2章9話「そいつじゃなくて俺と過ごしてよ」
「宇美、大事な話があるんだけど」
涼介くんの前で泣いちゃったあの日からしばらくして、私は昼休みに涼介くんから呼び出された。いつもは帰りに公園でおしゃべりするのに、どうしたんだろう。
「涼介くん、なしたの?」
「今日を最後に、憲一くんと会わないで」
言葉の意味がわからなくてポカンとしているうちに、校庭でカラスとウミネコが喧嘩してた。激しい鳴き声が聞こえる。
「急に、どうして」
「たとえ友達からでも、俺と宇美は付き合ってるべ?」
「うん……」
「したら、そいつじゃなくて俺と過ごしてよ」
「⋯⋯付き合ってたらさ」
私は遠くのカラスとウミネコを見ながら尋ねる。
「ケンちゃんと会っちゃいけない理由になるの?」
涼介くんは私の顔をぐっと引いて自分に向けさせた。
「違う。お願いしてるだけ」
真剣な眼差しだ。瞳の奥で、助けを求めるみたいに何かが揺れている。
「憲一くんと会うなら、もう宇美とは別れるよ」
ケンちゃんのキラキラした瞳とも、なっちゃんの燃えるような瞳とも違う。
「どうするか、宇美が決めて」
特別じゃない、私と同じ目。
それなら私たちは、平凡同士お似合いかもしれない。私がケンちゃんと会う習慣をやめれば、なっちゃんはもっともっと遠慮しなくて済むだろうし。きっとこれは、皆にとって良いことに違いない。
「わかった。ケンちゃんと会うの、やめるね」
視界の隅で、ウミネコが飛び去った。どうやらカラスが勝ったみたいだ。
「……え? マジで言ってんの?」
「うん。涼介くんが選べって言ったんでしょや」
「そうだけど……ヤベぇ! なまら嬉しい!」
涼介くんが大げさに喜んで、ぎこちなく私の手を握る。大きな手は、心なしか汗でしっとりしてた。
「憲一くんをとると思ってたからさ……嬉しいよ」
「ううん、涼介くんの言う通りだった」
私も空いた右手を涼介くんの手に重ねる。
「涼介くんと、もっといっぱい過ごさないとね」
「宇美……!」
「ケンちゃんと違って、出会ったばかりなんだから」
「宇美……」
私はできる限り希望を込めて言ったつもりだったけど、涼介くんはちょっとショックを受けた感じで項垂れた。あれ、何か悪いこと言っちゃったかな。
「これから色々、涼介くんのこと教えてね」
「おう! 改めて、これからよろしく!」
涼介くんが教室の方へ戻って行ってから、私はひとり校庭の土手へ向かった。
大きな木のそばを見てみると、傷だらけのカラスが誇らしげに座ってる。勝ててそんなに嬉しいのかな。
「……さっきは大変だったね」
姿を消したウミネコがどれほど怪我を負ったのか、私には検討もつかなかった。




