第二話 カラスの陰謀
王宮の中庭。
オスヴァルトは今日も深刻な顔で資料を広げていた。
「ベアトリス。王都の情報流通は、すでに危険な段階にある」
「今回はなんですの?」
ベアトリスは紅茶を一口飲んだ。
最近は先に聞くことにしている。
「カラスだ」
やっぱり。
ベアトリスは静かにカップを置いた。
「根拠をお聞かせいただいても?」
オスヴァルトは待ってましたとばかりに一枚の地図を広げた。
「見たまえ」
王都全域の地図だった。
至るところに黒い印が付いている。
「これは?」
「カラスの目撃地点だ」
「当たり前ではなくて?」
「違う」
オスヴァルトは首を振った。
「彼らは常に高所にいる」
「ええ」
「王都全域を監視できる」
「ええ」
「誰がどこへ行き、誰と会い、何を食べたかまで見ている」
「そこまでは見えませんわ」
「見ている」
断言した。
「なぜなら僕が昼食で食べたパイを落とした瞬間、三十秒後にはカラスが回収した」
「ただの鳥ですわ」
「情報収集員だ」
オスヴァルトは真顔だった。
「彼らは王都最大の諜報組織を形成している」
「なるほど」
ベアトリスは頷いた。
否定すると長くなることは、経験から学んでいる。
「では目的は何ですの?」
「知らない」
オスヴァルトは即答した。
知らないんかい。という突っ込みを、ベアトリスは紅茶とともに飲み込む。
「まだ分からない。だから危険なのだ」
ベアトリスは初めて少し感心した。
分からないことは分からないと言えるのは偉い。
「ですがオスヴァルト様。情報を集めるだけでは利益になりませんわ」
「その通りだ」
オスヴァルトは立ち上がった。
「だから僕は昨夜から考えている」
嫌な予感しかしない。
「もし王都の全情報を独占したら何ができる?」
「何でしょう」
「恋文の先回りだ」
「はい?」
「告白の返事を知りたい人間は多い」
「それはそうですわね」
「カラスはその需要を独占できる」
ベアトリスは思った。
絶対に違う。
だがオスヴァルトは本気だ。
「つまり彼らは情報そのものを商品としているんだ」
「賢いですわね」
「そうだろう?この情報は、ひいては出生率にも影響するわけだからね」
一理あるような気がしてくるのが悔しいが、オスヴァルトは嬉しそうだった。
「そこで僕は対抗組織を作ろうと思う」
「どのような?」
「鳩だ」
オスヴァルトが空を見上げると、平和の象徴である鳩が数羽飛んでいる。
それをただただ、遠い目でベアトリスは眺めた。
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