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海の音が聞こえる  作者: 渡白 斐陽
星も積もれば宙になる
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19/28

2章3話「また明日」




 高校生活が始まってから、4回目の防波堤。


 今日もなっちゃんに送り出されて、私はここへやってきた。ケンちゃんはまだ来てないみたい。


パパとママに買ってもらったお気に入りの自転車をコンクリートのそばに停めて、いつもの場所に座る。ケンちゃんがいなくても、お互いの座る場所が自然とわかるから。


 ケンちゃんは、バスじゃないと行けないような遠くの高校に通ってる。だからなっちゃんとお話しながらゆっくり帰ると、だいたいちょうどいい。


「うみちゃん!」


 やっぱり、そんなに待たないうちにケンちゃんが現れた。重そうな黒いリュックを上下に揺らしながら、まっすぐ私のところへ向かってくる。


 家の近くのバス停からここまで、全力でダッシュして来たんだと思う。黒縁のメガネがちょっとずれてた。


「そんなに急がなくていいのに」


「うみちゃんを待たせるわけにはいかないよ」


 息苦しそうなケンちゃんが、私の隣に座る。


「はあ……潮風が気持ち良い」


 ケンちゃんがにこやかに海を見る。ほら、また。私には見えない世界を楽しんでいるみたい。


 置いていかれたくなくて、私は今日のお話を始めた。


「私の高校でさ、部活見学が始まるんだ」


「そうなんだ、楽しみだね」


「帰りが遅くなるから、もう走らなくて大丈夫だよ」


「わかった、気遣ってくれてありがとう」


「ケンちゃんは? 部活とかどうするの?」


「僕は入らないよ。通うだけで時間かかるし」


「そっか。朝も早く出てるもんね」


「うみちゃんは、部活やるつもり?」


「まだ悩んでる。入るとしたら、何がいいと思う?」


「うーん。うみちゃんに合いそうな部活かぁ」


 ケンちゃんは波の様子を眺めながら、じっくり考えてくれる。なんて言われるんだろう。私が小学生の時ミニバスをやってたのは知ってるし、バスケ部かな?


「うみちゃんに似合うのは……」


「私に似合うのは?」


「茶道部かな」


 意外な回答に、私は首を傾げてケンちゃんの顔を覗き込む。どうしてそんなマイナーな部活なんだろう?


「うみちゃん、茶道部はお菓子が出るんだよ」


「えっ、お菓子?」


「うん。好きでしょ?」


「好きだけど、バスケ部って言われると思った」


「うみちゃん中学の時、バスケ部に入ってなかったし」


 ケンちゃんの言う通り、私は中学のころ部活には入らなかった。私の家はケーキ屋さんで、平日の夜と休みの日はお手伝いがあるから。


「バスケ部だと、お店の手伝いも難しくなるかなって」


 いつも、そう。ケンちゃんは私の周りにある全部のことを大事にしてくれる。私の好きなこと、嫌いなこと、やらなきゃいけないこと、やっちゃいけないこと。


 そんなケンちゃんといると、私も少しだけ同じ世界が見えるかもって思った。海に星の映る世界が。


「ありがとう、ケンちゃん」


「なにが?」


 ケンちゃんは私のお礼の意味がわかっていないみたいだった。だけど、それで良い。私だってこの気持ちに名前はつけられないんだから。


「全部が、だよ!」


 この時間のケンちゃんは、夕日が背中から当たっていて眩しい。それでも私は、精一杯ケンちゃんの方を向いて笑った。


「ぜん、ぶ……」


「うん。いつもありがとうね」


「そんな、こちらこそ」


 ケンちゃんは次の言葉を探してるみたいに、視線をキョロキョロと動かす。何か言いたいことがありそうだけど、もう夕日が落ちそうだ。


「もうこんな時間だ。帰らなきゃ」


「あっ、ほんとだ……」


「また明日ね、ケンちゃん」


「うん、うみちゃん。また明日」


 バイバイした後、ケンちゃんと同じ景色が見たくて振り返ってみた。黒いリュックを背負った背中が、夕日に縁取られてほんのり赤くなってる。どこか照れてるみたいで、私もつられて照れてしまった。




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― 新着の感想 ―
こんな...ええやつおらんやんけ...好きやんけ絶対!!!!!! うおおおおおん わからずや!!!!! もどかしすぎ....
甘酸っぱ〜い!!!⋮(งˋ͈ᵔˊ͈ⱴ)⋮クゥー! 夕日になってこの2人を照らしてあげたい人生でした…!
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