2章6話「良かったじゃん」
4月の4週目。そろそろ部活を決めなきゃって時。
今日はどの部活に行こうかってなっちゃんと話してたら、クラスの坂下くんに呼び出された。
なんだろうって思ったら、告白だった。私はびっくりして何も言えなくて、何も答えられないままなっちゃんの元へ戻ってきた。
「坂下、なんだって?」
「……告白された」
「告白ぅ? 脈もないのによくやるわ」
呆れた顔でお弁当の卵焼きを食べるなっちゃんが、急に何か思いついた顔をする。
「吉野に話してみなよ」
「ケンちゃんに!?」
「それなら吉野も流れで告りやすいしょや」
あのケンちゃんから、告白? 信じられない。でもこの前なっちゃんが言った通りの反応をしてたし、またその通りになるのかな。
そうなったら、私とケンちゃんは付き合うことになっちゃうんだ。想像つかないけど。
「……なっちゃんは、その方が良いんだよね」
「なんべん同じこと言わせんのさ」
「……わかった。今日、ケンちゃんに話してみる」
なんて流れで、ケンちゃんに告白されたことを伝えることに決めたんだけど。
いざ防波堤でケンちゃんと会うと、なかなか切り出せない。すごく恥ずかしいし、ちょっと怖かった。
「ケンちゃん。あのさ」
「うん。どうしたの?」
「今日さ……」
私はケンちゃんの顔が見れなくなって、膝を抱えて俯いた。どうしよう。ケンちゃんと付き合うことになったら。何か変わっちゃうのかな?
「今日、学校でさ……」
でも、言わなきゃ。なっちゃんはきっと、もっと怖い思いをたくさんしてきたんだから。
「……告白、された」
ケンちゃん、なんて言うんだろう。ドキドキしながら待ってたら、返ってきたのは素っ気ない言葉だった。
「良かったじゃん」
なっちゃん、話が違うよ。ケンちゃんは私が告白されても、なんとも思ってない。止めてもくれないよ。
「で、誰にされたの? 僕の知ってる人?」
「高校のクラスメイトだから、知らない人」
「そっか」
ケンちゃんは私から顔を背けてしまった。
でも、なっちゃんの予想が外れたって決めつけるのは早いかもしれない。私がもう少し、ムードを作らなきゃいけないのかも。
「ねえケンちゃん。私、どうしたらいいと思う?」
これなら、ケンちゃんは流れで告白してくれるかな。なっちゃんが言ったみたいに。そんな期待をしたけど、ケンちゃんは冷たく言った。
「どうして僕に聞くの。自分で考えないとダメだよ」
「――なして止めてくれないの……」
思わず、口から醜いセリフが溢れる。でもその瞬間、大きな波の音が辺りに響いた。私の声をかき消してくれたようだ。ケンちゃんに聞かれなくて良かった。
波の音のあと、私たちはお互いに黙っていた。
そっか。ケンちゃん、私のこと好きじゃないんだ。告白がどうとか両思いがどうとか、全部なっちゃんの勘違い。
「今日はもう帰るね」
「そう? じゃあ僕も帰るよ」
「また明日」
「うん、また明日」
お別れを言ったあと、最近の習慣でケンちゃんの背中を覗き見した。今日は綺麗な物がなんにも見えない。
私ももう帰ろう。そう思った時。
「えっ、うみちゃん? 何してるの!」
ケンちゃんが振り返ったんだ。今日に限って。
「ケンちゃんこそ、なしたの!」
今日はケンちゃんの顔、見たくなかったなぁ。
「……ケンちゃん、いつもは振り向かないくせに!」
そのあとのことは、あんまり覚えてない。記憶に残ってるのは、この日の空に星ひとつなかったことだけ。
少しずつケンちゃんの特別な瞳に近づいてたつもりだったけど、もうなんにも見えなくなってしまった。




