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海の音が聞こえる  作者: 渡白 斐陽
海の音が聞こえる
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11/28

1章11話「幸せになってほしかったの」




 次の日、うみちゃんは昨日より早い時間に現れた。


 表情からも、今日こそは話すぞという気合が感じられる。そんなに覚悟を決めて、何を話すつもりなんだろう。


「昨日はごめんね。今日はちゃんと話すから」


「気にしなくていいよ」


 僕も昨日は聞きたいことが聞けなかったし、時間がかかるのはお互い様だ。ひとまずうみちゃんの話が先だと思って、僕は黙っておいた。


「あのさ、私……」


 波音がサラサラと流れて、うみちゃんの涙を誘う。


 僕はポケットに入れておいたハンカチとティッシュを渡した。ビー玉みたいに綺麗な瞳から落ちる雫を、自分で拭いてあげることはできなかった。


「はい。どうしたの? 大丈夫?」


「ごめん、どう話したらいいか、わかんなくて……」


 僕の手からいつものアイテムを受け取りながら、うみちゃんが思いの丈を紡いだ。


「ゆっくりでいいよ」


「私に、彼氏ができたら……っ」


「うん」


「……なっちゃんが、前に進めると思って」


 何がどうなったらそんな発想になるんだろう。疑問でいっぱいだけど、僕は静かに寄り添い続ける。


「うみちゃんに彼氏ができると、河口が進めるの?」


「……うん」


「どうして?」


「なっちゃんに、告白、されたしょ?」


「いや、あれは実演で――」


 この前のは、ただの実演で。河口は僕を応援してくれていて。色々と協力してくれたり、喝を入れてくれたりしただけ。


 なんだけど、どうしてうみちゃんが知ってるんだ?


「うみちゃん。河口から何を聞いたの?」


「聞かなくても、昔からわかってた」


「……どういうこと?」


「なっちゃん、中学の頃から、本気だったよ」

 遠くに船が見えた。汽笛はもう聞こえなかった。


「河口が本気? まさか」


「ずっと、遠慮してたの」


 うみちゃんはハンカチで涙を拭いて、乱れた呼吸を整える。その間に僕は、これまでの河口を思い出してみた。けど、僕のことが本気で好きだったなんて信じられない。


「でも、私が告白されて……」


 ケンちゃんは止めなかったしょ。なんて、波の恨みがましい音が聞こえた気がした。


「これで、もう遠慮しなくて済むと思ったから」


「それで付き合ったのか……」


「でも、ケンちゃん、なっちゃんと付き合わなかった」


 うみちゃんがティッシュを取り出し、控えめに鼻をかむ。少し落ち着いてきたみたいだ。


「うみちゃんは、僕に河口と付き合ってほしかった?」


「うん、なっちゃんに幸せになってほしかったの」


 僕の幸せはどうなるの、と言いたい気持ちをグッと抑える。僕にはわからない、女同士の友情というものがあるのだろう。 

 うみちゃんと河口は昔から親友みたいな感じだし、二人とも友達思いだからな。僕の気持ちを知っていた河口は、応援することしかできなかったのかもしれない。


「河口とは、その後もちゃんと仲良くできてる?」


「……ううん。そのことで、悩んでるんだ」


 うみちゃんは悲しそうに首を横に振る。


 喧嘩してるのか。あの河口がうみちゃんに怒るところなんて、想像もつかないけど。


「仲直りするには、条件があって」


「条件って何?」


「……ケンちゃんと付き合うこと」


 うみちゃんが僕の目の奥を見据えて言った。これは本気の顔だ。冗談を言ってるんじゃない。


 僕に対する河口なりの激励だろうか。ここまでしてくれるなら、僕がモダモダしてるわけにはいかないな。今度こそ、勘違いされないように、本気で伝えなきゃ。


「わかったよ。うみちゃん、聞いて。僕は――」


「でも私、ケンちゃんのこと……好きかわからなくて」


「僕はうみちゃんが――え?」


 告白する気マンマンだった僕に、うみちゃんのナイフが突き刺さる。昔から、意外と容赦ないんだよな。


「……とりあえず、彼氏とは別れたんだよね?」


「うん。ケンちゃんと向き合いたかったから」


 僕と向き合いたかった? それ、もう僕のことが好きって思っていいんじゃないか? とにかく、これは神様と河口がくれたチャンスに違いない。


 うみちゃんは確か、河口と毎年お祭りに行っていたはずだ。今年も本当は、河口と行きたいだろう。それなら、僕にできることはひとつしかない。


「お祭りの日までに、仲直りしよう」


「でも……どうやって?」


 不安げに首をかしげるうみちゃん。


 絶対になんとかしなきゃ。うみちゃんの不安を解消して、河口と仲直りできるようにして、そして、僕の気持ちも信じてもらうために。


「安心して、うみちゃん」


 僕の口からは、自分でも信じられないほど強気な宣言が飛び出した。


「お祭りまでに、僕を好きにさせてみせるから」




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