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搾取され続ける人生は終わりにします さようなら、殿下  作者: 千堂みくま


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5 戦争の終わり

 次の日から、私のたった一人の生活が始まった。

 家事は得意だったから特に問題はなかったものの、時々何の前触れもなく体に傷ができるのが辛くてしょうがなかった。

 マルヴィン殿下は王宮のどこかで訓練を受けているようで、彼が転んだり武器で傷を作ったりするたびに、私の体にも生々しい傷が現れた。


「痛いっ……、う、うぅ……」


 突然痛みと同時に傷ができるので、私はいつも自分で作った回復薬を持ち歩くようになった。

 私の祝福があっても、マルヴィン殿下の傷の全てを引き受ける訳ではない。

 でも彼の怪我を十とすると、殿下が一割、そして私が九割ほどを負担するようだった。


「エレナのお陰で安心して戦えるんだよ。きみの祝福を受けてから、出血するような大怪我はしなくなった」


 マルヴィン殿下は最初の頃、数か月に一度は私に会いに来てくださった。

 そしてねぎらいの言葉を掛けてくれるものの、私はただ曖昧に笑うことしかできなかった。

 私は傷が現れるたびに、かなりの出血を伴っていたからだ。

 意識を失ってしまいたいほどの怪我も何度かしていて、正直に言えば、マルヴィン殿下に祝福を授けてしまったことを後悔していた。


(殿下の傷のほとんどを私が負担してるんだわ。でもマルヴィン殿下を守れているんだから……いいことなのよね)


 孤児だった私が殿下の婚約者になれたのは、この祝福があったからだ。

 それに私とマルヴィン殿下が結婚したら終わるのだから、それまでは耐えよう。


 きっとあと数年の我慢だわ……。


 ランドルト王国では、子どもは十五歳になると一人前だと認められて結婚できるようになる。

 私は十二歳だから、たった三年の我慢だ。

 そう考えて自分を鼓舞してきた。


 いつしかマルヴィン殿下はほとんど私に会いにこなくなってしまい、十五歳も過ぎてしまったけど、婚約が続いている限りは彼を信じようと思っていたのだ。

 その日がやってくるまでは……。





 五年が経ち、十七歳になった私は、いつものように薬草をすり潰していた。


(今日の王妃様はすごく上機嫌だったわ。何かいいことでもあったのかしら)


相変わらずマルヴィン殿下は会いに来てくれないものの、ここ数日は急に傷が現れることはなくなっていた。

もしかしたら、戦争が終わったのかもしれない。

王妃様が機嫌がよかったことから考えても、きっとランドルト王国は戦争に勝ったのだ。


(じゃあ、やっと……マルヴィン殿下と結婚できるの?)


 十二歳で彼の婚約者になった時、「一緒に英雄になろう」と言われた。

 私の祝福はマルヴィン殿下が戦争で勝つために必須で、だからこそ彼の婚約者に選ばれたのだ。

 殿下が戦争で勝利して英雄となって凱旋したのなら、私はこの塔で暮らす必要はない。


(きっと私のこともねぎらってくださるはず……。私の功績は認められて、マルヴィン殿下と結婚できるはずだわ)


 この五年はひどく長く感じられた。

 一日一日が辛くて、二階のバルコニーから海を眺めることで何とか自分を癒やしていた。

 自由になったら、きっとあそこへ行こうと……。


「でもその我慢も終わるんだわ」


 ぽつりと呟いた時、塔の扉の鍵が開く音がした。

 こつこつと二人分の足音が聞こえる。一人はマルヴィン殿下のようだけど――もう一人は誰だろう。

 怪訝に思っていると一階の部屋のドアが勢いよく開いた。


「エレナ、来てあげたよ」


 マルヴィン殿下は戦場から戻ってきたままなのか、甲冑に身を包んでいた。

 彼の後ろには、聖女の衣装を纏った銀髪の美しい女性が控えている。

 私は誰だろうと考えつつ、マルヴィン殿下に頭を下げた。


「お待ちしておりました、マルヴィン殿下。お顔が拝見できて嬉しいです」


「きみのお陰で戦争は終結できそうだ。今までご苦労だった」


 ああ、やっぱり。

 戦争が終わりそうだから、王妃様は上機嫌だったのだ。

 私の孤独な闘いもようやく終わるのだ。


「で、では……」


 私はこの塔から出て、あなたの妃になるのですよね。

 感極まったままそう言おうとすると、マルヴィン殿下は背後にいた女性の肩を引き寄せた。


「紹介しよう。戦場で常に僕の傍にいてくれたミラベルだ。彼女も聖女で、回復魔法で僕の怪我を癒やしてくれた」


「え……、そ、そうですか」


 私は何が何だか分からなくて、マルヴィン殿下とミラベルさんを見比べた。


(殿下の傷のほとんどは私が負担してるんだから、回復魔法を掛けるほど重傷じゃないと思うんだけど……)


 大出血を伴うような怪我だとしても、マルヴィン殿下の体にはうっすらと血が滲む程度のはずだ。

 ほっといてもすぐに血はとまるだろうし、次の日には傷は塞がっているだろう。


(王子様だから、念には念を入れて……ということかしら)


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