2章8話「なんでそいつと付き合わなかったの?」
涼介くんと帰るようになって、もう3日目。
帰るって言っても、家の方向がまったく違うから近くの公園でおしゃべりするだけなんだけど。
「もう俺の話は散々したから、宇美の話してよ」
そう言われても話したいこととかないし、どうしよう。焦る私を見かねた涼介くんが話を振ってくれる。
「宇美、いつも早い時間に帰るじゃん? 何の用事?」
「小学校からのお友達とおしゃべりしてるの」
私はケンちゃんを思い出しながら答えた。彼氏ができたって防波堤で言った時も、普段と変わらない態度だったなぁ。やっぱり、私のこと好きだなんてなっちゃんの勘違いだよ。
私に彼氏ができたから、なっちゃんはもう遠慮しなくて済むはずだ。モテモテのなっちゃんが本気を出したら、ケンちゃんもコロッと落ちちゃうかも。
「家の近くの防波堤でお話するのが日課なんだ」
「だからいつも急いで帰ってたの?」
「うん。帰りが遅いと話す時間がなくなっちゃうから」
「……彼氏できたってこと、その子は知ってる?」
「知ってるよ。どんな人かも話してあるし」
「彼氏がいたら、女友達は時間を譲るはずなのに……」
涼介くんは、お兄さんから聞いた知識を常識だと思い込んでいるみたい。ことあるごとに、色んな偏った情報を話してくる。
それはそうと、根本から違うところを訂正しなきゃ。
「女友達じゃないよ。ケンちゃんっていう男の子」
「えぇっ!? お、男!?」
「小学校の時、東京から引っ越してきたの」
「東京!? 東京の男!?」
涼介くんの顔が、青くなったり赤くなったり忙しくしてた。人の顔って、こんなに色が変わるものなんだ。
「札幌に住んでる兄ちゃんよりすげぇや……」
「お兄さん、一人暮らししてるって言ってたもんね」
「札幌で一人暮らしより、東京出身の方が強ぇわ」
何が強いのか、私にはよくわからない。でも、涼介くんはあからさまにしょぼーんとする。
「宇美、そいつのこと好きじゃん」
「え?」
「ぜっったい好きっしょ。会って話すのが日課とか」
「ううん、ケンちゃんはそういうのじゃなくて」
「じゃあ何?」
「何って、言われても……」
「なんでそいつと付き合わなかったの?」
またその話だ。好きとか付き合うとか、どうしてケンちゃんと私がそういうことになるの? 付き合わなかったら変なの? 好きじゃないといけないの?
ケンちゃんは、私のことなんとも思ってないのに。
「⋯⋯私だって」
こんなこと涼介くんにぶつけるつもりはなかったけど、
「私だって、わかんないよぉ……っ」
気づいたらポタポタって涙が落ちてた。視界がぼんやり歪んで、何も見えなくなる。息が上手にできない。
「ご、ごめん! 泣かせるつもりじゃなかった」
シャツの裾で涙を拭いてくれる涼介くん。ケンちゃんと違ってハンカチもティッシュも持ってない。でも、落ちる涙はすべて受け止めてくれる。
「ごめんな、ごめん、宇美⋯⋯」
それから私が泣き止むまで、涼介くんはシャツを汚し続けてくれた。すごく強引な人って思ってたけど、いつも必死なだけで、ほんとは優しい人だった。




