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搾取され続ける人生は終わりにします さようなら、殿下  作者: 千堂みくま


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25 大金持ち

 リジェリアとランドルト王国の国交が正常化して、貿易が再開されたらしい。

 ある日、私の店に来たクラウスさんが、「他国にもエレナさんの薬を売り出しましょう」と言い出した。


「ハジィズ王子が貿易を再開しようと持ち掛けてきましてね。あちらからは便利な魔道具を仕入れるつもりなんですが、我が国としても特産品の一つとして、エレナさんの薬を売りたいのです」


「クラウスは金儲けに目が無くてな……。もちろん、エレナが作った物だとは分からないようにしておくが、嫌なら断ってもいいぞ」


 一緒に来たジル様が気を遣ってくれたけど、私は話を受けることにした。


「ぜひお願いします。私も商売を頑張ることにしたんです。ランドルト向けなら、ハンドクリームがよく売れそうですね」


 ランドルト王国には聖女がいるから、それほど回復薬は必要とされていないだろう。

 それに戦争が終わった今なら、リジェリアの王都のように、効き目が緩やかで毎日少しずつ使える商品が求められていそうな気がする。

 私が了承すると、ジル様はランドルト向けに新しいデザインの缶を何種類も作って送ってくれた。


「わぁ……、花の絵が描いてある。可愛い」


 ハンドクリームの缶には香りの元となったバラやカモミールの花が描かれて、とてもおしゃれだ。

 青の回復薬を詰める缶は、缶自体が深みのある青で、白い文字で「回復薬」と記されたシンプルで分かりやすいデザイン。


(私のためにわざわざここまで……)


 私はこれまでずっと、自分の時間や労力をマルヴィン殿下と王妃様のために使ってきた。

 それでも感謝の言葉はもらえず、虚しい気持ちが雪のように降り積もっていた。

 だから私のためにジル様が手間暇かけてくれたのだと思うと、胸の奥がじんわりと温かくなって、頑張ろうと思える。

 私は缶に青の回復薬と数種類のハンドクリームを詰めて、荷物を受け取りに来た配達人に城まで運んでもらった。

 あとはジル様とクラウスさんが手続きしてくれるはずだ。

 そうしてさらに二週間がたった頃、ジル様から手紙が届いた。


「私の口座? この世界にも銀行があるんだ……」


 どうやらジル様は、私のために銀行に口座を作ってくれたらしい。

 そこに他国での売り上げが入金されているから、一度確認してほしいと書いてある。

 私は店の休日に、鞄を持って一人で出かけた。

 ジル様が指定した銀行は王都の中心にあって、私が想像していたようなビルではなく、どちらかというと貴族の屋敷のような建物だった。


(日本で見た、大昔の銀行みたいな感じね)


 日本人だった頃、戦前に建てられた古い銀行を街の中で見たことがあるけど、あれにそっくりだ。

 どきどきしながら建物に入ると、黒い礼服を身に纏ったトラ顔の獣人がこちらに歩いてくる。


「いらっしゃいませ、聖女様。当行は初めてのご利用でしょうか?」


「は、はい」


 なぜか私のことを知っているらしい。ちょっとホッとしつつ周囲を窺うと、当然と言うべきか、自動でお金を下ろすような機械は置いてなかった。


(この上品な雰囲気……ここってお金持ち専用の銀行じゃない? 私が来てよかったのかな)


 前世では、資産が億を超えるような顧客向けのプライベート銀行というものが存在したけど、ここもそうなのではないだろうか。

 明らかに場違いだと思いながら、案内されたふかふかのソファに座る。


「すでにジルフォード様より紹介状をいただいております。預金残高の確認でよろしいですか?」


 私が質問に頷くと、彼はタブレットのような黒い板をこちらに差し出した。


「手の平を当ててみてください。魔力に反応して金額が出てまいります」


 言われた通りに黒い板に手の平を乗せると、白く光る文字が浮き出てきた。


(便利ね。魔力に反応する仕組みなら、身分証明書も必要ないってことね)


 感心しつつ数字に視線を落とした私は、驚いて黒い板を落とすところだった。


「……!? こ、この金額、間違ってないですか?」


「はい、確かに聖女様の口座に入金された金額でございます」


 そこに表示された数字は、一戸建てを買えるような金額だった。


(え? 本当に?)


 信じられなくて何度も見ていると、獣人は銀色のカードを私に差し出した。


「このカードは口座に紐づいておりまして、現金を持ち歩くことなく買い物ができます。ぜひご利用ください」


「あ、ありがとうございます……」


 カードを受け取って、呆然としたまま銀行を出た。道を歩きながら銀色のカードをじろじろと眺める。


(夢……じゃないわよね。こうして手元にカードがあるんだし)


 前世では夢のまた夢のような実現不可能な預金額だった。


「か、買い物しちゃおうかな……」


 ちょっと奮発して、前から欲しかった物を買ってみよう。

 大通りに入って、魔道具を専門に扱う店の入り口をくぐる。

 そこは雑貨屋さんのような雰囲気だった。手をかざすだけで点灯するランプ、濡れてもすぐに乾くタオル、保温しつづけるポット。

ずっと見ていたくなる商品がずらりと置いてある。

 しばらく通路を歩いていた私は、ハッとして本来の目的を思い出した。


(いけない、いけない。今日の目的は雑貨じゃなかったわ)


 少し奥に進むと、そこには魔石によって動く機械が並んでいた。

 その内の一つをじっと見ていると、メガネを掛けたヤギのおじいさんが近づいてきた。


「聖女様、温風機をお探しですか」


 私はまた、「どうして私を知っているんだろう」と思った。


(もしかして私って有名人……なのかしら。まさかね)


 王都の端っこで薬を作ってるだけの女が、そこまで有名な訳がない。

 私は温風機を指差して言った。


「この商品を買いたいんです」


「温風機ですかな。大型ですし、配達しましょうか」


 おじいさんが言う通り、温風機はファンヒーターのような大きさだった。台車でもないと運べそうにない。

 私が頷くと、おじいさんはさらに言った。


「聖女様の店の方に運べばいいですか?」


「私の店を知ってるんですか?」


 私が驚いていると、おじいさんは深く頷いた。


「そりゃもう。聖女様の薬草茶には、いつも世話になっておりますからな」


 そう言って「ほっほっほ」と愉快そうに笑う。

 どうやらこのおじいさんも、私が作った薬草茶を飲んでいるらしい。


(私が思っている以上に、お客さんが増えているんだわ……)


 最近はお客さんが増えすぎて、用意していた薬や薬草茶が昼前に売り切れることもあった。

 必死で会計をしていたから気づかなかったけど、あの中におじいさんも確かにいたのだ。

 私は温風機の会計を済ませて店を出た。

 カードを出した時に、おじいさんがひどく驚いた顔をしていたのは気になるけど……、とりあえずこれでさらに薬を量産できる。


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