第69話 旅の途上
なんやかんやとララが皆から叱られてから数時間程経った頃――
かっぽかっぽとリズミカルに馬が蹄の音を響かせて快調に歩みを進めます。
現在進んでいる先は以前森の村へ向かった道ともサハラさんとララが初めて出会った道とも違う方向へ伸びている道を歩んでいます。
「ララ、ララ、黒の森って言うのに森の村がある森には向かわないのです?」
サハラさんの疑問ももっともな事でして、カララの町周辺で森と言ったら森の村があった『大森林』の事を言います。
でも今向かってる方向は『大森林』とは違う方向ですし、何より見渡すかぎりの草原が広がっているのです。
夏も本格的に始まっているので下草もどんどんと伸びてきているのですがまだ馬に乗ったサハラさんの視線を遮る程ではありません。
でもそんなサハラさんの視界には森がありそうには全く見えなかったのでした。
「んー、そうねぇ、その森って『大森林』って言う森なんだけど、それとは違う森が私達の故郷なのよ。 で、あっちの方向に一日~二日行けばその森が見えてくるわ。 その森の中心が目的地ね」
そう言ってララは何も目印が無い様にしか見えない草原で迷い無く行き先を指し示しました。
「お~、そうなんだ。 でも凄いのです。 なんでこんな何にも無い所で方向が分るのです~?」
「ん? ああ、そうだったわ。 エルフの里って結界が張ってあってね、サハラには見えてないでしょうけれど私達エルフには結界は関係無いからここからでもマザーツリーが見えるのよ」
“下手な小山なんかより大きな木だからね”と自慢げにララは言います。
なので迷う事なんてありえないのですね。
「凄いのです! 僕も見てみたい!!」
「うーん、どうなのかしら? 結界の中からなら見れるけれど、こうやって遠く離れた場所からだとエルフ以外で見る方法があるのか分らないわ」
「が~ん、残念なのです……」
(近くで見るのも楽しみですけど、遠くからも見てみたかったのです~)
サハラさんが見たいと言うのならぜひ見せてあげたいと思うララなのですけれど、大精霊と呼ばれる精霊達の中でもかなり強い力を持った者に張って貰っている結界なのでどうすれば無効化出来るのかサッパリ分らないのでした。
でもリンディアさんがララの疑問を解決出来るお話をしてくれます。
「いや、ララエルよ。 里の大結界の効果は”招かれざる者への幻惑”だ。 里へ行って長老達の許可を得られればだが、精霊と契約を行なう事で無効化出来るぞ」
「そうなのですか? リンディアお兄様。 それなら大丈夫そうね。 サハラ、帰りには一緒に見れるわよ」
リンディアさんの“許可を得られれば”の所をスルッと流してララはサハラさんへ、さも精霊との契約がもう出来るのが決まったかの様に続けます。
「やった~、楽しみです」
そしてまたまたララを信じ切ちゃってるサハラさんは何の疑いも無くララの言葉信じて笑顔を見せ、ララも“楽しみね”と笑いかけるのでした。
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さらに暫く経った頃
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サハラさんは長い間馬に揺られて疲れてしまい、ついつい“うとうと”としていたのですが、ララが突然馬の歩みを緩めて草原の一点を指さしてサハラさんをそっと起しました。
「ねえサハラ、起きて。 あれ見える? あの草の間、あそこ、私の指さした先に毛長角ウサギがいるわよ」
と言ってララは少し屈んでサハラさんに目線を合わせて教えてくれます。
疲れて眠ってしまったサハラさんの事を“退屈で寝ちゃったのかな?”と勘違いして気を使って何かサハラさんが興味を持ちそうな物を探して教えてくれたのでした。
「えぅぇ、どこかな、どこかな? ああ、居ました! 可愛いのです♪」
ララの指と目線の先をよくよく見てみると確かに居ました、茶色くて丸っこくてユニコーンみたいな真っ直ぐの角を一本生やした可愛いウサギさんが。
「でしょう? あれは結構珍しいウサギだから生け捕りにすれば町で高く売れるらしいわよ。 でも雷系の魔法使ってくるから殺さないとなるとなかなか近寄れないんだけどね」
「ウサギって魔法使うのです!?」
「え? うん、ウサギもネズミも魔法くらい使うわよ? 心配しなくても襲ってこないから大丈夫よ」
異世界のウサギ恐るべし、とサハラさんが感心します。
が、それから暫く経った時、またララが少し離れた場所の草陰を指さしました。
「サハラ、見て。 あそこに今度は三ツ目飛びウサギがいるわよ」
「んん? む~……あ、居ました! 三つも目があります!」
「あのウサギの特徴はね、なんと言っても美味しいのよ。 食べる? 今獲ってあげるね」
サハラさんが三つも目がある不思議なウサギを興味津々で見てたらララがさらっとウサギを殺そうとします。
「ら、ララ! 大丈夫! 大丈夫だから弓を下ろして! ウサギ食べなくても大丈夫なのです!」
「そう? でもあれ捕まえないと晩ご飯が携帯食だけになっちゃうから味気ないかなと思うんだけど、ほんとに良いの?」
「うん、大丈夫なのです! 携帯食嫌いじゃないですし!」
(あわわわ、目の前であんな可愛いうさちゃん料理されても食べられる自信無いのです~)
ララ的には何も間違った事を言って居ない……と言うよりこの世界の人としてはウサギを獲る事は何一つ間違った事では無いのですが、都会っ子のサハラさんには刺激が強すぎます。
ララはなんで止められたのか分らないのですが“ウサギ嫌いなのかな? じゃあ鳥を探した方がよさそうね”とサハラさんの思いはサッパリ伝わって居ない方向に考えがシフトするのでした。
その後も事ある毎に――
「サハラ、あそこに火吹きトカゲがいるわよ」
やら――
「甲羅イノシシが寝てるわ」
などと、サハラさんが退屈しない様に色々探しながらゆっくりと穏やかに旅は進んで行くのでした。
ちなみにリンディアさんとメルミアさんはと言うと――
(…………このペースで進んで食料は足りるだろうか……)
(イライライライライラ! また止まった! 全然進まないわ!!)
――非常に心穏やかでは無いのでした。




