1章2話「⋯⋯告白、された」
僕たちは毎日、同じ場所でおしゃべりを続けていた。
だけど今日は、うみちゃんの様子がいつもと違う気がする。なんだかソワソワしているのだ。何があったのか、中学までならだいたい予想がついたのに。
「ケンちゃん。あのさ」
「うん。どうしたの?」
「今日さ……」
膝を抱えるうみちゃん。そのまま黙り込んでしまったが、急かすのはやめておいた。
心なしか、波にも落ち着きがない。ぽつりと浮かぶ小さな流木が、手前に来たり奥に行ったり、忙しなくコロコロしていた。
「今日、学校でさ……」
うみちゃんは膝を抱えて頭を下げたまま、意を決したように声を出す。
「……告白、された」
予想外の言葉に僕は固まった。告白ってことは、好きって言われたんだよな。誰からだろう。頭の中は聞きたいことでいっぱいなのに、なんだかどれも声にならない。
「良かったじゃん」
やっと口をついたのがこれだ。まったく良くない。何ひとつ良いことなんてない。だって僕は昔からうみちゃんのことが好きなんだから。
一度も好意をはっきり伝えられたことはなくて、ほんのりぼかしたまま9年も経っちゃったけど。まさか誰かに先を越される日が来るなんて思ってもみなかった。
「で、誰にされたの? 僕の知ってる人?」
「高校のクラスメイトだから、知らない人」
ふうん、じゃあ出会って1か月も経ってない相手か。うみちゃんはきっとそんな奴とは付き合わないはずだと思って、僕はちょっと落ち着きを取り戻す。
「そっか」
声に嬉しさが漏れていないだろうか。安心したことがうみちゃんにバレていないかな。そんなことが心配で、うみちゃんから顔を逸らした。
右側に視線を向けると、さっきの流木が砂浜に流れ着いているのが目に入った。波はどこかモジモジとしているような、控えめな様子だ。
「ねえケンちゃん。私、どうしたらいいと思う?」
彼女からの相談に、僕は素直な回答ができなかった。
「どうして僕に聞くの。自分で考えないとダメだよ」
うみちゃんの前だとつい大人ぶってしまう。本当は言ってやりたいのに。そいつよりも僕の方が、ずっと前からうみちゃんのこと好きだよって。
考えたセリフに我ながら恥ずかしくなっていると、不意に波の荒ぶる音が辺りに響いた。ザザン、と大きな波が、他の音を飲み込む。
「――……」
うみちゃんはその後、黙ったままだった。もしかしたら波の音の間に何か言っていたのかもしれない。けど、言い直されることはなかった。
「今日はもう帰るね」
「そう? じゃあ僕も帰るよ」
「また明日」
「うん、また明日」
なんだか釈然としないまま、僕たちは別れた。
バイバイしたら、背中を向けてまっすぐ家に向かっていくのがいつもだけど、今日は、なんとなく振り返って止まってみた。本当に、ただの気まぐれだった。
「えっ、うみちゃん? 何してるの!」
家の方を向いているはずのうみちゃんは、僕をまっすぐ見て立っていた。
「ケンちゃんこそ、なしたの!」
また大きな波の音がした。どこか苛立っているような、悲しんでいるような、落ち着きのない波だった。
「……ケンちゃん、いつもは振り向かないくせに!」
うみちゃんの表情は、メガネをかけていても見えないくらい遠い。今どんな顔をしているんだろう。声が震えて聞こえるのは、潮風のせいだろうか。
「学校で何かあったら、また相談してね!」
「……バイバイ!」
僕の当たり障りない言葉に、うみちゃんは大きく手を振って返した。僕も手を振って、今度こそ振り返らずに帰った。
この時の僕はバカだ。どうして僕がいつも振り向かないこと知ってるのか、ちゃんと考えれば良かった。相談された時、素直に自分の気持ちを言えてたら良かったんだ。
次の日、うみちゃんはいつもの場所で僕に言った。彼氏ができたって。




