表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/103

第99話 帰還の報告

 エルダリアのギルドに顔を出したのは、戻った翌日の朝だった。


 受付のミーナが、ライトたちを見て目を丸くした。


「お帰りなさい! 随分長かったですね」


「色々あった」ライトは苦笑した。「報告をしたい。受付担当はミーナさんで大丈夫ですか」


「はい、もちろん。こちらへどうぞ」


 奥の小部屋に案内された。砂漠での調査報告——ダラント遺跡の封印が自然消滅し、危険性がなくなったこと。《滅びの原》については、魔力の乱流が落ち着き、立ち入り禁止区域の解除を検討してもいいかもしれないこと。


 アルティアのことは、話さなかった。


「素晴らしい成果ですね」ミーナが報告書に書き込みながら言った。「特に《滅びの原》については、上に上げる必要がありそうです。ギルド長がお話ししたいと言うかもしれませんが」


「構いません」


「……ライトさん、少し変わりましたね」


 ミーナが唐突に言った。ライトは首を傾げた。


「そうですか」


「なんというか——前より落ち着いた印象を受けます。旅で何かあったんですか?」


「色々あった」ライトは繰り返した。「でも——いい旅でした」


 ミーナが少し微笑んだ。「それは良かったです」

 報告を終えて外に出ると、セイラが待っていた。


「どうだった?」


「問題ない。ギルド長が話を聞きたいらしいが、それは後でいい」


「ギルド長? 偉い人が出てくるの?」


「《滅びの原》の話を上げるらしい。まあ、隠す必要もないし」


 セイラが「大変だね」と言ってから、「でも、ライトならうまくやるよ」と続けた。


 その言葉に、ライトは少し笑った。「買いかぶりすぎだ」


「買いかぶりじゃないよ。実績がある」


 二人でギルドの前を歩きながら、昼食の話になった。エルダリアに戻ってきて何が食べたいか——セイラは迷わず「肉料理」と言い、ライトは「野菜が食べたい」と言い、二人の意見が分かれた。


 最終的に、両方頼めそうな店に落ち着いた。


 昼食を食べながら、セイラがふと言った。


「砂漠から戻って、エルダリアって改めて住みやすいな、と思った」


「そうだな」


「ライトは——ここが好きになれた?」


 問いかけに、ライトは少し考えた。


 最初にエルダリアに来た時は、ただ生き延びるためだった。仲間も居場所も何もなかった。それが今は——帰る場所という感覚がある。


「好きだと思う」ライトは素直に答えた。「最初はそう思えなかったけど」


「そっか」セイラが嬉しそうに笑った。「私も好き、ここ」

 午後、ギルド長に呼ばれた。


 ギルド長のヴィクトルは、五十代の恰幅のいい男だった。豪快そうな見た目に反して、話し方は穏やかで丁寧だ。


「砂漠からの報告、受け取った」ヴィクトルが言った。「《滅びの原》の魔力乱流が収まった、というのは確かか」


「はい。現地で確認しました」


「どうやって? あそこには普通入れないはずだが」


 ライトは少し考えてから、「特殊な方法で中に入りました。魔力の乱流の原因となっていたものが解消されたので、乱流も収まったと判断しています」と答えた。


「原因が解消……」ヴィクトルが目を細めた。「それ以上は、聞かない方がいいか」


「できれば」


 ヴィクトルが少し間を置いてから、「わかった」と言った。「お前さんがそう言うなら、信用しよう。ただし——もし後で何か問題が出た場合は、もう一度話を聞かせてくれ」


「もちろんです」


「それと」ヴィクトルが立ち上がり、引き出しから何かを取り出した。「これは、ランク昇格の通知だ。今回の功績を評価して、ギルドとして正式に認定する」


 差し出されたのは、新しいギルドカードだった。ランクの刻印が——Bになっていた。


「Bランクですか」


「まだ若いのに大したものだ」ヴィクトルが笑った。「これからも期待している」

 ライトはギルドカードを受け取った。手の中で、Bランクの刻印が光を反射した。


 Fランクから始まった。ただ生き延びるために。それが今は——Bランク。


「ありがとうございます」


「礼はいい。その代わり、死ぬなよ」


 ヴィクトルが豪快に笑った。ライトも、思わず笑った。


 ギルドを出ると、待っていたセイラとナディアとレインに報告した。


「Bランクになった」


 セイラが目を丸くした。「え、一気に?」


「ギルド長の裁量らしい」


「すごい……」ナディアが静かに言った。「Bランクは、一流冒険者の証だわ」


「レインは?」ライトが聞くと、レインが無言でギルドカードを出した。同じくBランクの刻印があった。


「お前も?」


「同じ功績だ。同じ扱いを受けた」


 セイラが「私はCランクのまま悔しい!」と言って笑い、ナディアが「私もよ」と苦笑した。


「次の旅でまた功績を積めばいい」とライトは言った。


「次の旅、か」セイラが少し遠い目をした。「また行くの?」


「多分」


「どこへ?」


「まだわからない」ライトは正直に答えた。「でも——また何か面白いことがあると思う」


 セイラが「それは確かだね」と笑った。

 夕方、四人でいつもの酒場に顔を出した。


 店主のおやじが「久しぶりだな」と言って、頼まなくてもいつもの席を用意してくれた。馴染みの場所だ、とライトは思った。こういう場所ができたのは、いつからだろう。


 料理が来て、飲み物が来て、他愛もない話が始まった。


 砂漠での出来事を振り返り、笑えるエピソードを笑い、しんみりする話はしんみりと聞いた。アルティアのことは、ここでも詳しくは話さなかった。でも「すごい人に会った」とだけ言うと、セイラが「本当にすごい人だったよ」と頷いた。


 夜が深まっていく。


 レインが早めに「先に戻る」と言って立ち上がった。多くは語らないが、疲れているのだろう。


「ゆっくり休んでくれ」とライトが言うと、レインは短く頷いて出ていった。


 残ったナディアが、ライトに言った。


「ライト、一つ聞いていい?」


「何ですか」


「砂漠の旅で——《無限の器》のことを知った。お前は、怖くないか。自分の力の正体が、まだわからないことが」


 ライトはグラスを手で包みながら考えた。


「怖くはない」やがて答えた。「ただ——わからないことがあるということは、まだ知れることがあるということだ。それは悪くない」


「前向きね」


「そうでもない。ただ——今の自分には、考えすぎても仕方ないことがある、とわかってきた」


 ナディアが「なるほど」と静かに言った。

 ナディアも間もなく帰り、最後にセイラとライトの二人が残った。


 酒場の喧噪が遠くなっていく。深い時間になると、常連たちも少しずつ減っていく。


「ライト」セイラが言った。


「なに?」


「砂漠から帰ってきて——何か変わった? 自分の中で」


 ライトはしばらく考えた。


「変わったというより……はっきりした、という感じかな」


「何が?」


「俺がやりたいことが何か。どう動きたいか」


「それって——」セイラが少し前のめりになった。「聞いていい?」


「力を持っているから、誰かを助けるんじゃない」ライトはゆっくりと言葉を選んだ。「誰かが困っているから助けたい。それが先にある。力はその手段でしかない。そういうことが——旅の中でより確かになった気がする」


 セイラが黙って聞いていた。


「大げさに聞こえるかもしれないけど」


「大げさじゃないよ」セイラが静かに言った。「それが、ライトらしいと思う」


 二人はしばらく黙っていた。酒場の灯りが揺れる。


「ありがとう、セイラ」


「何が?」


「一緒にいてくれて」


 セイラが一瞬止まって、それからふっと笑った。


「こっちのセリフだよ」


 エルダリアの夜が、静かに更けていった。次の旅はまだ遠い。でも——確実に、そこへ向かっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ