊すたび、彼女は叱られた。
壊したくて壊したわけではない。
ただ、普通の子供と同じように触れただけだった。
木の椅子は脚が折れた。
水桶の取っ手は砕けた。
兄が投げつけてきた石を受け止めたときには、石のほうが粉々になった。
それを見た兄たちは、泣きながら母親の背後へ隠れた。
「化け物だ!」
「うちの妹じゃない!」
母親は何も言わなかった。
ただ、ライラを見つめる目から、少しずつ温もりが消えていった。
それでもライラは、家族に愛されたかった。
食事の支度を手伝った。
薪を運んだ。
壊れた道具を直そうとした。
力が強いなら、力を使えばいい。
役に立てば、きっと褒めてもらえる。
そう信じていた。
けれど、薪を一度に抱えすぎれば「気味が悪い」と言われ、井戸から水を汲めば桶を壊すなと怒鳴られた。
どれほど気をつけても、彼女の力は普通の人間の範疇を超えていた。
ある冬の日。
ライラが9歳になったばかりの頃だった。
父親は彼女を納屋へ呼び出した。
「お前を預けることにした」
「……預ける?」
「ああ。お前のような力のある子供を欲しがっている人間がいるそうだ。きちんと食わせてもらえる。仕事もある」
ライラは父親を見上げた。
「おうちに、帰ってきてもいい?」
父親は答えなかった。
代わりに、彼女の腕を掴んだ。
その手は、ひどく強かった。
ライラは痛みに顔をしかめたが、抵抗しなかった。
家族に嫌われていることは、もう分かっていた。
それでも。
もしかしたら、また帰ってこられるかもしれない。
そう思った。
だから彼女は、父親に連れられてきた男たちの馬車に乗った。
その日、ライラは家族に売られた。
帰る場所を失ったことを、彼女が本当に理解したのは、それから数日後のことだった。
◇
奴隷商人たちは、ライラを商品として扱った。
彼女の怪力は、彼らにとって価値のあるものだった。
重い荷物を運ばせる。
逃げようとする奴隷を押さえつけさせる。
見世物として、力自慢の男たちと競わせる。
逆らえば、食事を与えない。
命令に従わなければ、鞭を打つ。
ライラは抵抗しなかった。
抵抗すれば、もっとひどい目に遭うと知っていたからだ。
それに、どこへ逃げればいいのかも分からなかった。
家族のもとへ帰ることはできない。
外の世界に、自分の居場所があるとも思えない。
ならば、言われた通りにしていればいい。
そうすれば、少なくとも生きてはいられる。
ある日、商人のひとりが彼女に鎖をつけた。
両手を拘束するためのものではなかった。
逃げ出した奴隷を捕まえるため、彼女自身を使うのだという。
「お前は力だけが取り柄だからな。せいぜい役に立てよ、化け物」
男は笑いながら、鎖の先を引いた。
ライラは黙って従った。
その鎖が、彼女の人生を変えることになるとも知らずに。
それから数ヶ月が経った。
商人たちの一団が、国境近くの街にある隠れ家へ戻った夜。
彼らは酒を飲み、今日の稼ぎについて話していた。
「次はもっと高く売れるぞ。あのガキなら、見世物にするだけでも相当な金になる」
「いや、兵士に売るのも悪くない。あの腕力なら、戦場でも使えるだろう」
「いっそ檻に入れて、貴族に見せてやるか?」
男たちは笑った。
その声を、ライラは部屋の隅で聞いていた。
彼女は鎖に繋がれたまま、壁にもたれて座っていた。
目の前には、冷めたスープが置かれている。
食べていいと言われていなかったので、手をつけていなかった。
「おい、化け物」
男のひとりが彼女を呼んだ。
「こっちへ来い」
ライラは立ち上がった。
鎖が床を擦る。
「お前、明日から別の主人のところへ行くことになったぞ。ありがたく思えよ」
「……はい」
「返事だけは一丁前だな」
男が彼女の頬を叩いた。
ライラの顔が横を向く。
痛かった。
けれど、それだけだった。
「お前、何か言うことはないのか?」
「……ありません」
「つまらねえガキだな」
男は舌打ちし、再び酒に手を伸ばした。
そのときだった。
ライラは、ふと自分の手首を見た。
枷と鎖。
これがある限り、彼女は逃げられない。
けれどこの鎖は、誰がつけたものだっただろうか?
男たちだ。
自分を殴り、食事を奪い、売り買いしてきた男たち。
彼らが勝手に自分を縛った。
彼らが勝手に、自分を化け物と呼んだ。
彼らが勝手に、彼女の人生を決めた。
ならばどうして、彼らの言う通りにしなければならないのだろう。
ライラの指が、鎖を握った。
「……嫌だ」
声が漏れた。
「……私は、嫌だ」
初めて彼女が、自分の意思を口にした。
「あ?」
男たちが顔を上げた。
「今、何つった?」
ライラはゆっくりと顔を上げた。
「行きたく、ありません」
一瞬、沈黙が落ちた。
次の瞬間、男たちは爆笑した。
「ははっ!こいつ、自分の意思があるつもりかよ!」
「誰の金で飯を食ってると思ってやがる!」
「お前は商品だ!黙って従え!」
ひとりが立ち上がり、ライラの髪を掴もうと手を伸ばした。
その手が触れるより先に、ライラは鎖を振るった。
重い鉄塊が男の顔面を打ち抜いた。
悲鳴が上がる。
椅子が倒れ、酒瓶が割れた。
「なっ……!」
別の男が腰の短剣を抜く。
ライラは鎖を引いた。
枷が手首に食い込み、皮膚が裂けた。
それでも、彼女は鎖を離さなかった。
男の腕に鎖を巻きつけ、力任せに引き倒す。
巨体が床へ叩きつけられた。
誰かが逃げようとした。
誰かが助けを呼ぼうとした。
誰かが命乞いをした。
けれど、ライラにはもう、彼らの声が届かなかった。
彼女はただ、鎖を振るい拳を下ろした。
何度も。
何度も。
何度も何度も何度も。
何も聞こえなくなるまで何度も。
自分を縛っていたものを、自分を傷つけてきた者たちへと叩きつけた。
やがて、静寂が訪れた。
床には、もう動く者はいなかった。
ライラは息を切らしながら、鎖を握りしめていた。
手首から血が流れている。
頬も腫れていた。
服は汚れ、髪は乱れ、足元には男たちが倒れている。
彼女は、自分の手を見つめた。
「……私が、殺した」
言葉にしても、何も変わらなかった。
恐ろしいとも思わなかった。
悲しいとも思わなかった。
ただ、ひとつだけ。
もう、誰にも売られない。
もう、誰にも命令されない。
その事実だけが、胸の奥に小さな灯をともした。
ライラは鎖を引きずり、地下室を出た。
夜明け前の空気は冷たかった。
遠くで犬が吠えている。
どこへ行けばいいのか分からない。
これからどうすればいいのかも分からない。
それでも、足を止めるつもりはなかった。
初めて、自分の意思で歩いているのだから。
◇
ライラが見つかったのは、夜明けから間もない頃だった。
街外れの石畳を、血に汚れた少女が歩いていた。
手首には鉄の枷。
手には、長い鎖。
裸足の足元には、血の跡が点々と続いている。
すれ違う人々は、悲鳴を上げて逃げた。
兵士たちは遠巻きに彼女を囲み、剣を抜くこともできずにいた。
「近づくな!危険だぞ!」
「奴隷商人を皆殺しにしたらしい!」
「化け物だ……!」
その言葉を、ライラは聞いていた。
聞き慣れた言葉だった。
だから、何も感じなかった。
彼女は立ち止まった。
もう歩けなかった。
身体が重い。
手首が痛い。
お腹が空いている。
眠りたい。
でも、眠ったらまた鎖をつけられるかもしれない。
そう思うと、目を閉じることができなかった。
「道を開けなさい」
凛とした澄んだ声が響いた。
人々のざわめきが止まる。
馬車から降り立ったのは、黒髪に赤い瞳を持つ少女だった。
まだ幼さの残る顔立ち。
けれど、その立ち姿には貴族としての気品があった。
ヴェルシェリア・ポインセット。
当時、王太子の婚約者として、すでに社交界で知られ始めていた少女である。
彼女は周囲の兵士たちを一瞥した。
「その剣を下ろしなさい」
「しかし、ポインセット様!この者は奴隷商人を殺害した危険人物です!」
「それは聞きました」
ヴェルシェリアは、淡々と答えた。
「ですから、事情を聞くのです。話も聞かずに斬り捨てるおつもり?」
「い、いえ……」
「ならば下がりなさい」
兵士たちは顔を見合わせたあと、渋々と道を開けた。
ヴェルシェリアは、ひとりでライラの前へ歩み寄った。
周囲の者たちが息を呑む。
血まみれの少女。
手には鎖。
その足元には、誰もが恐れるほどの力を持つ少女を前に、王太子の婚約者は少しも怯んでいなかった。
ライラは顔を上げた。
赤い瞳と、目が合った。
「……殺すの?」
ライラが尋ねた。
ヴェルシェリアは首を傾げた。
「なぜ?」
「私は、人を殺しました」
「ええ。そう聞いています」
「……私は、化け物です」
それは、彼女が何度も聞かされてきた言葉だった。
自分を説明するための言葉。
自分が愛されない理由を納得するための言葉。
そして、自分がどこにも居場所を持てないことを受け入れるための言葉。
ライラは、赤い瞳を見つめた。
「だから、殺すのでしょう?」
ヴェルシェリアはしばらく黙っていた。
それから、ゆっくりとライラの手首へ視線を落とした。
食い込んだ鉄の枷。
擦り切れた皮膚。
血に濡れた鎖。
彼女は眉をひそめた。
怒っているのだ、とライラは思った。
やはりこんな自分が生きていることは、誰かを怒らせるのだ。
「……ひどい傷ね」
返ってきた言葉は、それだった。
ライラは瞬きをした。
「手当てをしましょう。食事も必要ね。眠れる場所も用意します」
「……どうして?」
「どうして、とは?」
「私は、人を殺しました」
「ええ」
「……化け物なのに」
ヴェルシェリアは、ほんのわずかに目を細めた。
「あなたは、自分を守るために戦ったのでしょう?」
ライラは答えられなかった。
「少なくとも、私はそう聞いています。あなたを鎖で繋ぎ、売り買いし、意思を踏みにじった者たちがいた。そして、あなたはそこから逃れた」
ヴェルシェリアは、少女の手に握られた鎖を見た。
「もちろん、人を殺したという事実が消えるわけではありません。けれど、その事実だけを見て、あなたのすべてを決めつけるつもりもありませんわ」
ライラは、彼女の言葉を理解できなかった。
今まで、誰もそんなことを言わなかった。
彼女の力だけを見た。
彼女が壊したものだけを見た。
彼女が恐ろしいということだけを見た。
なのに、この人は。
自分が何をされたのかを聞こうとしている。
自分が何を望んでいるのかを尋ねようとしている。
「……私は、どこへ行けばいいの?」
気がつけば、そんな言葉が口からこぼれていた。
ヴェルシェリアは、少しだけ微笑んだ。
「あなたが望む場所へ」
「……そんな場所、ない」
「でしたら、これから見つければいいのです」
少女の瞳が揺れた。
ヴェルシェリアは、ライラの前に膝をついた。
貴族の令嬢が、血と泥に汚れた奴隷の少女と同じ目線になる。
周囲から、驚きの声が上がったが、彼女は気にも留めなかった。
「よく聞きなさい、ライラ」
初めて、自分の名を呼ばれた。
売り買いのための番号でも、化け物という蔑称でもない。
自分の名前を、何故かこの人は、知っていて、そして、呼んでくれた。
「あなたは、もう誰かの所有物ではありませんから」
その言葉は、ライラの胸に落ちた。
音もなく。
けれど、二度と消えないほど深く。
あなたは、誰かのものではない。
誰かの命令に従う必要はない。
誰かに値段をつけられる必要もない。
あなたは、あなた自身のものなのだと。
ライラの唇が震えた。
「……私が、私のもの?」
「ええ。あなたはあなたのものです」
ヴェルシェリアは、はっきりと答えた。
「ですから、これからどう生きるかは、あなたが決めなさい」
ライラは、初めて泣いた。
家族に捨てられたときも。
奴隷として売られたときも。
鞭で打たれたときも。
誰かに化け物と呼ばれたときも。
彼女は泣かなかった。
泣いても、何も変わらなかったから。
けれど今は、違った。
何かが変わってしまった。
もう、自分をただの化け物だと思って生きていくことはできない。
自分にも、選ぶ権利がある。
生きる場所を。
これからの人生を。
そして、誰のために力を振るうのかを。
ライラは震える声で尋ねた。
「……あなたの、そばにいてもいいの?」
ヴェルシェリアは一瞬だけ目を見開いた。
それから、穏やかに微笑んだ。
「もちろん。あなたが望むのなら」
その日、ライラは初めて、自分の意思で誰かを選んだ。
この人のそばにいたい。
この人の役に立ちたい。
この人が自分にくれたものを、今度は自分の力で守りたい。
それが、ライラの最初の願いだった。
◇
それから数年。
王宮の地下にある秘密の部屋。
ライラは、いつものように壁際に立っていた。
卓上では、北方のニグルム侯爵についての資料が広げられている。
商人が集めた情報。
騎士が調べた軍部の動向。
司祭が教会で聞き取った告解。
それらを前に、王女は静かに指示を出していた。
ライラは、その横顔を見つめた。
黒い髪。
赤い瞳。
隙のない言葉。
そして、時折見せる、ほんのわずかな微笑み。
あの日と変わらない。
けれど、あの日よりもずっと美しく、ずっと強くなった人。
「少女」
不意に名を呼ばれ、ライラは顔を上げた。
「はい、王女」
「侯爵の私兵について、何か分かったことは?」
「屋敷の裏門から、夜ごとに人が出入りしています。武器を運び込んでいる可能性があります」
「そう。引き続き調べてちょうだい。ただし、あなた自身が危険にさらされるようなことはしないで」
「……承知しました」
ライラは一度、言葉を切った。
それから、ほんの少しだけ声を落とした。
「王女も、どうかお気をつけください」
ヴェルシェリアが顔を上げる。
ライラは、いつも通りの無表情だった。
けれど、その指先は服の裾をきゅっと握っていた。
「私は、あなたを守りたいのです」
部屋が静まり返った。
ヴェルシェリアは、しばらくライラを見つめていた。
やがて、その表情が柔らかくなる。
「ありがとう、ライラ」
ただ、それだけだった。
大げさな称賛も、特別な褒美もない。
けれど、ライラにとっては、それで十分だった。
彼女はもう、誰かに所有されるために生きてはいない。
命令されたから従うのでもない。
恐れられないために、力を隠すのでもない。
自分の意思で、ここにいる。
自分の意思で、この人を守りたいと思っている。
それが、彼女の居場所だった。
◇
会合が終わったあと。
ライラはひとり、地下の廊下を歩いていた。
壁に掛けられた燭台の火が、揺れている。
ふと、彼女は自分の手を見つめた。
大きくもない、少女の手。
けれど、この手は鎖を振るい、人を殺した。
かつては、その力を恐れていた。
誰かを傷つけてしまうことが怖かった。
自分が化け物なのだと、信じていた。
今も、その力が恐ろしいものであることに変わりはない。
けれど、この力で、守れるものがある。
この力で、あの人の隣に立てる。
だから、ライラはもう自分の力を憎まなかった。
彼女は歩みを止め、壁に刻まれた黒百合の紋章を見上げた。
黒い花弁。
鋭い葉。
美しく、静かで、毒を宿した花。
その花の下に、自分の居場所がある。
ライラは、そっと手を伸ばした。
紋章に触れることはできなかった。
けれど、その指先は確かに、そこにある花をなぞっていた。
「……私は、あなたのものではありません」
小さく呟く。
それから、ほんのわずかに微笑んだ。
「でも、私は自分の意思で、あなたのそばにいます」
それは、誰に聞かせるためでもない誓いだった。
王女に救われたから、従うのではない。
恩を返さなければならないから、尽くすのでもない。
自分がそうしたいから。
自分の意思で、彼女を選んだから。
ライラは再び歩き出した。
黒百合の少女は、もう鎖に繋がれてはいない。
それでも、あの夜に握りしめた鎖を忘れることはないだろう。
あれは彼女を縛った鎖であり。
同時に、彼女が自分自身を取り戻すために振るった武器でもあったのだから。
そして今、彼女が守ると決めた人のために、再び鎖を振るう夜が訪れようとしていた。




