1章1話「気になる女の子とか、いる?」
2020年8月執筆の作品です。
魔法のiらんど大賞「青春小説部門」に応募しようと思っていたのですが、途中で病気にかかってしまい日の目を見ることがありませんでした。
四章構成で、現在三章後半まで執筆完了しております。
こうして自分の作品を見ていただけることがとても嬉しいです!
よろしければ最後までお付き合いくださいませ。
太平洋を一望できる、防波堤の上。僕らの定位置。
上、と言っても道路からの高さはほとんどなく、座るのにちょうどいい位置だ。足元にはテトラポッドがいくつも重なっていて、目を凝らすと俊敏に動き回るフナムシが見える。
右側にはコンクリートの階段があり、昆布の散らばる砂浜へいつでも降りることができた。まあ、あまり綺麗ではないから滅多に降りないけど。
後ろの道路を通る車はほとんどいない。響く音といえば波の音と、遠くの船の汽笛だけ。東京から引っ越してきた僕にとっては静かすぎる世界だ。
このやたら寒いド田舎を好きにさせてくれるのは、たったひとつの賑やかな音。
「ケンちゃん! あのさ、今日はさ、学校でさ……」
潮騒の中、浜育ちのおしゃべりな声が心地よく響く。
お話好きな彼女は、家が近所にある唯一の同級生だ。学校がある日は必ず、ここで一頻りしゃべってから家に帰っていた。
彼女はいつも、今日あったことを僕に話してくれる。
体育のバスケで10点も取れたこと、国語の授業で寝てしまったこと、晩ご飯がハンバーグで楽しみなこと。
「今日もお話ありがとう。そろそろ帰る時間だよ」
話していると、あっという間に時間が過ぎてしまう。気づけば右側に真っ赤なりんごのような太陽が落ちてきていた。
「帰る前に、しっかりズボン払ってね」
「また怒られたら、わやだもんね!」
僕たちは立ち上がってお尻を払った。母さんに怒られてから、帰る前にお互い確認し合うよう決めたのだ。
ズボンが汚れていないことを確かめてから、防波堤を降りて彼女と向かい合う。
バイバイする前のこの時間は何度やっても恥ずかしくて、寂しいような嬉しいような、変な感じだった。
「したっけ、また明日ね! ケンちゃん!」
「また明日ね、うみちゃん」
ニコッと笑って手を振る彼女。その顔は、僕が背負った夕日に照らされてキラキラと輝いていた。
まるで、宝箱のような笑顔。中の宝石は、今日してくれた色々なお話だ。嬉しいことも悲しいことも、すべてが愛おしく煌めく。
僕は彼女と過ごす時間が大好きだった。
うみちゃんは、まさに名が体を表している人だ。引いては満ちる潮のように、寄せては返す波のように、表情がサラサラと変わっていく様子は見ていて飽きない。
僕たちはつい最近高校生になったけど、うみちゃんは小学生の頃と変わらないままだった。
「うみちゃん、高校は楽しい?」
「うん! なっちゃんと同じクラスだし、楽しいよ」
「昔から仲良いもんね。良かったね」
春の大波を黙らせるような、屈託のない笑顔を見せるうみちゃん。高校も楽しそうで安心した。
彼女が通う高校は同じ中学出身の奴も多いし、それでなくともうみちゃんならすぐ友達に囲まれることはわかっていたけど。
それから、今日あったことを色々と聞いた。お昼の時にクラスの女子と話した内容とか、部活を見学した話とか、どれも楽しい話題ばかりだ。
唯一うみちゃんが不満そうだったのは5時間目の話。数学の授業でいきなり当てられて、答えられなかったらしい。その話をしたうみちゃんの顔がちょっといじけているようで、最高に可愛かった。
話していると、あっという間に日が落ちる。いつの間にか、太陽の代わりに月が顔を出し始めていた。
中学生までは夕日が落ちる頃に帰っていたけど、最近は暗くなってから家に帰っている。僕の高校が遠いのと、うみちゃんの下校が遅いためだ。
そろそろ帰ろうか、と立ち上がって制服のズボンを軽く払う。汚れを確認する習慣は中学くらいからなくなったので、そのまま防波堤を降りた。
「ケンちゃん、クラスに気になる女の子とか、いる?」
最後に何の話かと思えば、うみちゃんは謎なことを聞いてきた。意図がわからず、僕は黒縁のメガネに指をあてながら困惑を抑える。
「いや、全然。なんで?」
「ううん! したっけ、また明日ね!」
詳しい理由も聞かされないまま、嬉しそうなうみちゃんに手を振られた。もやもやしながら、つられて僕も手を振る。
変なうみちゃんだな。
互いに背を向け、家に向かって歩き出す。ふと視界の左側に目をやると、波穂はどこか安心した様子を見せていた。




