1章13話「あんまりこっち見ないでほしい⋯⋯」
翌日、まず僕はうみちゃんに改めて宣言した。
「今日から、好きになってもらえるよう頑張ります」
「よ、よろしくお願いします……」
うみちゃんはちょっと困惑している様子だった。そりゃ、無理もない。好きでもない友人から言い寄られているのだから。
だから僕は、最初にうみちゃんの不安を取り除くべきだと思っていた。言うことはちゃんと用意してある。
「とはいえ、うみちゃんの嫌がることはしないから」
波の様子ではなく、うみちゃんの顔を見て言う。僕は今更になって気づいたんだ。恥ずかしがらずに、顔を見ていないとダメなんだって。
「だから、嫌だと思ったら遠慮せず言ってね」
「……じゃ、じゃあ、言っても良い?」
「もちろん。いつでも何でも言っていいよ」
「あ……あんまりこっち見ないでほしい……」
いきなり銃で撃たれたような衝撃が走り、僕は思わず意識を失いそうになる。ちょっと涙が出てきたかもしれない。
「ごめんね……ちなみに、理由を教えてもらえる?」
「メガネじゃないケンちゃん、恥ずかしい……」
うみちゃんの言葉にハッとする。そういえば、河口はうみちゃんが僕のコンタクト姿に照れていたと教えてくれた。
「ケンちゃん、なんでコンタクトにしたの?」
「メガネを壊しちゃって……前の方が良い?」
「ううん……そんなことない」
自分が思っていたよりも好感触のようだ。僕は少し希望を持てた。壊れたメガネへの感謝が募る。
「今日は、うみちゃんの好きなタイプを聞きたいんだ」
「私の?」
「うん。優しい人とか、面白い人とか……」
「特にないなぁ」
この話に関して、うみちゃんの理想がないのは想定済みだった。その場合に用意しておいた質問を切り出してみる。
「参考までに、別れた理由を教えてもらえない?」
「前も言った通り、ケンちゃんと向き合うためだよ」
ここまで来てるのに好きじゃないって難しいな。
「それは……ありがとう」
「デートも楽しめなくて申し訳なかったし」
続くうみちゃんの回答は、僕にとって意外だった。楽しくなさそうな彼女をあまり見たことがないから。
「楽しくなかったの?」
「うん、楽しませようと色々してくれたんだけど……」
「結果として、何も楽しくなかったと」
恋敵ながら、さすがに同情する。彼氏はどうやら悪い人ではなかったらしい。色々と頑張った結果、帰りが遅くなっていたのだろう。
「本当に、優しい人だったんだけどね」
「そっか。じゃあ、よっぽど相性が悪かったのかな」
「どうだろうね」
「元カレはどんな人なの?」
「元気な人だよ。おしゃべりが好きみたいだった」
つまり、うみちゃんは元気でおしゃべりなタイプと合わないってことだ。これは重要な情報だ。僕はどちらのタイプでもないから、これも希望が持てる。
「うみちゃんには、話を聞いてくれる人の方がいいね」
「言われてみればそうだね!」
納得の表情を浮かべるうみちゃんに、僕はさり気なくアピールしてみる。
「ぼ、僕はいくらでも聞くよ!」
「うん! いつも聞いてもらってるもんね!」
精一杯の努力には、純粋な笑顔だけが返された。暖簾に腕押しとはこのことだ。まるで手応えがない。
「うん、これからも聞かせてね……」
それから毎日、色々とやってみても効果は見られなかった。
正直、どうすればうみちゃんに好きになってもらえるのかわからない。自信を持てたのはコンタクトのことに関してだけだ。
もっと見た目を変えて、別人みたいに思ってもらうしかないのかな。友達として過ごした期間が長すぎたせいだろうか。
そうやってモダモダしているうちに、約束の日が翌日まで近づいていた。




