1章12話『頑張れ。それから』
お祭りまでは1週間。ぶっちゃけ時間が全然ない。
夏休みといえど、うみちゃんはお店の手伝いで忙しいため土日は空いていなかった。平日も部活とか家のことがあって、いつも通り夕方からしか会えない。
それでも、やるしかないんだ。
僕はひとまず、河口にメッセージを送ることにした。うみちゃんとお祭りに行ってもらうためだ。河口が先に誰かと約束してしまっては、この作戦の意味がない。
でも、なんて送ればいいんだろう。僕は一世一代の告白を実演と言ってしまった男だぞ。謝るのが先か?
今までの河口とのやり取りを考えてみる。河口は僕が勘違いをした時も、無理に否定することはなかった。あえてそのままにしていたのだ。なら、きっと今まで通りに接してほしいはず。
『うみちゃんとお祭りに行ってくれ』
僕はシンプルなメッセージを送った。これで良い。下手に気を遣わない方が良いだろう。
河口からは、1分も経たずに返信が来た。そのまま僕たちは、間隔を空けずにやり取りを続ける。
『宇美から聞いてるべさ。喧嘩してるって』
『うん、仲直りの条件も聞いたよ』
『じゃあ、無理なのわかるっしょ』
『お前が諦めてどうするんだよ。応援してくれたろ』
『どうするつもり?』
『好きになってもらう』
僕の自信満々なメッセージに対する、河口の返答は「爆笑」のスタンプだった。僕と同じで素直じゃない奴だ。本当は応援してくれてる癖に。
『吉野がそこまで言うなら、わかった。行くよ』
『ありがとう。うみちゃんにも伝えておく』
『どやって好きになってもらうの?』
『それはまだ考えてない』
今度は「ため息」のスタンプが送られてきた。このゆるい絵柄に腹が立つ。
『宇美に聞けばいいべさ』
『なんて?』
『どうしたら好きになってくれますか? って』
河口の回答を見た瞬間、ふざけているのかと思った。
でも、よく考えれば最も重要なことかもしれない。うみちゃんがどんな男を好きになるのかわからないし、何をしたらときめいてもらえるのか知る必要がある。
『その通りだな。聞いてみる』
『頑張れ。それから』
一度メッセージが途切れる。そのまま15分ほど、何も送られて来なかった。
僕もお風呂に入ろうかな、と立ち上がった時、河口からやっと続きが届く。
『もう、うちに相談すんなよ』
端的な一言。河口の表情は見えないけど、彼女なりに振り絞った言葉なのだとわかった。
ここからは、僕が自分の力で頑張るところだ。勇気が出ないとか恥ずかしいとか、振られたらどうしようとか。そんなことを言っている暇はない。
何も言えない自分から、変わる時が来たのだ。
『河口』
僕は連続でメッセージを送る。
『こんな僕を好きになってくれてありがとう』
河口からの返信は、来なかった。




