第70話 野営で仲良く
――草原の道の途上――
「ララエル、こっちへ来なさい」
「どうかしましたか? メルミアお姉さま」
日もだいぶ傾いてきたのでララ達一行は野営の準備をしていたのですが、そんな中でメルミアさんはララを呼び寄せて話し掛けます。
「あなた、今日のペースで里まで行くつもりなの?」
「ええ、サハラが旅にも馬にもなれてないんですもの。 これぐらいが限界だと思います」
「そう……またあの丸耳が原因なのね」
ララの返事を聞き、顎に手を添え少し考えてから話を続けます。
「まあ良いわ。 ララエル、このペースだと食料が足りなくなるわ。 あなた、適当に何か獲ってきなさい」
「え、私が獲ってくるんですか? それだとサハラが一人にな――」
「ララエル、あなた達の理由で遅れるのだからあなたが穴埋めするのは当然よ。 大丈夫、あの丸耳は私がちゃんと面倒見ておくわ」
突然の狩り命令にララは抗議の声を上げようとしたのですが、しかしメルミアさんはララの話を最後まで聞きもせずにばっさりと切って捨てて食べ物を獲ってくる様に言います。
「え、えぇぇぇ……」
(お姉さまがサハラの面倒見るって、むしろ不安にしかならないのだけれど、大丈夫なのかしら……)
「何? ララエル、あまり我が侭ばかり言うとさすがに気の長い私でも怒るわよ? 良いからさっさと行って来なさい」
〈ちなみに殆どのエルフ族は大抵気が短いのですけれど、何故か皆が皆自分は気が長いと思っていたりします〉
「わ、分ったわお姉さま。 じゃあ、くれぐれもサハラを宜しく頼みますね。怒ったり怒鳴ったりしないで下さいね? 乱暴しないで下さいよ? 遠くから見守るだけで良いですから。 剣とか弓はしまって置いて下さいね? あ、遠くから見守るって言っても睨まないで下さいよ? それから――」
「ああもう、うるさいわね! さっさと行って来なさい! 怒るわよ!?」
「は、はい! じゃ、じゃあすぐに支度して行って来ます!」
いつまでも“ああでも無いこうでも無い”と言い続けるララをメルミアさんは無理矢理に追い立てて狩りに行く様に迫ります。
そこまでしても尚も後ろ髪を引かれるかの様にチラチラとこちらを未練がましく見ては何か言いたげな顔で狩りの準備を始めるのでした。
そして準備が整った所でサハラさんへ『ごめんなさい、急に用事を言いつけられたから少し離れるわ。 何かあったらリンディアお兄様の所へ行くのよ』と言って狩りに出発して行きました。
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それからすぐの事――
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「丸耳、こっちへ来なさい」
「え? え~~っと……」
ララが出掛けてから暫く経った頃、ぼーーっと馬を眺めて(目がぐりぐりしてて怖いのです~)なんて考えて居たサハラさんを倒木に腰掛けて火の番をしていたメルミアさんが呼び寄せます。
「大丈夫、何もしないからこっちへ来なさい」
「う、うん。 わかりましたのでする」
緊張の余り、何だか若干変な言葉使いになりつつもサハラさんは言われた通りにメルミアさんの座っている倒木に向かいました。
でも怖いのでメルミアさんとは出来るだけ離れた端っこに座るのですけどもね。
「丸耳、何故そんなに離れて座るの? 遠いわ。 ここに座りなさい」
しかしサハラさんが座った場所が気にくわないのかメルミアさんは自身のすぐ横を手でパシパシ叩きながら近くへ来いとさらに迫ってきます。
「あぅ……そうします」
(こ、怖い! 怖いのです~。 なんで呼ばれてるんだろ~~?)
何だか良く分らないけれど自分の事を凄く嫌ってるらしい人に呼び出されて戦々恐々のサハラさんです。
「あー……あなた、名前は何だったかしら?」
「さ、さ、サハラです」
(あわぁわわわぁぁ、近いです! 怖いです! 怒られそうなのです!)
「サハラね、今度は覚えたわ。 ねえ、そんなに怖がらないで。 今までの事は謝るわ」
ですが、何か怒られるんじゃないかと思ってたサハラさんの予想とは違って、メルミアさんは酷く申し訳無さそうな声音でそんな事を言いました。
「え~と……」
「町の外で出発の準備をしてた時の事だけれど、あの時サハラは自分が怪我をするかもしれないのに身を挺してあの子の耳を守ってくれたわよね。 ありがとう」
「いいえ、大事な人が傷付きそうになってたら何とかしようとするのは当然の事なのです!」
「それでも、よ。 それにその後、あの子に自分がした事がどれだけ周りの人を傷つけて、心配させて、悲しませたかを諭してくれたわね。 本当にありがとう」
「あれは僕も怒っていたのです! でもちょっと強く言い過ぎちゃったかも……」
「大丈夫よ。 むしろもっと強く言っても良い位だったわ」
「あはは、でもララの耳が無事で良かったのです。 ……あ、ごめんなさい。 またララって言っちゃった」
何だかメルミアさんが優しい雰囲気だったので、サハラさんはつい油断してララの事をいつも通りに愛称で呼んでしまいました。
“また怒られる!”と思って咄嗟に頭を押さえて縮こまります。
でも意外な事にメルミアさんは怒らずにサハラさんへ語りかけます。
「大丈夫よ、私こそごめんね。 凄く怖がらせちゃったみたいね……。 名前はララエルが良いと言っていたのだからサハラの好きに呼べば良いわよ」
「い、良いのです?」
「ええ、問題無いわ。 ……私があなたに色々と酷い態度をとってしまったのはね、可愛いララエルがあなたに取られてしまうと思ったからなの。 でも、私は馬鹿だったわ、ララエルが大切にしている者をそんな理由で傷つけて遠ざけようとしたなんてね。 これじゃあ姉失格ね……嫌われちゃったかしら……」
「そうだったんだ。 でも僕は全然大丈夫なのです! それにララがメルミアさんの事を大好きなのはちょっと見ただけでも分かる程分かりやすいのです! だから、大丈夫なのですよ~!」
「そう……そうね、そうよね! ふふ、ふふふ、あはははは。 ありがとう。 貴方の言う通りよ! サハラ、あなたリンディアお兄様が言った通り良く分かってるわね!」
「ふふ~ん♪ それにしても良かったのです!」
「ん、何がかしら?」
「だってこれでメルミアさんとも仲良くなれたのです! 良かったのですよ~」
「!? ……そ、そう。 そうね、確かに良かったわ」
「はい、凄く嬉しいのです」
「……決めたわ。 サハラ、貴方には特別に私の事をララエルと同じ様に呼ぶ権利を上げます。 喜びなさい」
メルミアさんはどこまでも上から目線な物言いではありますが、名前を短縮して愛称で呼んでも良いよとサハラさんに許可します。
これには少し離れた場所でコッソリ様子を伺っていたリンディアさんもびっくりです。
名前はエルフにとって非常に重要な物で、間違えたり短縮したり改変したりするのはかなりの無礼行為に当るのです。
相当な変わり者なエルフ以外はそんな事をされたら例え相手が仲の良い相手であったとしても怒る事でしょう。
にも関わらず、エルフの中でも特にそう言った事に拘るエルフ至上主義者であるメルミアさんが丸耳族のサハラさんにその行為を許すとは思わなかったので心の底から驚いたのです。
「え、良いのです~!? やった~♪ じゃあなんて呼ぼうかな~?」
嫌われてると思ってた所からまさかの愛称呼び許可宣言です。
サハラさんは大喜びでさっそくどんな愛称で呼ぼうか悩み出します。
「う~ん、メルミアさんだから……メル……ルミ……ミア……メア……ルミ……ルミ! ルミ姉さん! ルミ姉さんが良い感じです! 良いですか!?」
「う、うん良いわ。 分ったわ、これから私はルミなのね。 じゃあ改めて、よろしくサハラ」
「はい、こちらこそ宜しくなのですルミ姉さん!」
と、やっとお互いにわだかまりも解けて握手をする事が出来ました。
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それから暫く、サハラさんとルミ姉さんはぽつりぽつりとたわいも無い話をしたりしてララが帰って来るのを待っていたのですが、こくり、こくりとサハラさんは眠気に負けて船を漕ぎ始めてしまいます。
(あ~う~、安心したら眠くなってきちゃったのです~)
それもそのはず、慣れない乗馬で長時間移動しっぱなし、一緒に行く相手は凄く怖いと思ってたルミ姉さんだったのです。
体力的にも精神的にも疲労は溜まる一方だったのに、そこへ追い打ちの様にララが要らない気を使ってサハラさんが眠そうにする度に『サハラが暇しちゃってる!』と思って何かしら動物やら植物やら珍しい物を見つけては寝かさない様に話し掛けちゃってたのです。
なのでサハラさんは疲労限界、眠気がピークを迎えちゃってるのです。
そしてその直後、ついに限界を超えたサハラさんは隣に座っているルミ姉さんの元に倒れ込む様にして意識を手放して夢の世界に旅立ってしまうのでした。
「わ、わぁ。 ちょ、ちょっとサハラ! ぅぅぅ……もう。 まあ良いわ、ゆっくり休みなさい」
ルミ姉さんは倒れ込んできたサハラさんに驚きながらも、優しく膝枕をして寝かせてあげる事にします。
(偏見さえ捨てて見れば丸耳も可愛いものね。 いえ、サハラだから可愛いのかしら?)
そんな事を考えたせいなのか、知らず知らずの内にララエルが小さかった頃にしてあげた様に、エルフ族に伝わる子守唄を口ずさみながら優しく髪を撫でてあげるのでした。




