8 前世の記憶
不思議な夢を見た。
長方形の大きな建物が何個も整然と並んでいて、私はその中の一室に家族と住んでいる。
年齢は多分、今と同じくらい。
髪も瞳も真っ黒で、この世界ではまず見かけない色彩だ。家族も同じ。
部屋はいくつかあるものの、明らかに人数に対して足りていなかった。
子どもたちは狭い部屋にぎゅうぎゅう詰めになって生活し、私は母親らしき女性から叱られている。
「お姉ちゃんなんだから、下の子の面倒を見るのは当然でしょ」
ああ。
この言葉、何度も言われたっけ……。
記憶が刺激されて、ようやく前世を思い出した。
日本人だった頃の記憶を――。
私の家は貧乏なのに子だくさんで、長女の私はいつも下の子のお世話をしていた。
両親は仕事でほとんど家にいなかったため、私は小学生の頃からすでに母の代わりを務めていた。
「ねえね、ままは?」
「夜になったら会えるよ。先に寝ようね」
私の下には二人の妹と、三人の弟がいた。
みんな自分のことだけで精一杯で、一番下の三歳の弟の面倒はほぼ私が見ていた。
三歳なんてまだ赤ちゃんみたいなものだから、寝かしつけも私がやらないといけない。
弟が寝てからやっと自分の自由時間で、真夜中に必死で勉強した。
この地獄みたいな家から抜け出すには、学力を身につけるしかない――私は小学生にしてすでにそれを悟っていたのだ。
下の子たちが寝てからだから、部屋の電気はつけられない。
小さな電灯だけで勉強するのは大変だったけど、ちゃんと努力と苦労は実った。高校は難関私立校を専願で受けて、特進コースに合格。
私が受かった私立は、成績上位だと授業料が免除される学校だったのだ。
母に報告すると、
「授業料が安く済んで助かるわ」
とだけ言われた。
何年も積み重ねた努力は褒めてもらえなくて、私は高校卒業後、引っ越し先も連絡せずに家を出た。
バイトしながら大学に通い、望む会社に入社。
でも順調に見えたのはここまでだった。
第一志望で入った会社は、表向きは福利厚生がしっかりした健全さをアピールしていたものの、実態はブラック企業で何日も帰れないのは当たり前。
オフィスで働きながら、気を失うように眠ったことも多かった。
当然の流れとして私は過労で倒れて病院に運ばれた。まだ二十九歳で、検査の結果、心臓に異常が見つかった。
体を壊す前に退職すればよかったんだろうけど、多額の奨学金を借りていたから一日も早く返済を終えたかったのだ。
(裕福な家に生まれていたら、こんなことにならなかったのかな……)
子どもは親を選べない。
その言葉が頭の中をぐるぐると虚しく回っていた。
病室の窓からは海が見えて、私は大学生の頃に友人と遊びに行ったことを思い出した。
壊れてしまった私の体は元に戻るのかな。
また海に行けるくらい、元気になれるといいな……。
最期の記憶はほとんど残っていない。
心臓に強い痛みを感じて、ナースコールを押そうとしたのだけは覚えている。
ぶつんと意識が途切れる寸前、私が強く願ったのは、「もう搾取される人生は嫌だ」ということだった。
長女だからという、自分には関係のない理由で弟の世話を押し付けられた。
やっとの思いで入った会社でも、命を削りながら働く羽目になった。
私はずっと自分の時間と労力を、誰かに搾取されながら生きてきたのだ。
今度こそ、誰にも奪われずに穏やかに暮らしたい。
全てが自分の思い通りにならなくても、せめて人間らしい生活を送りたい――。




