4-35.横恋慕
今度はティナが顔を赤くして、恥ずかしそうに話す。
「ご、ごめんなさい! さっきは詳しいみたいな話し方をしてしまいました……」
「ううん。気にしてない」
「でも、ヨナ様が好きになった相手のことを応援したいのは本当なので!」
「わかった。わかったから」
「わたしヨナ様第一なので!」
「それは嬉しいけど」
鼻息荒く迫ってくるティナから一歩引きながら、リーサたちの方を見た。
なにか異変が起こっていた。
「ねえ、あれ」
「高そうな馬車ですね。お金持ちのものでしょうか」
庶民的な住宅街には似合わないような馬車が集会所の前に止まった。屋根と壁に覆われた、外からは中が見えないタイプのものだ。
なんだろう。この近くに、金持ちに用事がありそうな物はないと思うけど。
邪魔をしないように、ふたりでそっと近づいていく。
馬車から降りてきたのはドラントだった。
それから取り巻きらしき男が三人、続いて降りてきた。みんなドラントと同じくらいの歳で、貴族らしい。
「やあやあ。準備会の諸君。頑張っているか? 視察に来てやった」
準備会の面々は、城主の息子の突然の来訪に戸惑っているようだった。けれど権力者なのは間違いない。あまり敬意は感じられないが、お辞儀をした。
ドラントは気をよくしたらしい。リーサの方に近づいていく。
「やあ、リーサ。今日も元気だね」
「こんにちはドラント様。昨夜はどうも。姉は、挨拶できなかったことを悔やんでいました」
「そうか、後で手紙でも送っておこう」
こいつ、明らかにナーサには興味ないな。婚約者なのに。
興味がない対象はもうひとり。
「ホイは、旅人の皆様が教育をしてくれることになりました。お祭りの日までの短い期間ですけれども、彼が人間らしい暮らしができるように試みています」
「うん。そうか……」
自分が連れてきたホイに関しても、この通りだ。ならば彼が興味を持つのは。
「リーサ。君は元気かい?」
「へ? わたしですか? はい、お陰様で……お祭りの準備も進んでいます。セイホラン様の像、ご覧になりますか?」
なぜ自分のことを訊かれたのかわからず、釈然としない様子のリーサ。しかしドラントは彼女の戸惑いに気づかない。
「いや、いい。どうせ出来ているのだろうから」
こいつ。視察に来たんじゃなかったのか。隠れて見ている僕の声は、もちろんドラントに届かない。こちらに気づきもしない。
「それよりもリーサ。俺は君が心配だ」
「わたし、ですか?」
「ああそうだ。庶民に混ざって祭りの準備をするのは立派だ。しかし君はもうすぐ貴族の仲間入りだ。男爵なんて低い地位であっても貴族は貴族だ。俺の言っていることがわかるか?」
「い、いえ。よくわかりません……」
「庶民とあまり仲良くするのはやめておくべきだと言いたいんだ。君は彼らとは違う」
その瞬間、周りの空気が変わった。
ドラントとリーサの周りにいるのは、その庶民たちなのだから。自分たちを馬鹿にした発言をされたことを、彼らはよくわかっていた。
もちろん、リーサの隣にいるジェゾも。権力者の手前、顔には出さなかったけれど、明らかに苛立っている。
ドラントだけはそれに気づかないのか、話し続けていた。
「君が交流を持つのは俺たち貴族だ。こんな場所にはいてはいけない。さあ、家まで送ってあげよう」
「あっ。やめてください。離して!」
リーサの腕を掴んで集会所から連れ出し、馬車に乗せようとするドラント。こいつは、リーサを連れて行くために来たのか。
嫌がるリーサを助けるべく、ドラントの肩をジェゾが掴んで止めた。
「おい。やめろ。嫌がってるだろ」
「……お前は誰だ?」
「見ればわかるだろ。準備会だ。お前が今、庶民だと馬鹿にしてた相手だよ。そんなこともわからないのか、馬鹿が」
貴族に対して謙らず、堂々とした物言いのジェゾ。一方、不遜な態度を取られたと感じてドラントも眉間に皺を寄せた。
「庶民が無礼だぞ。言葉に気をつけろ。俺が誰だか、馬鹿な庶民でも知らないわけがないだろう?」
ドラントが言えば、取り巻きたちが笑った。が、ジェゾも負けてない。
「知らないな。お前は城主の息子に似てるが、貴族ってのはもっと品がある人間だと聞いている。きっと別人だ。お前は格好だけ真似た猿だろ?」
今度は準備会の若者たちが笑う番だった。
ドラントは怒りでプルプルと震えている。自分が笑われるのは我慢がならない性格らしい。
目を吊り上げて怒りの形相を見せると、拳を握りしめてジェゾの腹を殴った。
「うぐっ!?」
「ジェゾ!?」
うずくまるジェゾと、それを気遣いしゃがんで声をかけるリーサ。
ドラントはそれも気に入らないらしい。自分が好きな女が、他の男に目を向けている。腹いせとばかりに、ジェゾを蹴飛ばした。
当然、周りもそれを見ているだけではなく、準備会の男たちが止めるか反撃しようと動きかけて。
「動くな!」
ドラントが先手を取って声を張り上げた。
「俺は城主の息子だ! 次の城主だ! お前らの支配者だ! その気になれば兵を動かして、お前たちを反逆者として捕らえることもできる! それに祭りを中止にすることだってできるぞ!」
なんて横暴だ。城主の息子とはいえ、許されることじゃない。そんなことは準備会の者たちもわかっているだろうけれど、相手が権力者であることを恐れてもいて、動けないでいる様子。
彼らはこの街の住民で、これからずっと権力に目をつけられるのは避けなきゃいけない。




