37 マルヴィンの最期
マルヴィンは眠ったまま荷馬車に乗せられて、国境まで運ばれた。
時おりジルが馬を止めて様子を見てみると、マルヴィンの傷口は完全に塞がり、顔色も回復しつつある。
「本当によく効く薬を作るものだ。エレナが味方になってくれてよかった」
エレナが強力な回復薬を作り続ける限り、不毛な闘いは続いていただろう。
あの山小屋でエレナに出会えたのは奇跡だった。
「竜王陛下、もうすぐ国境の森に入ります」
怪我人を連れての移動なので、途中で何度も休憩を挟まなくてはならなかった。
しかしハジィズもジルも、マルヴィンへの罰はこれが最適解だと考えて進路は変えなかった。
まだ眠ったままのマルヴィンは馬に乗れないため、幌を張った荷馬車の中に寝かせている。
やがて一行は目的地に到着し、荷馬車も止まった。
幌を開けてみると、マルヴィンはようやく起きたところだった。
「がたがたとうるさいな……。ここはどこだ? 僕をどうする気だ」
まだ気持ちに余裕があるのか、マルヴィンの口からはとめどなく文句が溢れてくる。
「外に出ろ、マルヴィン」
ジルが冷たく命じると、マルヴィンはぎろりとジルを睨みながら上体を起こす。
「ったく、腕を切られたせいで動きにくいんだよ。この怪我の責任は取ってもらうからな」
マルヴィンは竜王に毒づきながら馬車を下りたが、外を見渡した途端、急に不安そうな表情を浮かべた。
「おい、ハジィズ! ここはどこだ? まさか……」
徐々に早口になるマルヴィンに、ハジィズは聞き取りやすいようにゆっくりと答えてやる。
「ここはリジェリアに繋がる森の入り口です。傭兵から得た情報によると、大型の魔獣が多数棲みついているようです。もちろん、小型の魔獣もかなり多いようですが」
ハジィズが説明している間に、ジルはマルヴィンの体に剣帯を取り付けた。
「お前の命を守る武器だ。どちらがいいか選べ」
二本の剣をそれぞれ鞘から抜いて、太さや長さをマルヴィンに見せてやる。
しかし剣を差し出されたマルヴィンは、選ぶどころではない様子だった。
「ま、待ってくれよ……! まさか僕を、魔獣だらけの森に放り込むつもりなのか!? 僕は片腕しかないんだぞ!」
「そうですよ。そのためにわざわざ長時間かけて、ここまで来たんですから」
ハジィズが淡々と答えると、マルヴィンは信じられないとでも言いたげな目を向けた。
「人殺しじゃないか! よくそんな残酷なことができるな、お前らは悪魔だ! 人間じゃない!」
「エレナを五年も苦しめたお前がそれを言うのか。お前に誰かを糾弾する権利はない」
「兄上がやったことより、大分ましだと思いますけどね。エレナさんは抵抗する権利も手段もなく兄上の怪我に耐え続けたけど、兄上は自分で身を守れるんですから。ほら、剣を選んでください。それとも丸腰でこの森に挑みますか?」
ハジィズが剣を片付ける素振りを見せると、マルヴィンは慌てて大型の剣を掴んだ。
「いい剣を選びましたね。兄上の祝福は身体強化ですから、大きな剣でも問題なく扱えるでしょう」
「さぁ行け、マルヴィン。言っておくが、戻ろうなどとは考えるなよ。その時は俺がお前を殺すことになる」
ジルが地を這うような声で言うと、マルヴィンはびくりと震え、おずおずと森へ向かった。
「剣で身を守りながら、リジェリアを目指せばいいんですよ」
「無事にリジェリアにたどり着けたら、お前を一生鉱山で働かせてやろう」
「くそっ……! 覚えていろよ!」
マルヴィンは悔し紛れに叫び、森へと足を進めた。恐怖で体を汗だらけにしながら全力で森を駆け抜ける。
しばらく何の気配もなく、気を抜きかけた瞬間、遠くから「ウオオオ」という魔獣の唸り声が聞こえて来た。
同時に、こちらへ駆けてくる足音も。
何頭もいるのか、地響きとなってマルヴィンの体を揺らす。
「うっ、うわぁぁぁあっ……!」
森の中にマルヴィンの断末魔の叫びが響いた。




