2章4話「いるように見える?」
高校生活にも慣れ始めた、4月の2週目。
今日は、なっちゃんと一緒にテニス部を見学する約束の日だ。
「あの子、なんま上手いなぁ」
「経験者だべ、たぶん」
昔から運動神経の良いなっちゃんは、先輩から誘われた練習試合でさっそく実力を発揮する。周りの女の子たちが、なっちゃんに憧れの眼差しを向けてた。
「あいつ見てみろよ。すげえなぁ」
「しかもけっこう可愛くね?」
奥にいる男子たちからも噂されてるのが聞こえる。なっちゃんは昔からモテるんだ。優しくて面倒見が良いし、可愛いし、スタイルも良いから。
「宇美、勝ったよ!」
相手の先輩をボロボロに負かしたなっちゃんが、私に駆け寄って来た。
「さすがだね、なっちゃんは」
「体力なら自信あるかんね!」
なっちゃんのふわふわの髪が、汗に濡れて胸のところにまっすぐ落ちていた。いつの間にか、こんなに伸びたんだ。
「髪、こんなに伸びてる」
驚いている私を見て、なっちゃんが自分の髪の毛に目をやる。それから納得したように笑って、毛先を持ち上げた。
「普段は巻かさっててわからないしょ。天パだから」
「どっちも似合うよ。ふわふわも、まっすぐも」
「ありがと。したら、そろそろ帰ろっか」
なっちゃんはタオルで頭を拭きながら歩き出す。運動着の裾から健康的なお腹がチラリと見えて、男子のほっぺが赤くなってるのがわかった。
「俺、話しかけてみようかな……」
「バカ、彼氏いるに決まってるべや」
本当に、昔からモテるけど、誰とも付き合わない。なっちゃんが幸せになるには、どうしたらいいんだろう。
「宇美、置いてくよー!」
ぼーっと考えてると、船の汽笛みたいによく響く声がする。私は慌ててなっちゃんを追いかけた。
「なっちゃんは、高校で気になる人とかいないの?」
帰り道、なっちゃんと自転車に乗りながら尋ねてみる。赤い自転車はスピードを落として私に近づいた。
「いるように見える?」
ニッと持ち上げられた口角に心臓が大きく脈打つ。
「でも、できたら良いな。高校で」
「そう……だね」
「吉野には、高校でそういう人ができないと良いね」
「ケンちゃんに?」
「おや、あっちの高校の女には負けないと思ってる?」
「そういうわけじゃ、」
「吉野に聞いてみたら良いしょや」
きっと言うよ、いや全然って。あいつは宇美しか見えてないんだからさ。なんて言って、なっちゃんが笑った。
ああ、そっか。私たちが付き合うことで、なっちゃんは諦めたいんだ。
今度ケンちゃんに聞いてみるねって言って、私も一生懸命ペダルを漕いだ。前に進んでみたくて。
章の設定というものを見つけました!
これまでは第二章一話のエピソードタイトルに章タイトルをつけていたのですが、章の設定に伴いエピソードタイトルの番号を振り直してあります。
混乱を招いてしまったら申し訳ございません⋯⋯!
いつもお付き合いくださり心より感謝申し上げます。




