4-37.ジェゾと
睨んでくるドラントだけど、異能という言葉が出てくる程度には冷静だった。だから、僕に勝てないことも悟ってはいるのだろう。プライドが邪魔して、撤退を決意できないだけ。
けど、僕が串を構えて一歩踏み出せば、さすがに恐れをなしたらしい。
「おい! お前ら行くぞ!」
痛そうにしている取り巻きたちに声をかけて、馬車に戻ろうとした。
けどできなかった。準備会の若者たちが怒りを露わにしながら彼らを囲んだからだ。
「なあ。俺たちを反逆者にして捕まえるって言ってたよな? 祭りを中止にできるとも。それは今も考えているか?」
ジェゾが凄みを利かせながら迫れば、ドラントは明らかに怯んだ。
「そうなったら困るんだよ。お前を城に帰すわけにはいかない」
「それは……」
「お前がさっき、本気でそう言ったなら、こちらも本気でやり返すしかない。なあ、城主の息子様よ。どうなんだ?」
「ほ、本気……じゃない。本気でそんなこと言うはずが、ない」
「そうかそうか!」
怯えたドラントのか細い声に、ジェゾは笑顔になって彼の肩をバンバンと叩いた。
「そうですよねドラントさん! いやー、次期城主様となると冗談もうまいもんだ! なあ。俺たちみんな騙されたよな!」
ジェゾの仲間たちも笑い声を上げる。
自分の言ったことの責任を取ることを、庶民の慈悲で回避された形になったドラントは、プルプルと震えていた。それでも彼らに言い返すことはできない。
「じゃあドラントさん、そんな格好じゃ風邪ひきそうなので、さっさとお帰りください。みんな! 次期城主様がお帰りだ! 盛大にお見送りして差し上げろ!」
「元気でなー!」
「城主様によろしくー!」
「お祭り楽しみにしてろよー!」
ドラントと取り巻きたちが乗り込んだ馬車に、次々に声をかける。馬車は逃げるように去っていき、ジェゾたちは生意気な権力者を追い返したことに満足しているようだった。
「ヨナ様!」
物陰で一部始終を見ていたらしいティナが、ようやく出てきた。
心配と安堵と、僅かな怒りを見せていて。
「いきなり飛び出さないでください! それに街の貴族に喧嘩を売るなんて! 何考えてるんですか!? 大事になったら大変ですよ!」
「ごめん。たしかに軽率だった。でも、ティナの方が先に出ていこうとしたよね? 問題が起こるのは同じかなって」
「そうですけど!」
ティナに、あの場をうまく取りなせるとは思ってなかったから。僕たちが関わると決めた時点でこうなるのは必然だった。
「問題が起こっても、僕たちはさっさと街から出ていけばいいかなって思って。この街にいるのは、お祭りが見たいから。それさえ諦めれば、逃げるのは簡単だから」
「そんなことはさせないぞ、ヨナ様」
「え?」
ジェゾが僕の肩に手を置いた。
「さっきはありがとうな。あのムカつく奴に恥かかせてやった。ヨナ……って呼んでいいんだよな? この人が様ってつけてるのは、なんでだ?」
「気にしないでください。ティナはなんか、そういうのに憧れてるんです。高貴な人を守る近衛兵ごっこがしたいというか」
「わたしをアンリさんみたいにしないでください。あ、いえ、そうです。近衛兵ごっこです」
僕が王族なのは内緒。だから変な遊びをしてるってことで誤魔化そう。
ティナはものすごく不満そうだけど。本物の近衛兵だから。
「そ、そうか! 楽しそうだな! それより、お前たちのことは心配しないでいい。ドラントなんかに手は出させないし、祭りもしっかり楽しませてやる」
「本当ですか?」
「ああ! ドラントが騒ぎ出した時点で、仲間が何人か治安管理の兵士に話を付けに行った。ドラントが何を言っているかは兵士から上に報告が上がるし、今から俺たちが噂を流す。街中の酒場で、ドラントが何を口走ったか大声で話すんだ」
噂だけど真実が、大勢の人の耳に入るわけだ。城主の息子の横暴と痴態を。
街が楽しみにしている祭りを中止にするとまで言い出せば、市民たちは怒りと共に話を広げる。当然、城主の耳にも入る。
下手に動けば民衆の怒りに火を注ぐだけ。他の時期なら支配者の強権で抑え込むことも不可能ではないだろうけど、祭りが絡むとさすがに無理だ。
そもそも悪いのはドラントなのだし。
「だから安心して、堂々と街にいろ!」
「はい。ありがとうございます。助かります」
「助かったのは俺たちの方だよ、ヨナ様!」
「あの。その呼び方は恥ずかしいので、やめてくれると助かります」
「ヨナ様は恥ずかしいって思われてたのですか!?」
「ティナはいいの。でも話がややこしくなるから、ちょっと静かにしてて」
「はい! ヨナ様の近衛兵! ティナは静かにします!」
「だから。……リーサさん。大丈夫でしたか?」
ティナは置いておいて、ずっと黙っているリーサに声をかける。
暗い顔をしていた。男に掴まれて怖かったとか、それだけではない様子だ。
「一緒に帰りましょう。今日の夕飯はティナが作ってくれます」
「はい! わたしが作ります! ではジェゾさん、皆さん、わたしたちはこれで失礼します」
ティナがぺこりと頭を下げると、準備会メンバーは手を振って答えた。ジェゾはリーサの手を握り、また明日と声をかける。




