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現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない ~家の裏の第零迷宮から世界を攻略する~  作者: HATENA 
第二十二章 最終攻略隊

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第百十一話 六人に戻るまで

 《集団防壁》の三枚目が割れ、黒杭の先が俺の胸当てへ当たった。直人が足した左肩の板ではない。中央だ。


 衝撃で息が止まる。《衝撃分散》を使った。


 押し込まれた力を足元へ逃がす。黒い床へ亀裂が走り、背後の門まで水色の輪が震えた。


 HPが四千百三十から三千九百八十へ、MPは千百二十から千百へ減る。


「押し返すな!」


 神崎さんが叫んだ。


 杭を正面へ返せば、壁の向こうにいる灯さんたちへ戻る。


 俺は右へ身体をずらした。


 神崎さんも防壁を傾ける。


 杭の先が透明な壁を擦り、床へ落ちた。


 デュラハンが斧を持ち上げた。頭がないのに、こちらを見失わない。胸の空窪みへ、水色の輪から細い線が伸びている。


「あの胸の窪みが目です」


 レオンが言った。


「窪みへ入った記録で、位置を見ている」


「石狩を消せば止まるか」


「門も閉じます。それに、《記録固定》がもう切れます」


 《記録固定》の白線は、端から薄くなっていた。


 レオンが樹脂板を重ねる。


「同じ形で残せるか」


「分かりません。だから今度は、十二人で帰った部分だけを残します」


 《記録固定》を使うと、白線が戻った。


 迷宮の構造も、七環クラーケンの姿も薄い。水色の輪へ残ったのは、十二本の線だった。


 デュラハンの胸がこちらへ向き、斧が来た。


 神崎さんは防壁を正面に出さない。


 俺の腰のロープを引き、二人で柱の裏へ回った。


 斧が水色の輪へ落ちた。それでも十二本の線は消えなかった。


「固定した記録は壊せない」


「人の数だけなら記録できます」


 レオンは樹脂板を胸へ抱えた。


 右手首が細かく震える。


 二回。三回。そのあとに間を置いて、何も来ない。


 千紘が通常核の状態を送っている。自立、要支援、それから返らないもの。


 透明な壁の向こうで、千紘が打音器を別の線へ当てた。灯さんは片手でオーガの傷を押さえているが、それでは足りない。


 千紘が横へ入り、布の端を持とうとする。灯さんは首を振り、強く何か言った。


 千紘は一度だけ迷い、布から手を離して返らない線の方へ走る。灯さんは一人でオーガの胸へ体重をかけ直した。


 デュラハンの背中から、二本目の杭が抜ける。


 黒いままではなかった。


 根元だけが灰色に欠け、途中から青い線を巻いている。


 要支援核。


「次は要支援核です。自立核を一つ経由させます」


 レオンも杭の色に気づいていた。


「昨日の推測だろ」


「今も推測です」


 デュラハンが通常側へ杭を投げた。ガルが走り、飛んでくる杭の横へ並んで床を蹴る。


 噛みついても止められない。それでも先端をわずかに下げた。


 杭はオーガではなく、その前の床へ刺さる。衝撃で飛ばされたガルをゴブリン二体が受け止めようとして、一緒に転がった。


 ガルはすぐ立った。一体のゴブリンは腰を押さえたまま、ガルの背中を平手で叩く。怒っているのか、無事を確かめたのか分からない。ガルは振り返らなかった。


「止まってる今のうちに」


 俺は水色の輪へ触れた。


 触れた手の中で、要支援核の線は途中から切れかけ、終端側の黒に縋っていた。直接外せば、そのまま止まる。自立核の水色へ重ねてから、《世界杭干渉》を使った。


 MPが千百から千二十へ減った。


 灰色だった杭の根元に、水色の枝が入る。


 一本では足りない。


 デュラハンが鎖を引いた。


 要支援核が終端側へ戻される。


 右腕まで一緒に引かれた。


 神崎さんのロープが腰へ食い込む。


「大月、離せ!」


「まだ離せません」


「肩が開くぞ!」


 左肩の包帯へ熱いものが広がる。


 それでも、右手は離さない。


 神崎さんは俺を引くのをやめ、代わりに前へ出た。ロープを俺の腰から柱へ回し、自分の安全帯も同じ輪へつなぐ。


「なら二人で持つ」


 神崎さんは黒線へ触れず、俺の身体だけを現在の床へ残す。


 透明壁の向こうで、千紘が太い二回の線を両手でつかんだ。


 ガルとゴブリンが杭を押し、コボルトが別の水色線を運んでくる。


 終端側からでは見えなかった枝が増えた。要支援核の線をその中へ入れると、杭が水色へ変わった。


――――――――――


要支援核系統の相互接続を確認しました。


外部供給:

 世界杭系統 → 通常迷宮固有核網


相互接続記録:2


――――――――――


 右腕の引きが消えた。左肩から出た血が、胸当ての内側へ流れる。HPは減っていないが、まだ傷が広がりきっていないだけかもしれない。


「次に同じことしたら、腕ごと外すぞ」


 神崎さんが言う。


「どっちの右だ」


「お前の右」


「左じゃないのか?」


「使う方を外さないと止まらん」


 神崎さんは笑わず、俺の右腕へ視線を落とした。


 デュラハンが斧を横へ振る。狙いは俺ではなく、透明な壁だった。


 刃が当たると、向こう側の景色が上下へ割れ、千紘たちの足場が離れていく。ガルが跳んだが届かない。


 灯さんとオーガ、魔物の半分が下。千紘と返らない核の線が上。同じ通常迷宮側で二層へ分けられた。


「三つ目を判別させない気です」


 レオンが言う。


 返らない核。音がないのか、死んでいるのか、まだ生まれていないのかも分からない。


 千紘は上層の端へ膝をつき、耳当てを外した。


 両耳で聞く。


「やめろ」


 声は届かない。


 《音界地図》が広がった。


 二度目。


 上層だけではない。


 割れた壁、下層、俺たちの中枢路、その外にある世界中の中継器まで、一瞬だけ同じ震えに入る。


 千紘が耳を押さえた。


 鼻から血が落ちる。


 それでも、返らない線へ手を伸ばした。


 何も聞こえない場所ではなかった。ただ遅い。ほかの核が三回打つ間に、一度だけ返っている。


 壊れているのではない。時間が違う。


 千紘が指を一本立て、ゆっくり倒した。


 右手首へ、長い一回が来る。


「未判別は切らない」


 《係留》を使う。


 返らない線を自立核へつながない。


 終端柱へも渡さない。


 今ある層へ、そのまま留める。


 MPが千二十から九百九十へ減る。


 デュラハンの背中から、三本目の杭が抜けた。


 時間の遅い核へ伸びる。


 届く前に、神崎さんがロープの鉤を投げた。


 杭の中央へ巻きつく。


「引くぞ!」


 レオンが樹脂板を片手へまとめ、ロープをつかむ。


 三人で引いた。


 杭の先が、係留した線の横を通り過ぎる。


 通常側の床へ刺さらず、中枢路へ落ちた。


――――――――――


未判別核系統を終端処理から保留しました。


相互接続記録:3


通常迷宮固有核網の分離手順を記録しました。


――――――――――


 透明な壁が消えた。


 上下へ分かれていた通常側の床も、同じ高さへ戻る。


 千紘が倒れ込む。受け止めたのは灯さんではなく、ガルと一緒に転がったゴブリンだった。背中へ入り、両腕で千紘を支える。


 灯さんはオーガの圧迫を続けている。


 神崎さんが千紘へ向かおうとする。


「先にあれ!」


 千紘がゴブリンの腕の中から叫んだ。


 声が届く。


 壁はもうない。


 デュラハンの胸へ、三本の杭が戻っていく。


 水色、水色と青、色のない透明。三本が空窪みへ入った。


 デュラハンの斧が上がる。


 今度は全員が見えている。


 ガルが左から走った。


 千紘を支えていたゴブリンは、本人を床へ座らせると、落ちた短槍を拾う。


 神崎さんが正面へ防壁を出す。灯さんは動かない。オーガの傷口から手を離せない。


 レオンがデュラハンの胸を指した。


「記録が三つに分かれています!」


 斧が防壁へ当たる。


 神崎さんの膝が落ちた。


 神崎さんの横へ落ちた黒杭へ足をかけ、《空歩》で上へ出た。


 MPが九百九十から九百五十へ減る。


 デュラハンの胸へ降りる。


 円盾が上がり、右から来た。見えない。


 千紘の打音器が一度鳴る。身体を左へ捻ると、盾の縁が胸当てを擦った。


 短槍がデュラハンの膝裏へ刺さる。ゴブリンが両手で柄を押し込み、姿勢を崩した鎧へガルが噛みついて円盾を下へ引いた。


 三つに分かれた胸の記録へ右手を当てる。核ではない。通常迷宮をもう一度、終端の所有物へ戻す命令だけがある。


 《断界》を使い、MPが九百五十から九百二十へ減った。


 切れたのは、三本を束ねる黒い輪だった。水色の杭は通常迷宮側へ落ち、透明な杭だけがその場に残る。


 デュラハンの鎧が、中身を失って崩れた。


――――――――――


世界杭搬送管理個体を停止しました。


通常迷宮固有核路を維持しました。

世界杭中枢路を維持しました。


攻略評価を行います。


大月在真

レベル:55 → 60


最大HP:4,300 → 4,600

最大MP:1,380 → 1,480


未配分能力値:200

スキルポイント:51 → 56


三枝千紘

レベル:40 → 45


最大HP:3,180 → 3,480

最大MP:1,120 → 1,220


未配分能力値:200

スキルポイント:38 → 43


現在HP・MPは回復しません。


――――――――――


 現在HPは三千九百八十。


 MPは九百二十。


 千紘は座ったまま、鼻へ布を当てている。HPは三千百二十、MPは千八十。最大値だけが増えていた。


「千紘、大丈夫か」


「頭が痛い」


「ほかに怪我は?」


「今は声がうるさい」


「誰の声がうるさい?」


「在真の声が一番」


 耳当てを戻しながら言う。


 冗談にしては顔色が悪い。


 灯さんがこちらを見た。


「歩かせないで。五分は座らせて」


「そっちの怪我は」


「この人も動かせない」


 オーガを人と呼んだ。


 灯さん自身は気づいていない。


 神崎さんは崩れた鎧から使える黒杭を二本抜き、ロープと一緒にまとめ始めた。


 レオンは十二本の記録線を樹脂板へ戻している。


 ガルは通常迷宮側へ落ちた杭を見送ったあと、俺たちの間へ戻ってきた。


 六人に戻った。ただ、すぐ先へ進めるのは三人もいなかった。

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