4-48.50年前と同じ
けど封印の書か。中に魔物がいるんだろうな。もし解けてしまったら、大惨事になってしまう。どんな魔物なのかは知らないけれど。
「わかった。すぐに行く。なんて馬鹿なことを……これでは、あの盗賊たちと一緒じゃないか」
「盗賊?」
「お前たちが暴いた、例の村を作った盗賊だよ。五十年前、封印の書を掲げて兵士に手出しをさせず、逃げおおせた輩だ。同じことはさせない」
ああ。あの村の始まりか。そういえば隊長は、何かを必死に探していたな。見つけたのか、危険な魔物がいるはずの封印の書を。
なのに城主の馬鹿息子が同じことを繰り返した。泥棒のやり方を踏襲するとは、知っててやったのかはわからないけど、馬鹿だなあ。
「お前たちはもういい。帰れ。ご苦労だったな」
隊長は僕たちに声をかけて、先代城主と共に部屋から出ていった。
「アタシたち、なんで呼ばれたんだっけ」
「ヨナくんを捕まえたことのお詫びと、赤ちゃんの肌の色について訊くため」
「目的の半分はアタシだったのかー」
「なんの意味もない質問だったけどね。それより、出ましょう。お城のことはお城の人たちが解決しなきゃね」
「そうですね! ヨナ様、こんな街さっさと出ましょう!」
「こんな街は失礼だよ。住んでる人はみんないい人だったし」
「それもそうですね! ドラントが馬鹿なだけです!」
「お城の中で人も大勢いるのに、それが言えるティナはすごいと思うわ」
「えへへー」
「褒めてないから」
「とりあえずリーサの家に行くか? もうこの街にいる用事はないけど、挨拶無しに出ていくわけにはいかないだろ」
「そうね。というか今からここを出ても、すぐに日が暮れちゃうわ。今日もあの家に泊まることになるかも」
「でも、気まずくないかな。ナーサが死んで、あの人たち余裕がないかも」
「だからこそ、あたしたちが寄添ってあげるのよ」
そんな会話をしながら廊下を歩いて、正面入口を堂々と通って城を出る。もちろんザサール夫妻も一緒だ。
大通りに沿って歩くと、遠くにセイホラン像が立ち尽くしていた。まだ移動されてないんだ。祭りの準備会は話し合いの途中なのかな。
というか、お祭りは中止になったのかな。人殺しが起こったのなら続けられないよな。年に一度の、みんなの楽しみ。それを台無しにしたドラントはやっぱり許せなくて。
不意に、背後から轟音が聞こえた。咄嗟に振り返ると、城の外壁が一部崩れ落ちていた。
中から、明らかに人の大きさではない人影がにゅっと姿を現した。
「な、なんですか、あれは」
「魔物でしょ。封印されていたのが解き放たれたの。どこまでも馬鹿な男だったのね、ドラントは」
――――
ドラントは追い詰められていた。城に戻ると家臣たちが、城主がカンカンに怒っていると告げた。すぐに会って話をしなければ、大変なことになると。
会いに向かったさ。が、予想以上の剣幕に逃げ出してしまった。殺されると本気で思ってしまった。
そこまで本気で怒らせるようなことをしたという自覚は、ドラントにはなかった。怒りを鎮めるにはどうすればいいのかも知らなかった。
誠心誠意謝って、これまでの態度を改めるしかない。しかしドラントには、自分が頭を下げるという発想がなかった。
他人は力でねじ伏せるもの。だから今回もそれに倣うことにした。
自分よりも偉い人間にも通じる方法だと疑わなかった。
先代城主である祖父が、年老いた兵士と話しているのを盗み聞きしたことがある。倉庫に保管されている封印の書。これを持ち出せば誰もがひれ伏し、従うはずだ。そう考えていた。
なのにドラントは、兵士に取り囲まれ壁際に追い詰められることになった。
さすがに槍を向けられることはない。けれど兵士の後に立つ城主が命令すれば、彼らは戸惑いながらもドラントの体を串刺しにするだろう。
「お、お前たちは! これが見えないのか!? この封印が解ければ! 大変なことになるぞ!」
「その言葉は五十年前にも聞いた」
祖父がやってきた。毅然とした態度でドラントを睨んでいる。
「あの時判断を間違えた結果、五十年もの間不安に苛まれることになった。同じ過ちは繰り返さない」
隠居しているはずの祖父は、近くの兵士から弓を貰い受けると、ドラントに向けて矢をつがえた。
「じ、爺ちゃん……?」
「お前は城主に相応しくない」
「ぎゃあっ!?」
矢がドラントの手首を貫いた。痛みに悲鳴を上げて、同時に書物を取り落としてしまう。
「回収しろ! 絶対に破損させるな」
「やめろ! これは俺の!」
この書物が自分の生命線であることをドラントは理解していた。手放してしまえば、自分に未来はない。祖父も父も自分を見限っている。次の城主にする考えも失せたかもしれない。
そんな結末を許す気はなかった。転がった巻物を掴む。矢が刺さったままの手は力が入らず、血が流れるままになっている。その手で押さえつけて奪われないように体重をかける。
書に血が滴った。兵士のひとりがほぼ同時に、書物に手をかけた。
引っ張るなと祖父の声が聞こえて、兵士は力を緩めた。その隙にドラントは自由に動く手でしっかりと書を握りしめる。
手汗と血で湿った紙が、ずるりとずれる感覚がした。




