表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】私の婚約者は優秀なのですが、ときどきどこかおかしい〜人と熊を対立させて、一番得をするのは鮭だったようです〜  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

第六話 猿の陰謀

今日もいつもの王宮の東屋にて。

薔薇は今日も美しく咲き誇り、紅茶はいつも通り香り高い。

そして、ベアトリスの婚約者である王太子オスヴァルトは、いつも通り深刻な顔をしていた。

机の上には分厚い資料。


地図。

目撃証言。

果物の食べ残し。

数日をかけて正気を取り戻したベアトリスは、嫌な予感しかしない。


「ベアトリス」

「はい」

「山間部の村で、猿による被害が増えている件は知っているか?」


ベアトリスは静かにカップを置いた。


「ええ。畑の作物を荒らしたり、民家の食べ物を奪ったりしていると伺っておりますわ」

「その通りだ。だが、これは単なる獣害ではない」


来た。


「では、何ですの?」


オスヴァルトは声を潜めた。


「都市侵略計画だ」


ベアトリスは微笑んだ。

『猿の惑星』かよ。という突っ込みを飲み込んだ、完璧な淑女の微笑みである。

内心では、かなり頭を抱えていた。


「猿が王都を侵略すると?」

「そうだ」

「なぜ?」

「彼らは人間を観察している」


オスヴァルトは資料を一枚取り出した。

そこには、屋根の上に座る猿のスケッチが描かれている。

妙に上手い。日に日に上達している。


「猿は高所を好む」

「そうですわね」

「つまり王都全体を見下ろすことができる」

「カラスの時も似たようなことを仰っていましたわ」

「カラスは空から監視する。猿は屋根から監視する。役割が違う」


役割。

何の。


「さらに猿は人間の行動を真似る」

「ええ、賢い動物ですものね」

「そこが問題だ」


オスヴァルトは机を叩いた。


「最初は果物を盗むだけだろう」

「はい」

「次に扉の開け方を覚える」

「あり得なくは、ありませんわね」

「その次は鍵の開け方を覚える」

「少し怪しくなってきましたわ」

「やがて税制を理解する」

「急に飛びましたわね」

「飛んでいない。段階的進化だ」

「飛んでおりますわ」


オスヴァルトは真剣だった。


「彼らは今、人間社会を学習している。市場、貨幣、所有権、婚姻制度、相続税」

「相続税まで?」

「王都に定住するなら避けて通れない」

「猿が定住する前提なんですのね」

「そうだ」


オスヴァルトは王都の地図を広げた。

赤い丸がいくつも付けられている。


「これは?」

「猿が好みそうな侵入経路だ」

「好みそうな」

「城壁、屋根、鐘楼、果樹園、貴族街の庭園」

「随分と具体的ですわね」

「特に危険なのがここだ」


オスヴァルトは王宮の裏手を指差した。


「王宮の厨房」


ベアトリスは少しだけ納得してしまった。

食料がある。

甘い菓子もある。

確かに猿なら狙うかもしれない。


「厨房を制圧されたら、晩餐の主導権を握られる」

「晩餐の主導権」

「貴族社会は晩餐会で動く」

「それはそうですわね」

「つまり厨房を制する者が社交を制する」


嫌な理屈なのに、微妙に筋が通っている。


「そして社交を制した猿は、次に何を狙うと思う?」

「果物でしょうか」

「議席だ」

「狙いませんわ」

「狙う」

「狙わんて」

「狙う」

「猿ですわよ?」

「だからこそだ」


オスヴァルトは立ち上がった。


「彼らは人間を真似る。ならば、いつか貴族の真似もする」

「猿が夜会に?」

「燕尾服を着て」


ベアトリスは想像してしまった。

やめればよかった。


「……似合いそうですわね」

「だろう?」


しまった。

乗ってしまった。

オスヴァルトの目が輝いた。


「つまり君も猿の社交界進出を危惧しているのだな」

「今のは失言でしたわ」

「大丈夫だ。僕は君の慧眼を理解している」


理解しないでほしい。

その時、東屋の外から、侍女の小さな悲鳴が聞こえた。


「きゃっ!」


オスヴァルトが即座に振り向く。


「何事だ!」

「殿下、申し訳ございません! ここに置いてあった果物籠が荒らされておりまして……!」


侍女が慌てて駆け込んできた。

オスヴァルトの顔が変わった。


「来たか」

「来てませんわ」

「侵入を許してしまった……!」

「まだ猿と決まったわけではありませんわ」

「何を盗まれた?」

「バナナと、林檎と、葡萄でございます」


侍女は困惑しながら答えると、オスヴァルトは目を閉じた。


「完全に猿だ」

「完全ではありませんわ」

「果物の選定に迷いがない」

「果物籠ですもの」

「これは威力偵察だ」

「おやつですわ」


オスヴァルトは机の上の資料に、新たな赤い印を付けた。

王宮厨房。

侵入済。

と書かれている。


ベアトリスはそれを見て、静かにため息をついた。


「オスヴァルト様」

「何だい?」

「仮に猿が王都を侵略するとして、最終目的は何ですの?」

「よくぞ聞いてくれた」


しまった。また正気を失いかけて、聞いてしまった。

聞かなければよかった。


「彼らの目的は、王都の完全な果物配給制だ」

「果物配給制」

「全ての果物を一度猿が管理し、人間には必要最低限だけを配る」

「嫌な国ですわね」

「猿政権だからな」

「政権を取らないでくださいませ」


オスヴァルトは窓の外を見た。

遠く、王宮の屋根の上に小さな影が動いた気がした。


「始まっているのかもしれない」

「始まっていませんわ」

「いや、始まっている」

「では、どうなさいますの?」


オスヴァルトは真剣な顔でベアトリスを見た。


「まずは敵を知る」

「まさか」

「今日の茶菓子は、バナナを使ったものにしよう」

「……おやつにバナナを食べたいだけでは?」

「違う。分析だ」

「そうですの」

「猿の嗜好を理解する必要がある」

「では、私もご一緒いたしますわ」


ベアトリスは微笑むと、オスヴァルトの表情がふっと柔らかくなる。


「ありがとう、ベアトリス。君がいてくれるなら、猿の都市侵略にも立ち向かえる」


真剣な愛の告白のような声で、また猿の都市侵略という言葉が混ざっている。

この人は本当に、どうしてこうなのだろう。

けれど、そういうところも含めて、ベアトリスは彼を嫌いになれない。


「ただし」

「ただし?」


ベアトリスは扇で口元を隠し、微笑んだ。


「猿対策会議の後は、夜会の挨拶回りの練習ですわ。猿が社交界に進出する前に、まず王太子殿下ご本人がきちんと社交をなさってくださいませ」


オスヴァルトは一瞬黙ると、少し耳を赤くした。


「……それは、確かに緊急性が高い」

「でしょう?」

「分かった。猿政権対策より優先しよう」

「猿政権は一度お忘れくださいませ」


こうして、王国は今日も平和だった。


ただ一つ。

その日の茶菓子が、なぜかバナナ尽くしになったことを除けば。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



こちらの作品もよろしくお願いします
▶ 四国転生
〜459通のお祈りメールから、旅館若旦那の偽恋人になりました〜
現代恋愛/お仕事/愛媛/道後温泉/旅館若旦那/偽恋人/ご当地グルメ/じれ甘/溺愛
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ