4-52.追いかけっこ
お喋りしながら、なんとかセイホラン像まで追いつくことができた。その頃にはサイクロプスも完全に起き上がっていて、像までの距離をかなり詰めている。
このままでは追いつかれてしまう。
「そうはさせないからー!」
ちょうどいいタイミングでアンリが駆けつけた。一歩踏み出すために片足を上げたサイクロプスの足裏にもふもふを入り込ませて、指の付け根に矢を放つ。チクリとした痛みはサイクロプスの生命には影響を与えなくても、それなりに刺激はあったはずだ。
踏み出そうとしていた足を戻して、その結果矢は折れたものの先端はより深く足に刺さり、痛みが増す。周囲をビリビリと震わせるような咆哮が上がる。
「いいぞ! その調子でサイクロプスを足止めして! 追いつかれないように! けどあんまり引き離して見失わせるのも駄目!」
「その調整はヨナが指示して!」
「わかった! 下で像を動かすのを手伝いながら見てる!」
「ヨナ! アタシは何をすればいい?」
「像の頭にゾーラを運んでほしい!」
「よっしゃわかった!」
「なんで即座にわかるのよ!? 一瞬でも、出来ないかもとか迷いはないの!? あたしそんな高いところ登りたくないんだけど!?」
「できるんだから仕方ねえだろ! ゾーラは木登り得意か!?」
「得意じゃないわよ! わかるでしょ!?」
「だよなー。じゃあロープ持ってないか? アタシが先に行って、引き上げる」
「どうしてもやるつもりなのね! でも残念だったわねー。ロープならさっきまで持ってたのにー。今頃兵士たちが街中のロープをかき集めてるから、あたしたちが使えるのはないのよ。あー。残念」
「お! なああんた! そのロープ一本貸してくれ!」
「ちょっとキア!?」
キアが見ているのはこちらではなく、大通りから一本横にある道。たぶん騎兵が、知っている限りの店を当たってロープを集めているのだろう。
大通り以外はサイクロプスが通らない想定で安心だから、そこを駆け回っている。先に森に行って待ち構えている可能性もあった。
かくしてキアはロープを手に入れて、それを肩にかけて屋根からセイホラン像の着ている鮮やかな色彩の布に飛びつき、そこから頭部までスルスルと登っていった。ドレス姿でいつもと雰囲気は違うけど、キアはキアだ。
呆気に取られてるゾーラの前にロープを垂らした。
「ほら掴まれ! 引っ張り上げるから!」
「ああもう! わかったわよ! やってやるわ! なんでこんなことに!」
かなり困惑してやりたくないって様子だけど、やる必要性も感じているらしい。悪態をつきながらも、ゾーラはロープにしがみついた。
キアは腕力がある方とはいえ、腕だけでゾーラの体を持ち上げるのは無理がある。ゾーラがセイホラン像の体に足をつけて登る形になっている。そのうち上に着くだろう。
僕はアンリともふもふの様子を気にかけながら、像を押す手伝いをする。
土台である車輪付きの板を押す。ジェゾたちはこれでも急いでいるようだった。けど、急ぎすぎると巨大な像は倒れてしまいかねない。
「倒れないようにするにはどうすればいいですか!?」
「慎重に運ぶしかない! 元々速度を上げて移動することを考えた作りになっていないから!」
それはそうだけど。なんて脆い神様だろう!
「できるだけ速度を上げてください! 僕はサイクロプスの足止めをします!」
上を見ると、なんとか像の肩に乗ったゾーラが杖を振っている。闇で作られた球体がサイクロプスの顔を殴る。
致命傷にはならなくても、痛いことは痛いのだろう。怒りに震えたサイクロプスが近くの家屋に手をやった。
屋根を掴むと木片がバキバキと割れて砕けた。その破片を像に投げようとしている。
「速度上げて!」
「やっている!」
「ゾーラは闇のカーテンを出して!」
「やるけど! あれあんまり大きくできないわよ!」
「アンリ!」
「わかってるわ! ヨナも乗って!」
馬上から僕に手を伸ばしたアンリ。大きな馬の上に引っ張り上げられて、大きすぎるが故にヒラリと格好良く乗ることはできず、もふもふの胴の側面にしがみつくようにしながら、なんとかよじ登った。その間にアンリはサイクロプスの腕に矢を放っているけど当たらない。
「もふもふを足元に!」
「ええ! もふもふ行って!」
なんとか馬にまたがれた僕は剣を抜く。
掴んだ木片を叩きつけるように投げるサイクロプスの軸足が迫ってくる。でかい足だな。人間の何倍もある太さだ。皮膚も分厚いだろうし剣で切り裂くのは難しそうだ。
でも、やるしかない。
「全力で駆け抜けて!」
「ええ!」
サイクロプスの踵スレスレをもふもふが通り抜けた。すれ違いざまに、そこに剣を刺す。馬の脚力に任せた刺突は巨人の足に深々と刺さる。
ただしそこから、剣を横に抜いて巨人の腱を切り裂くことはできなかった。僕の握力が負けたから。
踵に刺さったままの剣を残したまま、馬は一旦離れる。剣を持っていかれる形になった僕の手は強い衝撃を受けて、ジンジンと痺れている。
「ヨナ! 腕大丈夫!?」
「大丈夫! しばらく剣は握れそうにないけど!」
「もふもふから振り落とされないように、わたしに抱きついて! さっきやろうとしてたみたいに!」
「え?」
「お祭りで抱きつけなかったでしょ! わたしに愛を伝えたかったのに!」
「ああ……」
アンリに愛を伝えるかどうかは別として、セイホランの眷属としてみんなに祝福を与えるつもりではいた。抱きつく仕草だってするさ。




